《に》
振り向くと私の部屋のドアを開けて、そいつは居た。
肩にかかる真っ直ぐな黒髪ロンゲに白い肌。私より20センチ以上高い身長に関わらず、体重目測40キロ台と思しきヤセギスの体躯。出で立ちは真青の長ツナギの上から腹巻。そして、その腹巻からはいつも何やら怪しげな道具をチラつかている。
名付けて『ドラ親父』。
親父と言っても私と血は繋がってはいないし、歳は私と母の丁度中間と聞いているから、それが正しければ現在24才。
母とどういう関係なのか、私は知らない。でも12才も年上の母のことをドラ親父は『まあちゃん』とあだ名で呼ぶ。謎だ……。
「ノン子がんばってるな、大丈夫?」
この男、怪しげなのに何故か私には優しい。
『ドラちゃんか、もう眠いよ。眠いけど寝れないよ。負けられないんだ、今度のテストだけは。ヒサコとタケコ、2人と勝負するって言ったから。初めてだよ、こんなツッパってみたの。負けられない……』
私は一気に言って、最期は消え入るように息を吐き、言葉をぬいた。
ドラは長い前髪を右手で掻き揚げ、目を細めて斜め下の空間を見ながら、少し嬉しそうに言った。
「真剣……なんだな……」
『うん』私は眠気に目を擦った。
「わかった、いいものがある、これを使え!」そう言いながらドラは腹巻から何かを取り出した。