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17.武装警察隊と武装警察予備隊

「定期演習期間中にこのザマだ、中央や他の地方都市の連中から後ろ指さされて笑われるぞ」


 地下に存在する『セカンダル・アナクロニムズ』市長官邸は、世界最強の攻撃魔法、【魔力分裂ニュークリア】が直上で炸裂したとしても耐えられる堅牢さを誇っており、有事の際には要人が集合して対応に当たることになっている。


「しかしまあ武装警察予備隊が動員されているこのタイミングで行動を起こしてくるとは、われわれも舐められたもんだな。俺の面目も丸つぶれだ。帝国主義者どもめ、最後のひとりまで皆殺しにしてやるぞ」


 その市長官邸の最奥部。

 張り紙ひとつ張られていない殺風景な小会議室に、第66代アナクロニムズ市長を務める老蜥蜴人間リザードマンの悪態が響く。

 さらにその枯れ枝のような青い指で、苛立たしげに机を叩いた。


(さすがは面子と次の選挙戦を気にされている市長どのか)


 それを他の出席者は冷ややかに見つめている。

 現市長の彼、アイドレスは共和国武装警察隊の元幹部であり、現役時代の英雄的功績を武器に、「警察力の充実・治安の維持と向上」を訴えて選挙戦に勝利した男だ。

 他に取り立ててセールスポイントのない彼が、安全保障上の問題で失点することは到底許されることではない。


「いいか、情報を取るための数名を残して、あとは射殺して構わん。市民が求めているのは、“有事の際に信頼できる武装警察隊・武装警察予備隊”、“侵略者に対して苛烈な武装警察隊・武装警察予備隊”なのだからな」


 焦燥と憤怒から工作員への対応方針を念押しする市長に、武装警察隊と武装警察予備隊の幹部たちはうなずいた。

 現市長アイドレスの次期選挙戦など知ったことではないが、化学物質を強奪した連中が市内で活動していることは、彼らにとっても屈辱である。

 特に他国の“職業軍人”にあたる武装警察隊幹部は、自身の首がかかっている。

 鈍色の武装警察制服を着た大柄の――そして、人間の――男が立ち上がると、現状を報告した。


「第11機動隊と銃器対策部隊は、18名の負傷者を出しながらも工作員の封鎖線突破を許さず、包囲環を狭めました。しかしながら追い詰められた工作員は、アナクロニムズ市衛生研究所へと後退し、研究員を人質に立て篭もった模様です」

「さっさと化防(化学防護隊)を突入させてケリをつけろ」

「お言葉ですが」


 市長の乱暴な言葉に反応し、ひとりの亜人がその赤い手を挙げる。

 服装は武装警察の制服でも、警察予備の戦闘服でもなく、宗教的な衣装――山伏の格好。

 明らかに人間種ではないと分かる赤い表皮、衣装の下からでも分かる分厚い筋肉の存在。そしてそそり立つ長い鼻。

 彼は六道輪廻から外れた外道てんぐ、そして警察予備隊第11師団長であった。

 その彼は、言う。


「工作員は自動小銃で武装しており、第11化学防護隊単独の突入では、大量の死傷者が出る可能性があります。第11魔術連隊の到着を待ってから、第11化学防護隊を突入させたく――」

「そんな悠長に構えている時間はない。多少の犠牲には目を瞑れ」

「第11化学防護隊に配されている魔術士の定数は最低レベルです、最悪の場合取り逃がす可能性もあります」

「そのとおりだっつーの」


 さらに末席に座る鬼が、半ばキレ気味に彼を掩護する。


「つーかさっさと冒険者管理委員会に銃器を解禁しろっての! そうすりゃ警察予備隊でも銃器が運用出来るようになる、警察力はトータルで向上するんだって!」

「いまは銃器と魔術に関する慣例について話をしている場合ではない」


 平時の治安維持は共和国武装警察隊が担い、有事の際には召集された冒険者たちが共和国武装警察隊の指揮下に、共和国武装警察“予備”隊として加わる――それがこの共和国の建前である。

