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12.召集令状を食らう!

そろそろ本格的に主人公を強化していきたいです。

【定期演習召集令状】


共和国冒険者管理委員会

乙種登録冒険者『ゾンちん』


 上、定期演習召集を命ずる。

 下、日時にこの令状を持ち、事務所へ出頭すべきこと。


【日時】共和国憲法発布686年 4月初日


【期間】同年4月初日より4月14日まで


【配属】共和国武装警察予備隊・第11師団『アナクロニムズ』隷下第11化学防護隊




 受付嬢とのデート(?)の翌日のこと。

 質の悪い紙に印刷された召集令状とやらが、婆さん宅に届いた。

 ここで俺がいちばん面食らったのは、召集令状を受け取ったことではなくて、召集令状に記載されている名前が、ゾンちん、であったことだ。

 前世では所謂「キラキラネーム」「DQNネーム」なるものが流行っていたが、ゾンちんはそれらに負けず劣らずやばいだろう。

 公文書に載っていい名前では決してないし、間違いなく配属先で自己紹介をして浮くことになる。あーやだやだ。自己紹介したら怖そうな上官や先輩に、「ふざけてるのか」とビンタされそうで恐ろしい。


「で、どこの配属なんですか!?」


 朝食の場で召集令状の文面を確認していると、隣に座る非常食が覗き込んできた。

 非常食は1日寝て、すっかり元気になったらしい。

 特に見られても問題はないので、させたいようにさせてやる。

 すると非常食は「これは珍しいですね」と、半ば驚きの声を上げた。


「第11化学防護隊ですか」


 うん、化学防護隊――化学ってやっぱりここ普通のファンタジー世界じゃねえな。

 というか化学防護隊ってなんだよ。

 普通、俺みたいに交換が利く下っ端は、歩兵でしごかれるもんじゃないのか。


「化学防護隊ねぇ。ゾンビのゾッちゃんには適材適所ね」


 配属先についてよく理解できていない俺に、助け舟を出してくれたのは他でもない民主主義防衛英雄の婆さんである。


「相手が攻撃魔法で致死性の強毒を散布してきたり、即死魔法の術者で固めた部隊を出してきた場合、普通の武装警官では対処できないでしょう? そこで矢面に立って除染活動や、即死魔法の術者を排除するのが化学防護隊。構成員のほとんどは、毒や即死魔法に耐性のあるアンデッドねえ」


 なるほど。俺みたいな死体は、RPGで言うところの『状態異常:毒』『即死系攻撃』に強いから、それに対応する専門部隊に配属されるってわけか。

 確かにゾンビなら毒ガスや細菌兵器が撒かれている中でも、ガスマスクなしで活動出来そうだ。

 ……って、いやいやいやいや。だが待てよ。

 本当に俺って毒とか即死に耐性があるのか?

 確かに前世のゲームや漫画、小説ではアンデッドは毒や即死に対して抵抗力がある、みたいな設定は一般的だったけれども、俺にはそういう耐性がある実感はまったくない。


「どく、だいじょうぶ――ほんと?」


 びびって聞いた俺に、婆さんは微笑んだ。


「ゾンビは毒性に対して強い抵抗力を持っていることは間違いないわ。中毒死したって話も聞いたことないわねえ。実際、ネズミみたいな不衛生な動物や、仕留めた獲物を生で食べても、ピンピンしていられるのがその証明ねえ」


 言われてみれば、確かにそうか。

 現在の俺は、前世では到底考えられない食生活を送っているにもかかわらず、体調を崩したことなど1度もない。

 さて。ゾンビが毒に対して耐性を持っている、という話について、妙に納得がいった俺が次に興味をもったのは、隣に座る非常食の配属先であった。

 彼女も冒険者である以上は、召集がかけられているはずである。

 ところが俺には、彼女が軍隊生活をやっていけそうな感じがまったくしなかった。


「はいぞく、どこ」


 聞いてみると、非常食は素直に召集令状を見せてくれた。


「本当は魔術連隊ならよかったんですけどね……」




【定期演習召集令状】


共和国冒険者管理委員会

甲種登録冒険者『ヒナタ・キルミスタ』


 上、定期演習召集を命ずる。

 下、日時にこの令状を持ち、事務所へ出頭すべきこと。


【日時】共和国憲法発布686年 4月初日


【期間】同年4月初日より4月14日まで


【配属】共和国武装警察予備隊・第11師団『アナクロニムズ』隷下第11補給連隊




 第11補給連隊――なるほど彼女の実力からすれば至極真っ当か。攻撃魔法を使うような部隊の配属ではないようだ。

 補給連隊ってのは、弾薬や食料を確保したり、運搬したり、配布したりする部隊のことだろうから、とりあえず前線で戦う戦闘部隊よりは安全なはずだ。

 もちろん、戦功を挙げられるような部署ではないから、不人気といえば不人気なのかもしれない。

 だが――。


「いつも言ってるけどねえ、補給部隊を馬鹿にしちゃあいけないよ」


 前世の知識を引っ張り出していると、婆さんが不満げ顔の非常食を諭しはじめた。


「現代戦争では補給部隊が1番大事なのよ、実際に前線で戦う部隊よりもよっぽどねえ」


 まあよく考えなくてもわかる話だ。

 この城塞都市を防御する人間が何人いるかは知らないが、その彼らの飲食やその他諸々の世話を誰かがしなくちゃいけない。物資の確保と分配、輸送には膨大な人手が必要になるが、これを軽視してはいけない。前世の世界にかつて存在した大日本帝国陸海軍が大失敗をやらかしたのは、後方から前線への輸送がうまくいかなかったからだっただろう。

 現地調達や敵から奪う、という発想は現代の軍隊では基本的にない。


「わかってるよ、おばあちゃん」


 どこか諦め気味で言った非常食は、召集令状を折り畳んで卓の上に置いた。

 まあ魔法を使う職種になりたければ、もっと研鑽を積むこったな。

 にしても、俺の化学防護隊というのは、楽なのかキツいのか――。

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