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11.受付嬢のおごりで豚バラブロック(生)を食らう!

「ウチの店はお客様に喜んでいただくことが1番でねっ! そらお待ちどうさま、生豚バラブロック、新鮮な内に食べてくれよな!」


 店主が俺に出してくれたのは、山盛りの豚バラブロック(生)。

 ゾンビの俺としては本当にありがたいよ、豚バラブロック(生)は。でもレストランとしてはどうなんだろうか、と思わざるをえないよな。

 ちなみにすぐ真横の卓では、緑の鱗を纏ったトカゲ男が、皿いっぱいに盛られたミミズを手掴みで貪っている。

 恐るべし異世界。

 恐るべし多種族都市……!


 そして性悪受付嬢の前には、大量の料理と酒瓶が所狭しと並べられている。

 次から次へとボリュームのある肉料理から得体の知れない魚料理まで食らい尽くし、度数が高い酒類を飲み干していく。あまりの速度にどちらがゾンビか分からなくなる。

 この大飯食らいめ。しかし金に糸目をつけずに食いまくってるあたり、エンゲル係数がやばそうだ。

 ……もしかするとこの食費のために、私服を買う金がないんじゃないか、と思ってしまうほどである。


「ここ『セカンダル・アナクロニムズ』は、シルヴィス共和国の最東端に位置する地方城塞都市であり、他国領と至近の距離にあります。そしてそれらの他国と我がシルヴィス共和国は常に緊張状態にあり、この『セカンダル・アナクロニムズ』は他の地方都市とは比較にならない頻度で、防衛戦争を戦ってきました」


 受付嬢はアルコール度数の高そうな蒸留酒を一気飲みして、グラスを空けながらただただ無感情に語り続ける。

 この点、二日酔いになったどこかの誰かさんとは大違い。

 まったく酔った様子を見せず、無表情・無感情を貫き通す受付嬢。

 泥酔したら復讐がてら裸に剥いて、そこら路上へ放置してやろうと思っていたのに。

 やはりいろんなところがおかしい超ド級の変人である。


「北東部には高級魔族諸侯領――『大魔王直轄領および南魔族諸侯領から成る連合王国』が、南東部には人類第一主義を採る『アヴァルトリア帝国』の領域が広がっています。この両国と、多種族共生社会の実現を目指す我が国は、思想的に相容れない存在です」


 しっかしどうやらこの女、人に薀蓄を語るのが大好きらしい。

 ところがしかし。俺もちょうどこのシルヴィス共和国について詳しく知りたい、と思っていたところだったが、受付嬢は喋るスピードが速すぎるし、喋る調子に抑揚がないのでいまいち内容が頭に入ってこない。


「地理的に彼らはこの城塞都市を無視することは出来ません。南北には山岳地帯が広がっており、西侵してシルヴィス共和国中央部へと攻め入るには、この『セカンダル・アナクロニムズ』を陥とすほかないからです」


 とりあえず四六時中この都市が戦争をやってるってことだけは分かった。

 そのうち移住も考えるべきか。

 ……しっかしなんだってそんな物騒なこの城塞都市で、こいつらはのんびり暮らしていられるんだ?


◇◆◇


「少々飲みすぎました」


 嘘つけ。

 店を出た後、俺は横顔も足取りもいつもと変わらない受付嬢と、商店街を見物して回ったが、やはりどっからどう見ても彼女は素面にしか見えなかった。


「やれやれ。私の貴重な休日が、こんなくさったしたいと付き合って消えるとは」


 本当にクソ失礼な受付嬢であったが、彼女の案内で市内を見て回れたのは良かったかもしれない。

 しかも帰り道を覚えているかあやふやだったので、婆さんの家の近くまで送ってもらってしまった。

 気がつけば近くの路地まで夕陽が、西の空へ沈もうとしている。

 そういえば恒星がひとつ、東から西へと見かけ上の運動をするのは、前世の世界と同じか。

 そんなことを考えていると、「では」と受付嬢はぺこりと頭を下げた。


「きょうはこれで」


 やはり何の感慨もなく、無感情に別れの言葉を口にする受付嬢。

 だがどうだろう。案外いい奴なのかもしれないな。身体がうまそうな奴に、悪い奴はいないのかもしれない。


「ごちそう、ありがと」

「いえ」


 彼女は頭を振った。


「これが『セカンダル・アナクロニムズ』市民の流儀です。法を守る新たな住民を、我々は歓迎します。

 ようこそ一百族いっぴゃくぞくが集う街、『セカンダル・アナクロニムズ』へ。

 ようこそ帝国主義者どもの集合墓地、『セカンダル・アナクロニムズ』へ」


 よく分からないが、転生したての俺がこの街に辿り着けたのは幸運だった、ってことなのか。

 話半分に聞いていた受付嬢の話では、周辺諸国の中では人類が絶対優位の国家もあるようだしな。もちろん人類国家しか存在しなかった前世の世界でも人種差別が根絶されていなかったのだ、異種族間の差別がない方がおかしい。

 ……そういうことを考えれば、ここシルヴィス共和国に生活基盤を築けそうなのは、かなりラッキーだといえる。


 俺もじゃあな、と手を振って彼女と別れようとする。

 その直前。


「そういえば1週間後に、市民を動員した市街戦演習があります」

「えんしゅ、う?」

「新米の冒険者の方は基礎的な戦闘力や戦術的思考を身につけていただくために、特別講習がありますので、よろしくお願いいたします」


 まじかよ。

 どうやら前世、日本国民として生きていくには納税が必要だったように、どうやらこの国で生きていくためには、警察予備隊とやらの頭数に入っていなければならないってことか。


「では」


 言いたいことはすべて言ったのか。

 俺の反応や返事は待たずに、受付嬢は踵を返してすたすたと行ってしまう。

 さて。お上に搾取される前世の生活と、どうも戦争が日常臭い現世の生活、どっちがマシか――?

次回更新は5月15日(月)になります。

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