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episode 24

聡の仕事先への連絡、浜松への連絡。

保険会社への連絡、

そして、店長に電話をかけた。

私の話を店長は、うん、うん、大変だねと本当に真剣に聞いてくれた。

「ごめんね、店長。忙しい時に。」

そう言うと、何言ってるんですか、とちょっと怒ったようにそう言った。

「実花さん、気持ちは通じそうですか?」

「多分ね。」

「そうですか、残念です。仕方がないけれど。」

そう言って、でも笑い飛ばしてくれた。

「あのね、店長。多分私、私も店長が好きなんだと思う。」

「なんですか、こんな時に告白ですか?」

店長は噴出しながら話を聞いてくれた。

「でも、それはときめきに恋してただけなんだと思う。

 女として色あせたくない、そんな気持ちは誰だってあるものだと思う。

 恋したい自分が店長に頼ってたと思う。

 だって店長いい男だもん。」

「それって喜んでいいんですかね?」

「当たり前じゃない、素直に取ってよ。」

店長が大笑いしたのでつられて笑った。

良かった、店長を傷つけたくなかった。

店長にはぴったりないい女の子に出会ってもらって

幸せになって欲しい。

そんな愛の形があってもいいじゃない?


翌日の昼には、浜松から、聡の両親と、巧が駆け付けた。

思っていたよりは軽い怪我で、みんな安心したようだ。

巧は、パパと正月を過ごせない事がご不満のご様子で、

おじいちゃんに、どこか連れてってあげるから

そうたしなめられてた。

聡も、しみじみと言う。

「あの車も、だてに4WDと名乗ってた訳じゃないから。

 まあ、でも、スピード出てたらこんなのじゃ済まなかったかな。」

これが軽自動車だったらとか思うとぞくっとする。

後ろも前もトラックだった。挟まれた聡の車は廃車になった。

巧は、大好きな車が廃車になったのがショックだったようだけれど、

車より命が大事とおじいちゃんに諭された。

車なんてまた買えばいい。聡さえいれば。


私たちは年越しを病院で過ごす羽目になった。

年末年始の病院は、帰宅した人も多いらしく

4人部屋に聡一人しかいなかった。

付き添いはご遠慮願いますと張り紙があったので、

すぐ近くのビジネスホテルを取って、

消灯までいて、私はホテルに戻って寝ていた。

正月明けの診療が始まったら、自宅近くに転院することにした。

そうしないと、巧が学校に通えなくなってしまう。

巧も思いがけず、浜松で正月を過ごす事になった。

可哀想だと思うけれど、このビジネスホテル暮らしをさせる訳にはいかない。


年末の歌番組を二人で見ていた。

何故か急に思い立って、聡に切り出した。

「ねぇ聡、あのね、私たち九州に来ちゃダメかな。」

その途端、聡は驚いたのか

「えええ!」と体を起して、痛みでぐっとベッドに倒れた。

「・・・・・何やってるの?」

そう言うと、しばらく目を閉じて黙ってた。

しばし沈黙、やけに長く感じた。

手を目もとに押さえて、黙りこむ聡に、しびれを切らして話しかけた。

「ダメ?」

そう一言だけ言うと、聡は手をずらしてちらりとこちらを見た。

「いいの?それで。」

意外な答えにびっくりだ。

「なんで?」

「俺は本当は一緒に来て欲しかったけれど、でも、

 あの頃そんな事とても言える立場じゃないって思って。」

私は聡の折れてない方の手を取った。

もしかして今がお互い素直になれるチャンスかもしれない。

「俺、正直思いあがってたと思う。

 会社の女の子の相談に乗って、頼れる先輩のポジションにいて、

 誘われた時もちょっと優越感だった。ごめん。」

私は黙って聞いた。手を握ったまま。

「なんだか自分がすごい魅力あるオッサンで、嬉しかったんだと思う。

 でもな、信じてくれ。

 俺、死ぬかもって思った時、もう一度実花を抱きしめたいって思った。

 もう一度実花の匂いを嗅ぎたいって思った。」

「匂い嗅ぎたいって・・・」

なんだか表現がおかしくて噴出した。

「だってそう思ったんだからしょうがないだろう。」

おかしくておかしくて、涙が出ちゃう。

すごく涙が出てくる。

「泣くなよ。何泣いてるんだよ。」


本当何泣いてるんだろう。

なんだか聡が愛おしくて、私からキスをした。

消灯10分前。除夜の鐘を一緒にここでは聞けないのが寂しい。

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