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11.5.非常食の後悔!

【非常食視点】

 古ぼけたおもちゃや絵本、魔法書が隅に積み重ねられた小部屋。

 その一角に置かれているベッドの上では、ひとりの少女がばたばたと暴れていた。


(ばかばかばかばか、本当にやらかしたァ!)


 二日酔いからすっかり覚めた少女は、うつ伏せで枕に顔をうずめたまま、足をバタつかせて悶えていた。

 まさか恥ずかしさで死にたくなる日が来るとは――だがいくら後悔しても、すべてが遅い。茶のかかった髪を掻き乱し、ベッドの上でいくらもんどり打ったところで、どうしようもなかった。

 事実は――新たな同居人のゾンビに風呂場で抱きついた、という過去の事実は変えられない。


(しっかもそれだけじゃあないんだよね……)


 あのときは完全に飲みすぎていた。

 少女は自身の醜態を、鮮明にまで覚えている。

 結局、あのあと自力で浴槽から出ることが出来ず、新たな同居人にお姫様抱っこの要領で引き揚げてもらった始末。

 それどころか、だ。

 足元さえおぼつかなかった彼女は、自分自身で身体を拭けなかったため、そこまでお世話になってしまった。

 まるで介護が必要な高齢者である。


(これなら完全に記憶がなくなってた方がよかったよ……)


 泥酔していたにも関わらず、少女は不思議なくらいにあの一連の場面を覚えていた。

 新たな同居人に抱きついて、「ずっとここにいてください」と言った憶えもあり、彼女は(いま考えると軽率だったかな)と反省していた。

 地方城塞都市『セカンダル・アナクロニムズ』を訪れる人々の中には、定住を目的としない旅人も多くいる。仮にゾンビのゾンちん(仮名)が、冒険者登録をした後に他の都市へと旅に出たい、と考えていたのならば、彼女のわがままなお願いは、ただただ迷惑であっただろう。

 本当は「ずっとここにいてください」なんて、言ってはいけなかったのかな、と彼女は思っている。


(でも――)


 彼女は枕を抱き締めると、今度は仰向けになった。

 見慣れた天井、見慣れた染み。

 彼女の鳶色の瞳が、明るく輝いた。


(ゾンビさんと一緒に冒険したい、って気持ちに嘘はつけないよ)


 彼女が最初に彼と出会ったときは、彼に対しては「助けてもらった」という感謝の念よりも、豚鬼を容赦なく殺害して食するあたりから、とてつもない恐怖を感じた。

 だがその後、街まで送ってもらったり、下水道の冒険や昨夜のような失態をフォローしてくれたことを考えると、彼は良い人なんだ、と彼女は思ってしまう。

 頼りがいがあるし、優しい。

 殺した相手を食することは、それは餓鬼ゾンビという種族の生態ならいだということで、彼女は納得しつつあった。

 一緒に冒険してくれる相棒としては、これ以上望むべきことはない。


(だいたい私みたいな駆け出し魔法使いと、一緒に冒険してくれる人なんてそうそういないし)


 彼女は覚えている魔法の種類も、蓄えておける魔力の量も少ない。

 魔力操作の技術も未熟であり、冒険者、魔法使いとしては間違いなく使えない部類に入るであろう。申し訳程度の攻撃力しか持たない【火焔ファイア】と【魔弾ボール】、あとは幾許の雑多な初級魔術を幾つか習得しているだけの非力な少女。残酷だが彼女をパーティに加えることは、戦力的にプラスではなく大幅マイナスであろう。

 パーティ全体としては、彼女を守るために前衛の戦士を割かなければならない。にもかかわらず、彼女には貴重な前衛戦力を割いたことに見合うだけの価値がない。

 そのために彼女は他の冒険者から、冒険へと同行を求められることはほぼなかった。


 それを彼女自身、自覚している。

 このままではシルヴィス共和国を守る魔法使いへ大成するどころか、何も成すことなく引退を余儀なくされるか、野垂れ死ぬかだ。


(もしゾンビさんさえよかったら……ゾンビさんの力を借りて、もっと強くなりたいな)


 ゾンビさんに甘えるのはよくない、と思いながらも、彼女はそんなことを考えてしまっていた。

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