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23.飲酒からの口論X


「乾杯ぁーい!」


 しかしながら冒険者という人種は不思議なことに、酒が供される打ち上げが大好きである。

 廃城での一稼ぎを終えた俺たちは、認識票の更新と報奨金の受け取りを済ませると、金髪傲慢クソエルフの提案もあり、冒険者管理委員会事務所ギルドの一角で酒盛りをはじめた。


「酒量、おさえ、ろよ」

「ぶうっ――も、もちろんですよ! 二度とあんなことしませんっ」


 冒険者管理委員会謹製の激安ビールを噴出しながら、隣に座る魔法使いのヒナタは、バンバンと俺の肩を叩いて抗議する。

 それを見ていたエイシアは、「へえーあんたお酒飲めるんだあ」と言って、にやりと笑った。


「酒量勝負しない? どっちがたくさん飲めるか」

「やめときますよ……」

「なによぉやっぱつまんない魔法使いね――冒険も魔法も駄目で飲酒も駄目だったら、なにひとついいところないじゃない」

「意味わからないですよ。きょうは絶対飲み過ぎないようにするんですから」


 半ギレ気味でツッコミを入れる魔法使いのヒナタは、そう言いながらもジョッキのビールを飲み干して、近くの職員へビールのお代わりを要求。

 きょうは絶対連れて帰らねえぞ、と思っているとエイシアは勝負を俺に持ちかけてきた。


「じゃあ、あんたは? ゾンちん、勝負しない?」

「しない」

「ちぇっ、英雄譚とか物語ではよく酒場で酒飲み対決して、周囲の注目を集めるシーンがよくあるのになあ」


 小声でそう呟くのを聞いて、やはりこいつはアホだと俺は思った。

 しっかし本当にこの事務所の連中から注目を浴びるほどの酒豪なのか――酔い潰れがふたりも出るのは勘弁願いたいものである。

 その後、とりあえず打ち上げは平穏に進んでいった。

 クソエルフは自分では食べられもしない量のつまみを頼み、結局それを俺に押しつけるという暴挙に出て、さらに酔っ払った魔法使いのヒナタは最初の誓いはどこへやら、かなりのペースで酒を頼んでいく。


「そういえば聞きたかったんだけどぉ~」


 金髪碧眼傲慢クソエルフが頼んだ大量の料理の処理に追われていると、アルコールが入って顔面を真っ赤にした無礼講クソエルフと化したクソエルフが、ふと切り出した。


「ふたりはなんで冒険者やってるわけえ?」

「生き、るため」

「あっそ。じゃあんたは!?」


 俺の嘘偽りない答えはよほどつまらなかったらしく、クソクソクソエルフは唇を尖らせて、魔法使いのヒナタに話の水を向けた。

 するとヒナタは迷いなく、堂々、「民主主義防衛英雄であるおばあちゃんの娘だからです!」と言ってのけた。


「私は魔法が大好きだし、おばあちゃんの娘だし、だから魔法使いやってんですよ!」


 魔法使いとして大成し、民主主義防衛英雄となった婆さんへの憧憬か。

 戦災孤児であった彼女は、あの婆さんと魔法に憧れて冒険者の道を志した、ということなのだろう。

 ところが金髪碧眼傲慢クソエルフは、自分のジョッキの中身を飲み干すと、爆弾発言を繰り出した。


「あんた冒険者の才能ないから、やめたほうがいいわよ」


 瞬間、卓の空気が凍結し、絶対零度のどん底まで冷え切ったように感じられた。


「なんでそんなこというんですか」


 まずい。

 声の調子こそ冷静だが、魔法使いのヒナタは完全にキレている。

 だがよせばいいものを、空気読まない系エルフは逆ギレ気味にさらなる爆弾発言を放り込んでいく。


「事実よ。あんたこのまま冒険者続けてたら、絶対死ぬから」


 元日本人の俺としてはこういうガチ意見を言い合う場は、大変苦手である。


「そんなの……わからないじゃないですか」

「あんたが死んだら絶対その婆さんは悲しむ、だったらそうねえ――」


 にやりとクソクソクソエルフが笑う。


「ゾンちんとくっついて専業主婦でもやるのがいいんじゃないかしら」


 次の瞬間、俺は顔面から目の前の料理に突っ込んでいた。

 意味がわからない。

 フィッシュ&チップスの油でギトギトになった顔面を上げた俺は、遅れて状況を理解した。

 隣に座る魔法使いのヒナタが、思いきり俺の後頭部をぶん殴り、無防備だった俺は顔面を城塞都市お馴染みのクソ料理に突っ込んでしまった、というわけだ。


「だ、誰がこんな、は、破廉恥ゾンビと!」


 怒りと恥ずかしさで声が震えている暴力系魔法使い。

 その様子が面白かったのか、クソクソクソエルフは追撃の手を緩めない。


「そんなこと言ってぇ~底辺冒険者同士でお似合いだと思うけどねえ~」

「殺されてえかてめえ……」


 ついに堪忍袋の緒が切れた魔法使いのヒナタが、ジョッキグラスを持った方の腕を思いきり振り被る――クソクソクソエルフに投げつける気か!?


「この――ちょ、ちょっと! なんですか!?」


 ジョッキ代の弁償が御免の俺はすばやく彼女に抱きついて、そのジョッキグラスの投擲を阻止する。


「このっ、は、放してくだひゃい!」

「やだっ! こんなところでおっぱじめないでよ!」


 ……こいつら全員殺してやりたい。

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