表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/25

episode 3

私たちはずっと愛し合っていると思っていたのに。


息子の巧も来年は小学生という年になった。

育児もなんとなく楽になって

そろそろパートにと思い、

近くのショッピングセンター内の

小さな子供服店にパートで店員として働き始めた。

週4日、昼間のみのパート。

給料は少なくても、久しぶりの社会に

やりがいを感じていた。


なので夫の些細な変化に私は気付けなかった。

言い訳にしかならないけれど。


聡は一時教職を目指したせいか、統率力に優れていて、後輩にもとても慕われていた。

悩み事の相談に乗ることも多く、それは女の子に至る事もあったけれど、私は聡を信じていた。


それは青天の霹靂。


その女の子は突然私の前に現れる。

その日曜日はたまたま、社員の1人が、結婚式に参列するから休みを取った。

誰も都合がつかないらしく、聡に子供を頼んで、四時間だけ仕事について、帰宅途中だった。

駅を出ると、若い女性に呼び止められた。

「すみません、藤田聡さんの奥様ですよね。」

背格好は私とあまり変わらないが、着ている服の質はよく、

きちんと靴バッグまでまとめられていた。髪型もゆるく巻かれたロングヘアー。

派手でも地味でもなく、キレイなOLって感じ。

「はい、そうですが。」

そう答えると、彼女はうっすら笑みを浮かべた。

「私、藤田係長と同じ係で勤務しています。

相沢佳奈と申します。」

そう言われて、ほぼ反射的に、

「そうなんですね、いつも藤田がお世話になります。」

と笑顔で答えた。

相沢さんは、一瞬眉をひそめ、そして一気に捲し立てた。


「私、藤田係長に本当にお世話になってるんですよ。

誰よりも聡さんを愛してます。」

理解するのにどれだけかかったろう。

間抜けにも

「そうなんですね。」

と返事をしていた。

駅前のファミレスになんとなく誘われ席についた。

そこで、相談に乗ってもらっているうち好きになったこと、

思いきって誘ったら乗ってきたこと。

彼女は25歳で、他の彼氏はいないこと。

本気で好きだということ。


一方的に話はじめた。


ただ私はボンヤリ彼女のネイルを見ていた。

キレイなネイル。

きれいだなってそこばかり見ていた。


一時間弱、そこで我慢出来なくなり無理に店から出た。

不思議と涙は出なかった。

現実的じゃなかった。


マンション近くの公園の前で足を止めた。

聡が、息子の巧の自転車の練習に付き合っていた。

自転車の後に立ち押しながらついて走る。

その姿とさっきの話が絡み合い、叫びたくなった。

私はマンションへ走った。

涙はまだ出なかった。一時間もしないうちに、2人はご機嫌で帰ってきた。

「ママ、帰って来てた。」

玄関から巧が走り込んできた。

「ママお帰り。あのね、自転車乗れたよ!」

興奮冷めやらぬ巧に、

「ただいま、手は洗ったかしら?」

そう言うと、

「はーい、ごめんなさい。」

そう言って巧は、洗面所にむかった。

続いて聡が入ってきた。

「実花お帰り。俺も手洗わないとな。」

そう笑顔で洗面所に消えた。

巧が眠るまで


眠るまで、泣いてはいけない。

私は普通を装い食事の支度を始めた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