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エピローグ

 試合後、俺と松永は保健室で治療を受けることになった。

 霧崎先生が松永の右目を開け、ライトで照らす。

「網膜に傷が付いてただけみたいだから、少し安静にしてたら治るわね。もしかしたらちょっと視力が落ちるかもしれないし、当分はコンタクトも入れられないからそのつもりでね」

「はい」

 幸い、松永の傷は見た目ほど酷くないらしい。左手も重度ではあるけど品本の技術を使えば、痕も残らないということだった。それを聞いて、俺もホッとした。一応、骨も確認するということで、Aクラスの担任と一緒にレントゲンを取りに行った。

「次、朝槻くんね……」

 松永の治療が終わったから次は俺だ。と言っても――

「あ、大丈夫ですよ。もう普通に動かせますし」

「…………」

 俺は先生の目の前で左手を動かして見せた。素振りも出来るし、握ったり開いたりと問題なく出来る。感覚がなくなるほどヤバかったのに、もうビックリするほどなんともない。自分でもよくわかんねぇけど、マジで俺の左手どうなってんだ?

「やっぱり、お父さんの血が強いのね」

「え?」

 なんで急に父さんが出てくるんだろう。

「言ったでしょ。あなたのお父さんは私と同じ宇宙人。傷の治りが人間と比べると別格に早いのよ。私の指の切り傷が一瞬で治ったの見たでしょ?」

 確かにこの目でしっかりと見た。普通の人間じゃありえない速度の治癒力だ。ん? 親父が関係あるってことは……

「霧崎先生。もしかして、先生が言ってた俺が松永に勝てるかもしれない理由って、それに関係あるんですか?」

「えぇ、そうよ。あなたの左腕は人間の持てる力の限界を超えてるわ。ううん。正確には普通の人間なら勝手に働くはずの抑制機能が働いてないのよ。人間は脳が勝手に力を抑制して三割しか使えない。でもあなたの場合は十割まで使えてしまう。当然、左腕が耐えられるわけがないわ。体は人間なんだから」

 先生の言ってる意味がよくわからなかったけど、なんか昔漫画か何かで読んだ気がするな、そういうの。

「でもあなたにはお父さんから受け継いだ治癒能力があるわ。だから痛みに耐え切れず使用を止めた瞬間から治癒が始まって、ものの数分で完全に治してしまうのよね。それを上手く利用すれば勝てるんじゃないかって私は思ったわ」

 そんな短時間で治っちゃうんじゃ、どこの病院に行っても健康だって言われちゃうだろうな。なんせ、行くまでに治ってるんだもん。

「ん?」

 扉が開いたから松永が帰ってきたのかと思ったら、校長だった。

「いや~。朝槻くんおめでとう」

 校長は拍手しながら俺たちに近付いてきた。どうやら出張から帰ってきてたらしい。

「よく、私の出した条件をクリアしましたね」

「ってことは、俺の退学はなしってことっすか?」

「あぁ、当然だ。あの松永さんを破ったんだ。辞めさせる必要なんてないさ。それに君の左腕のことも霧崎先生から聴いているし、ある意味完治したようなものじゃないか」

「ありがとうございます……って、それだと別に俺が松永に勝たなくても、条件クリアしたことになりませんか!?」

 左腕の原因がわかって、完治したら退学しなくて良いって条件に該当するとおもうんだけど。

 校長は笑みを浮かべたまま人差し指でポリポリと頬を掻いた。

「……まぁ、退学はなくなったんだから良いじゃないか」

「全然良くないっすよ! 俺、一歩間違えれば三〇〇〇万円の借金背負うところだったんすよ!?」

「ハハハハッ……おっと、そろそろ会議の時間だ。霧崎先生、行きましょう」

「はい……」

「ちょ、おいっ!」

 校長は俺から逃げるように保健室を出て行った。霧崎先生も苦笑しながら出て行っちゃったから、俺一人だけ残された。

「ったく。こんなんで借金背負わされてたらたまったもんじゃないぜ」

 俺は後頭部を掻きながら舌打ちして、保健室を出た。今日はもう帰って良いって言われたし、さっさと帰ろう。

 廊下には松永が立っていた。

「お、レントゲン終わったのか?」

「えぇ。それで貴方の望みを聴くために戻ってきたのだけど……」

 右目に眼帯して、左手は包帯グルグル巻きとこれはこれで痛々しい。

「願い? あぁ、あれか。あんなん、俺がお前と戦うためにしたことだから、別に良いよ」

 俺は松永にちょっかい出してた理由を大まかに話して謝罪した。松永に勝ったことで、俺に降りかかる火の粉は全部なくなったわけだし、今更叶えて欲しい願いもない。だからこれでプラマイゼロだ。

「そういうわけにはいかないわ! 私は大嫌いな卓球で初めて負けてしまった。それなのになんの罰も受けないなんて絶対ダメよ」

 松永は少し不安そうな表情を見せたあと、願いを言うように強要してきた。罰とか親父さんからの影響受けすぎだろ。悪いけど、松永の言い分を押し付けられても困るぜ。

 それに――

「お前――あ、悪い。松永、卓球嫌いじゃないだろ」

「っ! ど、どうして……」

「だって全力で魔卓球やってる松永、超楽しそうだったもん。最後なんて傷だらけなのに笑ってたじゃんか」

 親父さんのこともあったから、そう思わないと自分の好きな卓球が穢れる気がしたとかそんなんじゃねぇのかな。こいつそういうの潔癖っぽし。

「……貴方、私のこと良く見てるのね」

「そりゃ良く見るだろ」

 対戦相手のことなんだし。ん? なんで顔真っ赤にしてんだ?

