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16.治安出動命令を食らう!(後)

 装備品が保管されている殺風景なロッカー室で、俺とアホみたいな数のアンデッドが大慌てで装備を整えている。怪物たちが腕をフル回転させ、必死こいて着替えているシーンなんざ、傍目から見れば滑稽だろうが、こちとら真剣だ。

 除染任務用の純白の制服から、市街戦を想定しているらしい暗灰色の出動服へと着替え、さらにその上からチョッキ型の防弾衣、脛当て、腿当てを装着。

 いちおう標準装備として、篭手も配備されている。が、ゾンビの俺は格闘戦のときに手指を相手の眼にぶち込んだり、ハートキャッチ(物理)したりしたいので、自由に使えた方がいいので、これは着けない。

 緊急時には包帯代わりになるマフラーを首元に巻いておく。


「ゾンちん、てめえはヘルメット着けない方がいい。相手に噛みつくときに邪魔になる」


 という魔法使いの骨のアドバイスもあり、ヘルメットは置いていく。

 小銃弾に対する防弾性能はほとんどなく、大剣や戦斧でぶん殴られればカチ割れるらしいので、あまり惜しい気にもならない。

 あとは外で鈍色の大盾と警棒を受け取れば、武装完了である。

 しっかしだ。


「じゅう、ある。だいじょうう?」


 化学物質を盗み出した大馬鹿は、自動小銃アサルトライフル持ちだと聞いたが、こっちは拳銃さえない。

 ゾンビ映画の同胞のように、真正面から突っ走って行って頭をぶち抜かれるのだけは勘弁願いたいのだが。

 そんな俺の不安を察したか、魔法使いの骨は「心配すんな」と自分の胸を叩いてみせた。


「なんのために俺がいると思ってんだ。矢避けやら防御の魔法は任せとけ」


 ホントかよ。この世界で魔法といえば、非常食が使ってた【火焔ファイア】と【魔弾ボール】しか見たことないが、銃弾を防いだりする便利な魔法なんてあるのか……。

 とりあえずいまは魔法使いの骨を信じるほかない。

 だがやはり不安なものは不安だ。前世じゃ銃口を向けられたり撃たれたことはもちろん、実銃を見たことさえない。

 まあ俺はまだマシか――と思いながら、視線をスライドさせる。

 そこには標準装備をなにひとつ付けられない黒い粘液やら、西洋甲冑がいる。

 ……まあこいつらは銃弾をぶち込まれたとしても、死ななそうだし大丈夫か。


 問題は相棒キョンシーである。


 身体が小さすぎて最小サイズの装具さえ付けられず、いちばん頼りになりそうな大盾さえ持てないときた。

 何を考えているか分からない彼(彼女?)は、棒立ちでただただ出動の時を待っている。

 しょうがないので、あいつは俺の後ろを付いて来させるしかないだろう。


「行くぞ、化学防護隊の錬度を見せてやれ! 準備を整えた分隊から外へ出ろ!」


 鬼小隊長の首無騎士デュラハンの叱咤に励まされ、完全武装した他の分隊の連中が続々と外へ出て行く。


「これくらいの小競り合いなんてしょっちゅうだろうが、びびるこたあない。よし、俺たちも行くぞ」


 魔法使いの骨を先頭に、俺たちも走り出した。

 まだこれも訓練の一環なんじゃないか、だとか、相手は20人くらいでこっちは大勢なんだから実際に戦ったりとかしなくてすむんじゃね、とか甘いことを考えていたが――いよいよ覚悟を固めるときか。

 ロッカールームの表で、物の役にも立たなそうな警棒とクソデカ大盾を受け取ると、そのまま小隊単位で集合し、小隊全員で歩調を合わせて走りはじめた。


「自由の城塞ここに在り

 一百族いっぴゃくぞくが集う街

 絆の固き我が戦陣

 民意の力集めいざ」


 走っている最中、いつぞやか誰かが歌っていた軍歌が頭の中でリフレインしていた。


◇◆◇


 銃声、怒号、爆発音。


 非日常的な騒音が、腹に響く。

 武装警官と工作員の間で激しい銃撃戦が生起している。建物の陰に身を隠しながら、滅茶苦茶に連射してくる工作員――対して封鎖線を維持しようとする武装警官の中には、撃たれたのかうずくまっている奴もいる。

 化学物質を強奪した連中が行動中の問題の街区は、第11化学防護隊の駐屯地からそう離れていなかったため、俺たちはすぐに現場目前まで――工作員と武装警官による銃撃戦の手前まで、すぐに駆けつけることができた。

 突っ込んでいくのか、いや撃たれた武装警官を救護するのが先か。

 どうするのか、と考えていると先頭を往く小隊長が怒声を張り上げた。


「突撃するッ――【矢弾避け】!」


 あのバリバリ撃ちまくってるところへ、真正面から突っ込んでいくのか――無謀とも思えるが、撃たれて動けない奴もいる。さっさとあいつらを排除するには、それしかないか。

 小隊内の魔法を使える奴らが、一斉に【矢弾避け】を詠唱。


「ウオォオオォオオオオオオ――!」


 そして俺たちは疾駆する先頭の小隊長に合わせて、全力疾走で駆けに駆けた。

 時折、足元でピシピシと銃弾が突き刺さる音がするし、頭上の空気を裂いて弾丸が通過していく音がするが、あまり気にならない。

 こちらに銃口を向けていた連中は、すぐに自身の不利を悟ったのか。

 距離がある内に逃げる算段か、背中を見せる。


 が、ひとりだけ、こちらに正対したまま――長い棒状の物をこちらへ向け――!


「汝、人種ひとしゅ導く風の衝撃――!」

「【爆風ブラスト】来るぞッ、伏せろ! 伏せろ!」


 小隊長の怒号。

 考える間もなく俺たちが反射的に伏せるのと、遥か前方に立つ殿の魔術士が「【爆風ブラスト】!」と怒鳴るのはほぼ同時だった。

 轟々襲い掛かってくる爆音、身体が浮き上がるのではないかと思う衝撃――それが過ぎ去るのを、俺はただただ地面にキスして待った。


「無事かッ!?」


 風が止んだ。【爆風ブラスト】――講義された覚えがある、秒速何メートルだか知らんが、アホみたいな速度の暴風を解き放つクソ魔法だ。

 土煙の中で頭を上げると、みな死に体で地面に張りついている。

 幸い、ウチの分隊で吹き飛ばされた奴はいない。

 しかし一方で、連中はどうやら俺たちが伏せている隙に逃げ出したらしい。【爆風ブラスト】を使ったくそったれも、視界から消えていた。


「よし、立て立て立て立て! 分隊ごとに点呼しろ!」


 小隊長の命令に、埃を払いながら立ち上がる。しかしヤバかった。あの【爆風ブラスト】を棒立ちで食らってたら、遥か後方までぶっ飛ばされてただろう。


「円陣防御を組め。これより我が小隊は負傷している武装警官の救護活動に入る」


 連中をすぐに追跡したいところだが、こっちが先か。

 しっかし転生早々、とんでもないことに巻き込まれたものである。

 国防に協力することがこの国で生きるための資格である以上は、仕方ないが。

次回更新は5/24(水)予定です。

あと1・2話でこの演習のくだりの話は終わりにして、3話や8話のようなのんきな話が書ければなあと思っています。

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