 が、実際には、武装警察と警察予備は、それぞれ独自の指揮系統を持っており、選挙により選出された首長の下で、両者が連携をとって有事に対応する、という形をとっている。

 そのため、縄張り意識も強い。

 その弊害のひとつが――


“銃器を装備し運用するのは武装警察(=正規の武装警官)のみ、魔術を運用するのは警察予備(=冒険者)のみ”


 という慣例である。

 自動小銃をはじめとする火器は操作習熟に時間がかかり、平時から警官を職業としている者でなければ運用できないこと。また共和国に居住して日の浅い移民も多い冒険者に銃器の保有を許すことは、治安維持の観点から看過できないこと。

 逆に魔術の運用は魔力操作の才能に拠るところが大きく、画一的な組織力を重視する武装警察の装備としては、銃器が専ら好ましいこと。

 ……こうした理由により、武装警察は魔術を、警察予備は銃器を運用しない。

 だが結局のところこの差別化は、両者の縄張り意識に拠る――特に武装警察側の思惑に拠るところが大きい。

 冒険者から成る警察予備隊が銃器を運用するようになれば、いよいよ武装警察隊は有事における存在意義を失う、と武装警察隊幹部は信じ込んでいるのである。


「化防には即時の突入を命ずる」


 議論が紛糾しかけたところで、アイドレス市長が決断的に言い放ち、小会議室を沈黙させた。

 シルヴィス共和国が採用する文民統制のシステムは、選挙により選出された首長を警察力のトップとする。


「善処いたします」


 彼の決断には、共和国武装警察隊も共和国武装警察予備隊も服従せざるをえない。

 警察予備隊第11師団長の大天狗はしぶしぶ頷くと、背後に控える不死術者リッチー――第11化学防護隊長が、掻き消えた。


◇◆◇


「失敗したな」


 人類至上主義を採る『アヴァルトリア帝国』が送り込んだ工作員たちは、武装警察の包囲環を突破できず、さらに武装警察予備隊第11化学防護隊第1122小隊の突撃を受けて後退。

 さらにそのまま増強された武装警察に追い詰められ、彼らはアナクロニムズ市衛生研究所へと後戻り、やむなく研究所職員を人質にとって立て篭もることを余儀なくされた。

 一度事が露見した以上、独力で撤退することはできない。

 人質を盾として数名配置した玄関を見張る工作員たちの表情は、暗かった。


「帝国航空艦隊の救援を待つしかないだろう」

「来てくれますかね」

「……」


 唯一の希望は、世界最強を誇るアヴァルトリア帝国航空艦隊だが――彼らが自分たちのためにこの忌々しい城塞都市に空中強襲をかけてくれるとは、本気で思えなかった。


「くそったれ、いざとなりゃここにある化学兵器を全部ばら撒いてやる。このクソどもめ、なにが平和主義だ。蓋を開けてみれば“死の沼”がかわいく思えるブツを持ってやがる」

「そのために俺らが出張ったわけですから。まあこれだけヤバいものが大量にあることを、向こうも知ってる以上、簡単に手を出しては来ないでしょう――」


 事前に本国でレクチャーを受けたとおり、表向き“感染症や食中毒に関する研究機関”となっているアナクロニムズ市衛生研究所は、化学兵器を製造・保管する研究機関であった。

 相手に攻撃を躊躇させ、時間を稼ぐための篭城先としては、願ってもない場所である――ように彼ら工作員には思えた。


「しかしこの国の連中は、やっぱり度し難い馬鹿どもだよな。入国にしても亡命にしても審査はガバガバで――」


 だがしかしアンデッドから構成される第11化学防護隊からすれば、市衛生研究所は突入を躊躇するような場所でもない――むしろ屋内戦となれば、交戦距離は狭くなるため、銃器を持たない彼らに有利。

 それに気づかないまま、工作員たちはその瞬間を迎えた。


「ん――っ!?」


 ただの一噛み。

 突如として工作員のひとりが白目を剥き、全身を痙攣させて前のめりに倒れ、どうと派手な音を立てた。


「なっ――!?」


 咄嗟に振り向いた他の工作員たちは、痙攣した後に絶命した仲間の足元にゾンビが立っているのを見た。

 どこから入ってきやがった、と悪態をついた工作員が自動小銃を構える――次の瞬間、虚空から続々とアンデッドたちが湧き出し、彼我混濁の格闘戦が始まった。

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