「あ、そうだ。やっぱ一つお願いしても良いかな?」

「っ! ど、どうぞ。私を煮るなり焼くなりしてちょうだい。どんなことだってして見せるわ」

 どんだけ古典的なんだよ。今時そんなこと言うやつ初めて見たは。

「いや、そういうんじゃなくてさ。松永んところの技術って、力のセーブみたいにも出来るんだよな?」

「え、えぇ出来るけど?」

「だったら、俺にもそれ作って欲しいんだ。霧崎先生に聴いたら、俺の左手力が強すぎで体のほうがついて来ないんだってさ。だから松永みたいな腕全部覆うようなのじゃなくて。腕輪とかそんなんで良いんだけど」

「…………」

 松永は急に眉間にシワを寄せて、不機嫌な表情になった。俺、なんか変なこと言った?

「ダメ、かな?」

「良いわ。そのくらいやってあげるわよ!」

「な、何怒ってんだよ」

「怒ってなどいないわ」

 絶対、怒ってんだろ。入奈たちも時々、こんなとこあるんだよな。女子ってホント意味わからん。

「……あと、約束だし私が、貴方の彼女になってあげるわ」

「ん? あぁ、そんな無理しなくてもいいぞ?」

 こんなに可愛い子が俺の彼女になってくれるんだったら、これほど嬉しいことはない。だけど、あれは松永に嫌われるための手段だっただけだし、松永だってホントは嫌いな奴と無理矢理付き合いたくもないだろ。

「わ、私のこと嫌い、なの?」

「いや? そんなわけないだろ。可愛いと思ってたのは事実だし」

「だ、だったら――」

「あ、コータローこんなところにおったと?」

「も~。戻ってこないから心配したんだよ? 怪我大丈夫だった?」

 松永の話を遮るタイミングで、入奈と加奈子が遠くから走ってきた。

「おう。なんともないってさ。心配掛けて悪かったな」

「ねぇ、さっきの話を聞いてると、あの子たちは貴方の彼女ではないのよね?」

「そうだ。頼んで協力してもらっただけだ。俺に彼女なんていねぇよ。募集中だけどな」

 松永は「そう……」と呟くと、走ってくる入奈と加奈子の前に立ち塞がった。

「な、なんばい」

「……松永さん、どうしたの?」

 二人も松永がそんな行動に出るとは思ってなかったらしく、少し面食らってる。

「今日から朝槻……ううん。幸太郎は私の彼氏よ! もう一切近付かないでちょうだい!」

「はぁ!?」

 唐突に何を言い出してんだよ、こいつは! なんだ、変な芝居までして松永を騙した俺への仕返しか!? 

 直後、強烈な怖気が背筋を走り抜けた。

「……どういうことばい、コータロー。うちとゆうものがありながら」

「あさピー、責任取ってくれるって言ったのはどうなったのかな?」

「ま、待て。俺にも話が見えてないんだよ! 松永も変なこと言ってないで、きちんと説明してやれよ!」

「私は変なことなんて言ってません。それに私のことは今日からアネットって呼んで」

「いや、松永――」

「アネット!」

「松……アネット」

「なぁに、ダーリン」

「ダーリンって誰だよ! 勝手に変な呼び方すんな!」

 つか豹変し過ぎだろ、マジで。このままここにいると俺の身が危険だ。今はとにかく逃げよう!

「あ、待ちや、コータロー!」

「あさピー、今日は逃がさないからねっ!」

「ダーリン、待って~」

 逃げたら後ろから三人が追って来た。なんで俺はこんな状況になってんだ!?

「マジで勘弁してくれよ!」

 せっかく退学って猛獣から逃げられたのに、今度は強力な女子三人って、俺はどんだけついてないんだよ!!

                                      〈了〉

ここまで読んで下さった方。ありがとうございます。

一人称とはだいぶ相性が悪いらしく、新人賞に応募すると悉く酷い結果になってしまうのです……。


なんだが、愚痴っぽくなってしまった。


近作は今時のハーレムモノを自分なりに租借して書いてみたものなのですが、上手くいったのかは定かではありません。

ただ、ここに書いてきたヒロインたちは皆好きですw


次回作も早めにアップ出来るよう頑張ります!

今後ともよろしくお願いします^^

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