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24.呪怨

 しかしながら、到底かないそうもない夢や希望というのは、抱かない方がマシなものだ。

 結局酔い潰れた魔法使いのヒナタを背負い、民主主義防衛英雄グランドマザーの婆さんの家に帰る道すがら、俺はそんなことを思った。


「おっ、ゾンちんさん。本日もご苦労様ですねえ」


 途中で出遭った夜回りの武装警察が半笑いで挨拶してくるのを、俺はシカトして魔法使いのヒナタと婆さんの家を目指す。


「あいつらこの前も一緒だったけど、付き合ってんじゃね?」

「てか同じ屋根の下で暮らしてんだから、もう夫婦みたいなもんじゃね?」


 職務中の私語は小さい声でしろ! ばっちり聞こえてんだよなあ!?

 そう怒鳴りつけてやってもよかったが、相手にするとますます面倒臭いことになると思ってやめておいた。

 しっかし問題は魔法使いのヒナタのことだ。

 前世で見たドラマか映画か何かで、「叶わなかった夢は一生の呪いになる」なんてセリフがあった気がしたが、そのとおりだ。

 子供の頃からずっと抱いてきた夢は、なかなか諦められない。

 そして客観的に見て叶う見込みの薄い夢や希望を追い求めて、失敗してしまうやつを俺は前世でいくらか見てきた経験がある――気がする。


「すぅーすぅー」


 そして現世。

 背中で寝息を立てている魔法使いのヒナタは、冒険者としての名声を得たいと思っているが、同じパーティメンバーとして見ても、第三者的な視点から見ても、それが無理だということは明らかだった。

 勿論、宇宙飛行士や作家、俳優、スポーツ選手ならいくらでも目指せばいいと思う。

 人生の短くない時間を無駄にすることになるかもしれないが、少なくとも死ぬことはない。

 だが彼女が目指すのは、戦功や偉業を成し遂げる優秀な魔法使いだ。

 才能と実力が生死を分ける冒険者稼業――彼女がこのまま冒険者を続ければ、間違いなく命を落とすことになる。


「う゛っ」


 ここは止めるべきか。


「う゛ぇっ」


 それとも好きにやらせるべきか。


「お゛ろろ゛ろろろろ゛ろ゛ろ゛」


 お゛ろろ゛ろろろろ゛ろ゛ろ゛っててめえ、人の背中でゲロ吐いてんじゃねえ!!!!!!!


◇◆◇


「おかえりなさい、遅かったわねえ」


 フィッシュ&チップス&ビール製のゲロと、ゲロ塗れの泥酔魔法使いを背負い、ほうほうの体で帰ってきた俺を、ランタンを持った婆さんが玄関口で迎えてくれた。


「酷い目に、遭った」

「見ればわかるわよ、ゾッちゃん」


 ああ、見ればわかるだろうな。

 そのあとはお決まりのパターンだ。

 ゲロ塗れの彼女の口周りを拭ってやり、乾燥したゲロがこびりついた長衣ローブを脱がせて、ベッドへ転がしておく。


「ごめんねえ、あの娘にはよくよく言い聞かせておかなきゃねえ」


 俺が一仕事を終えて寝ようとする時分になっても、まだ婆さんは食卓に座っていた。

 わざわざキャンドルに火を点けて、手紙か何かを読んでいたらしい。

 爺、婆は早寝早起きなもんだと思っていたが、この異世界では違うのか。


「さっき警察予備隊の関係者が来てねえ。世間話をしたんだけど、どうやらアヴァトリアの帝国主義者どもが何やら悪だくみをしてるみたいなの。この前の化学物質の強奪騒ぎといい、どうも工作活動やら威力偵察やらが計画されてるみたいねえ」


 婆さんの言葉に、俺は素直に感心した。

 やっぱり英雄ともなれば、歳をとっても頼りにされるもんなんだな。

 それから聞き捨てならない言葉が出てきた。

 アヴァトリア、と言えば人類至上主義を掲げる覇権国家だったか。


「また戦争に、なるのか」

「さあ。まあ戦争になるときはわかるよ。だいたい大規模な演習が前触れにあるからねえ。……さて。次は生き残れるかねえ」

「生き残れるか? ヒナタ、のことか?」

「ヒナタ? まああの娘もそうだねえ。ちなみに私は、無理に冒険者を辞めさせる気はないよ」

「……」

「ヒナタもゾッちゃんも、好きにやればいいんだよ」


 魔法使いのヒナタに対する婆さんのスタンスは、揺るがないらしい。

 さて。どうするか……。俺が他人の人生に口出しするなど、驕りもいいところだが、だがしかしここで口を挟まないというのも、それはそれで違う気がする。

 やはり冒険者を辞めるようにアドバイスして、あとはヒナタ本人に任せるのが1番だろうか?


 そんなことを考えているうちに、夜は更けていった。

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