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少年サンタ

作者: D-magician

 昔、ある田舎町にミカという女性がいました。ミカは両親と3人暮らしで、毎日両親の手伝いをしながらのんびりとした日々を過ごしていました。


 ある冬の日、ミカは両親とともに隣の町で開かれたクリスマスのイベントへ出掛けました。真っ白な町の中、きれいに光るクリスマスツリーの下でミカは一人の男性と出会い恋に落ちました。男性の名前はデビット。彼はクリスマスのイベントのためにヨーロッパから来ていました。ミカは一瞬で彼を好きになってしまい、その日のうちに告白をしました。


「あなたが好きです。ずっとそばにいてください。」


 彼は困った顔で言いました。


「私はクリスマスが終わると母国に帰らなければなりません。そして次にここに来るのは来年の冬になってしまいます。」


 それに対してミカは言いました。


「じゃあ、私が来年まであなたのことが好きでいられたら私と結婚してください。離ればなれでもかまいません。年に一度だけ、あなたに会えるだけでいいので。」


「では約束しましょう。次の冬が来る頃にあなたに会いに来ます。そのときまであなたが私を想ってくれていたら結婚しましょう。」


 デビットは首にかけていたハートのペンダントをミカにかけました。来年会いに来たときにわかるように。ミカはうれしそうにうなずきました。


 次の冬、ミカはデビットが来るのを待ちました。デビットは約束通りミカに会いに来て二人は結婚、次の年の夏には一人の女の子が生まれました。


 ミカはその子に『ユウキ』と名付けました。冬に日本に戻ったデビットはユウキをとても可愛がりました。ユウキはすくすくと育ちました。


 しかし4歳の冬、大雪が降って辺りが真っ白になった日にユウキは突然倒れました。ミカはすぐに病院に連れていきました。病院の先生から言われたのは『両親の血液が必要です。』というものでした。ユウキはその日のうちに入院。ミカは自分の血液をできる限り提供しましたが、それだけではユウキを助けることができませんでした。


日に日に弱っていくユウキをミカは毎日毎日励ましながらデビットが帰ってくるのを待ちました。しかしデビットから連絡はなく一週間が過ぎてしまいました。


「明日こそはお父さん来てくれるから。」


 ミカはそうユウキに告げると病院を出ました。向かった先は町のそばにある川辺の木。そこはミカが幼い頃から何かあるたびにずっと祈りに来ていた場所。ミカは木にすがり涙を流しながら大きな声で祈りました。


「お願いします。ユウキを助けてください。デビットに私の声を届けてください。」


 雪の中、ミカは泣きながら祈り続けました。



「お母さん、女の人が木のところで泣いてた。」


 ミカの姿を見ていた男の子は母親に聞きました。


「ああ。あの人の子供が病気でね。お父さんが帰ってこないと治らないらしいの。ただお父さんが外国の人で、連絡がとれないらしいよ。」


「その子のお父さんとお母さんはどこで会ったの?」


「たしか隣の町だったって言ってたね。ちょうどクリスマスの頃だったみたい。」


「じゃあ隣の町に行けば会えるの?」


「もしかしたら連絡はつくかもしれないね。ただ隣の町へ続く道路が雪で通れないみたいだから。」


「そうなんだ。」


 男の子は自分の部屋に戻るとリュックに鉛筆とノートとお菓子を入れました。


「ちょっとコロと遊んでくるから。」


「気を付けなさいよ。遠くへは行かないようにね。」


「はーい。」


 男の子は愛犬のコロにソリをつけて家を出ました。男の子を乗せたソリはすごい早さで真っ白な道を進んでいきます。しばらく進むと道が3つに分かれていました。男の子がどちらにいけばいいか悩んでいると前から赤い服の男の子が歩いてきました。


「ねえ?隣の町へはどっちに行けばいいの?」


「どこの町に行きたいの?」


「クリスマスの町。」


「それならこっちの道をまっすぐだね。でも車は走れないみたいだよ。」


「うん。でもコロのソリなら行けるんだ。」


 それを聞いて赤い服の男の子は少し考えてから言いました。


「ここからでもすごい時間がかかるし今から寒くなるみたいだし。だからこの服をあげる。僕はたくさん着てるから。」


 男の子は赤い服をぬいでソリに乗った男の子に着せてあげました。


「ありがとう。じゃあ行くね。」


 ソリに乗った男の子はそう言ってからコロに合図を出し、教えてもらった道を進み出しました。赤い服を渡した男の子はその姿を手を振って見送りました。


「コロ!がんばれ!」


 天気はどんどん悪くなり吹雪になりました。男の子を乗せたソリは車が走れないほど積もった雪の上をどんどん進んでいきました。


「コロ!がんばれ!」


 男の子は何度もコロに声をかけました。コロは雪の上を走り抜け、あと少しで車の走れる道に出るというところまで来ました。ところがその直前!


