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14.仲間たちと食らいあう!

 しっかしある意味で壮観だな。

 右を向けば、相棒のキョンシー。左を向けば、中身のない大鎧。

 右前方にはアホみたいにデカい犬歯を持った吸血鬼、左前方には黒い粘液の塊。

 そして真向かいには、魔法使いのローブを被った骨。

 なるほど、事前に婆さんに聞いていたとおりだ。全員がアンデッドかはともかくとして、どうも毒ガスやら即死魔法やらに強そうな連中ばかりである。

 前の席に座る骨の魔法使いなんざ、肉も内臓もついてないんだ。

 化学兵器も細菌兵器も放射線も怖くはないだろうな。


「んだよ、人をまじまじ見つめてんじゃねえ」


 見つめられたのに気がついたのか。

 向かいに座る骨が、骨だけの指で苛立たしげに机を叩く。

 俺と同じ分隊に所属する同僚のこの魔法使いの骨は、食事中はいつも暇を持て余している。

 なにせ骨だけだから、バシリスクの生血や内臓を出されたところで、それを食する術を持たないのだ。

 だから骨の前には、まだ手がつけられていない肉塊がどん、と無傷で置かれたままだ。


「それ、くれ」

「しょうがねえなあ」


 声帯を持たないために、魔力で空気を震わせて発声する器用な骨は、バシリスクの肉塊を載せた大皿をこっちに押し付けてくれた。

 本当にありがたい。

 自分の分を食い終えた俺は、骨がくれた肉へと手を付けていく。


「しかし知性あるゾンビかよ、珍しいな」

「そう」

「普通は知性なんざ芽生える間もなく、冒険者に駆除されるもんだぜ。思考や理性を身につけられたとは、相当幸運だな」

「そう」


 カカカと笑う骨に、「お前は脳味噌がない癖にどこで考えたりしてるんだよ」、と突っ込みたかったが、それよりも肉を食らうのが優先順位が先だった。

 バシリスクの肉は鶏肉を思わせる淡泊な味わいであり、量を食べなければ満足はできない。

 血をすすって渇きを癒しながら、さっぱりとしているがどこか物足りない怪物の肉を食らっていく。

 ただし鈍色をしたバシリスクの内臓は、例外的にかなりうまかった。

 ここだけは内臓特有の臭さと濃厚な味わいがぎゅっと凝縮されており、人間が食らえば死亡を免れないと知っていても抵抗なく、そしておいしく頂けてしまう。


「よくまあバシリスクの内臓など、平気で食べられますねえ」


 内臓を頬張っている俺に話しかけてきたのは、右前方に座る吸血鬼だ。

 こいつの偏食グルメぶりには、こちらも少々呆れるほどである。

 そのクソデカ犬歯を使えばいいものを、この吸血鬼の飯の食い方はこうだ。

 万力みたいな腕力を活かして肉塊を、雑巾絞りの要領で絞ってしまい、血液だけを胃へ流し込む。

 他のアンデッドたちの食事方法も盗み見たりもしていたが、やはり種族ごとに食事の作法が違いすぎる。

 左前方の席にかけていた黒い粘液状の彼なんかは、皿の上まで腕(?)を伸ばすと、そのまま体内へと肉塊を呑み込んで消化している。

 その光景に違和感を覚えるのは、やはり俺が多種族共存を是とするシルヴィス共和国の異種族文化に、まだ馴染めていないからだろうか。


「内臓は臭くて臭くてかないませんよ」


 吸血鬼は血を絞りきった後の肉塊と心臓、そして手さえつけていないその他の臓器を放置して、鼻をつまむジェスチャーをしてみせた。

 前世ではニンニクが弱点の吸血鬼だが、やはり臭いがキツいものは駄目なのか。

 そんなことを考えていると、骨の魔法使いが「じゃあそれはこいつにやっとけよ」と、骨だけの手で吸血鬼が残した肉を掴むと、その隣の黒い粘液の塊へと落とす。


「♪」


 歓喜の叫びを上げる黒い粘液の彼。

 こいつがこの世界のスライムってやつだろうか?

 前世のRPGに登場するスライムといえば、最弱クラスの敵である。

 が、この黒い粘液はなんでも呑み込んで、なんでも消化してしまいそうだ。たぶん駆け出しの冒険者では歯が立たない。剣や槍といった得物奪われ、身体を絡め取られて消化されるのがオチだろう。

 ちなみにこの黒い粘液の彼、除染作業においては汚染された表土や、汚染物質自体を呑みこみ、消化してしまうウチの分隊きってのエースである。


「おぞましい」


 黒い粘液の彼の食事に、率直な感想を漏らした吸血鬼。

 この面子の中でいちばん人間に近い姿形をしていて、感性も人間に近いのは彼だろうか。

 そんなことを考えながら、次の内臓に手を伸ばそうとすると、指が空を掴んだ。


「あれ」


 いつの間にか、すべて平らげていたらしい。


「これ、ちょう、だい」


 そこで今度は左隣の奴に、肉塊を譲ってくれるようにお願いした。

 左隣の奴は前述のとおり、中身がない西洋甲冑である。

 前世のRPGで言えば、“さまようかっちゅう”であろうか。

 当然、胃腸がないために、バシリスクの肉を食して消化することはできない。

 そんなわけで彼の前にはバシリスクの内臓や肉が、手もつけられないまま置いてある。


「くれ」


 再び催促すると、西洋甲冑は耳障りな金属音を鳴らしながら、皿をこっちへ押しやってくれる。


「ありがと」


 しかし筋肉もないくせに、どうやって身体を動かしているのやら。

 俺のお礼に対して甲冑は「どういたしまして」とでも言うように、控えめに手を振ってみせる。

 ちなみに声帯がなく、魔力操作もできないため、この甲冑は喋ることが出来ない。


 さて。

 甲冑からもらった肉を食らいながら、視線を右へずらすと、そこには緩慢に食事を続けるキョンシーがいる。

 まったく食欲が掻き立てられない痩身。

 死人を連想させる――というか実際に死人の――青白い肌。

 色素が抜け落ちたような銀髪。

 ……正直、同じ分隊の中ではこいつがいちばん読めない。

 お札で顔が隠され、表情が分からないのもあるが、口があるくせに喋ったところを見たこともなかった。

 同じ冒険者である以上は、何かしら特別な技能を持っていそうだが、その片鱗を見せたこともない。

 どうも体格といい行動といい、女児とあまり変わらないのではないか、とさえ思い始めている。


 残りの演習期間を彼(彼女?)と乗り切れるか考えると、正直かなり気が重い。

次回更新は5月21日(日)を予定しています。

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