「うわ!」


 雪の山の段差でソリがはねあがり、男の子は木に叩きつけられてしまいました。


「コロ…。」


 男の子はコロを呼びました。コロは男の子の顔をなめたり吠えたりしました。男の子はコロの頭をなでました。でも、男の子の意識はどんどん薄れていきました。




 しばらくして一台の車が止まりました。


「あら。やっぱり通行止め。」


「おばあちゃん、進めないの?」


「そうね。戻るしかないみたい。」


 セーターを着た男の子にそう言っておばあさんは車をUターンさせました。そのとき男の子が言いました。


「あ!おばあちゃん。あそこにサンタさんがいるよ。」


 車の中から男の子が指差すその先には赤い服を着た子どもとソリが見えました。


「あら。大変。」


 おばあさんは車から降りると赤い服の子どものところへ駆け寄りました。


「だいじょうぶ?」


 おばあさんは声をかけながら子どもの無事を確認しました。そして子どもを背負って車へ戻りました。男の子はソリを引っ張っていくと犬がついてきました。男の子は犬の頭をなでてソリと一緒に車に乗りました。


「車は一番暖かくしたからその子が目を冷ましたら教えてね。」


 おばあさんは車を走らせました。セーターの男の子は自分の上着をかけてあげたり温かいタオルで顔を拭いてあげたりしました。




「あれ?ここは?」


 しばらくして赤い服の男の子が目を覚ましました。


「おばあちゃん。起きたよ。」


 セーターの男の子がおばあさんに言うと、おばあさんは車を止めました。


「あなたはどこへ行くつもりだったの?」


「僕、クリスマスの町に行きたかったの。」


「何のために?」


「僕の町の女の子が病気で治すにはその子のお父さんがいないとダメで。そのお父さんとお母さんはその町で会ったみたいで。」


 おばあさんは少し考えてから言いました。


「じゃあ車でそこまで連れていってあげる。その代わりそのあとは帰るのよ。」


「うん。ありがとう。」


 赤い服の男の子は嬉しそうにうなずきました。車は雪道を進みサンタの町を目指しました。赤い服の男の子とセーターの男の子はいろいろな話をしていましたが、二人とも疲れていたみたいで寝てしまいました。




「着いたよ。」


 車が町に着くと赤い服の男の子はクリスマスツリーのある建物に向かいました。セーターの男の子もあとを追います。


「すいません。デビットという人を探しているのですが。」


 中に入ると赤い服の男の子は受け付けの人に聞きました。


「君は誰かな?デビットはここにはいないけど。」


「デビットという人の子どもが病気でデビットがいないと治らないって聞いたの。」


「本当か?ちょっと待って。今調べるから。」


 受け付けの人はすぐに電話をかけはじめました。それを見ている赤い服の男の子に女の人が声をかけました。


「君、もしかして隣町から来たの?」


「うん。」


「もしかして犬とソリで?」


 うなずく男の子を見て女の人が叫びました。


「この子!隣町で行方不明って探されてる子よ!あなたのことを探して大騒ぎになってるの!早く家に電話しなさい!」


「はい。ごめんなさい。」


 男の子はすぐに電話をかけました。電話の向こうからはお父さんの怒鳴り声が響きました。するとおばあさんが電話を代わり「ちゃんと送りますから。」と伝えました。


「デビットと連絡が取れたよ!」


 奥の部屋から受け付けの人が来て男の子に言いました。


「ほんとう?」


「ああ。一昨日に日本に来て東京のオーケストラに参加していたらしい。今から最終の飛行機で来ると言ってた。」


「よかった。ありがとうございました。」


 男の子はお礼を言ってそのまま座り込んでしまいました。受け付けの人は男の子の頭をなでて言いました。


「君はサンタクロースだね。知らない子どもの病気のためにソリに乗ってここまで来た。デビットにとってもその子にとっても君は立派なサンタクロースだ。」


 赤い服のうれしそうに男の子は笑いました。おばあさんと男の子も笑いました。雪の降るサンタの町に笑顔が溢れました。




「デビットと連絡が取れたって。もうすぐ来るって。」


 ミカがそれを聞いたのは病院の廊下でした。ミカは驚きのあまり手に持っていたカバンを落としてしまいました。


「ほんとうですか?」


「ええ。今私の家に連絡が入ったの。よくわからないけどサンタクロースの格好をした男の子が隣町まで行ってデビットのことを聞いてくれたって。デビットも一昨日に日本に来てたから連絡がついたみたい。何でも東京のオーケストラをやっている人に呼ばれて日本に来る日を一週間早めたみたい。奇跡って重なるのね~。」


 ミカは泣きながらうなずくと病室に入りました。病室ではユウキの手を握ったまま女の子が眠っていました。


「あら。この子はずっと声をかけ続けて疲れたのね~。」


 女の子のおかあさんはそう言って女の子の頭をなでました。


「この子がずっと励ましてくれたからユウキも頑張れたんだと思います。ありがとうございます。」


 ミカは頭を下げました。


「いいのよ~。私たち家族もこの子も勝手にやったんだから~。」


 そう言うとおかあさんは女の子をおぶって笑いました。


「さて、私は一度帰りますね~。別の子どもの行方不明事件も解決したみたいだから~。またあとで来ますから~。」


「ありがとうございました。」


 部屋を出ていく女の子とおかあさんをミカは泣きながら見送りました。




 デビットはその日のうちに到着、その後ユウキの病気は順調に回復しました。ミカは元気になったユウキに聞かせました。


『あなたはサンタクロースに助けてもらったのよ。』



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