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episode 23

なんで新幹線とか飛行機とかで帰ってきてって言わなかったんだろう。

今更そう思っても仕方がないのに

考えるのはそんなことばっかりだ。

今、考えるべき事はそこじゃないって自分に突っ込みながら。


電話を切って呆然としていると、店長がそっと近づいてきた。

「何かあったんでしょ?実花さん。」

机に体を預けている私の肩に手を添えた。

「名古屋のほうで、聡が事故に巻き込まれて、

 今、意識がないって・・・。」

そう言うと、店長もぐっと息を飲んだ。

「なんで新幹線で帰っておいでって言わなかったのかしら私、

 飛行機でとか、もっと時間をずらしてとか、なんで、・」

そこまで言った時、店長が

「実花さん、落ち着いて、今はそんなの終わった事だ。」

そう言って台についている私の手を包むように手を重ねた

温かい手に涙が出そうなくらいホッとする。

そして、間を開けずに店長が言った。

「実花さん、いいから旦那さんの所に行って。

 こっちは心配いらない。今すぐ帰って、急いで。」

そう言って内線で倉庫にいる社員を呼んだ。

「早く、家に帰って支度して出れば、2時間後には着ける。」

「ありがとう、店長。」

それだけやっと言うと、店長は正面から

右手を私の左肩に置いて言った。

「当たり前ですよ。実花さんの大事な旦那さんですから。」

そう言って私をくるっと回らせて、店の外に押した。

「早く、でも気を付けて下さい。」

私は、そっと体を回し店長を見た。

「早く。」

うん、と頷いて、荷物のあるバックルームの方向に走った。


ごめんね、店長、ありがとう。

なんだか涙が出て来た。


自宅に帰り身支度をしてタクシーで駅に向かった。

新横浜からのぞみで名古屋まで一気に行った。

病院に着いたのは、午後8時になる頃だった。

のぞみの中で、紅茶ばっかり飲んでた。

口の中が渇く。車内で何を考えていたのか覚えてないほど

気持ちがどこか行っちゃってた。

このまま、聡と会えなくなったらどうしようって、

それだけが一番辛かった。

最悪の場合ばかりが、頭の中を巡ってしまう。

時間外受付で名前を名乗ると、こちらですと

ナースステーションの横の部屋に案内された。

「大丈夫ですよ、さっき目を覚まされました。

 薬で少し朦朧とされてますけれど。」

そう言って半分だけカーテンの開いている入口近くのベッドに

案内された。点滴とかいろいろ繋がっているのが見える。

さっと近づきベッドのそばへ寄った。

ベッドの横の椅子に掛け、そっと囁いた。

「聡、私よ。遅くなってごめんなさい。」

そう言うと、うっすら聡が目を開けた。

看護婦さんが、聞こえましたねと微笑んだ。

ナースコールが鳴っているのが聞こえると

「じゃ、何かあったら呼んでくださいね。」

早足でナースステーションにつながるドアから出て行った。


腕の骨にひびが入っているようだけれど

思ったよりひどい状態ではない事にホッとして

椅子に座ったまま、ベッドに顔を伏せてため息をついた。

「実花、おい実花。」

小さな声で聡が言うのが聞こえ、慌てて顔を上げた。

「ごめん、当たった?痛かった?」

伏せた顔が当たって痛かったのかと慌てて聞くと

「耳、貸して。」

「耳?」

「うん、耳貸してよ。」

「何で?この状況で耳貸すの??」

「いいから、早く。」

薄暗い病室で、聡の顔をよく見ると、おでこに青い痣があった。

その痣に触れないよう気を付けながら、

髪を耳にかけ、口元に耳を寄せた。


ゆっくり呟くように聡は言う。

「実花、今でも君を愛しているよ。」


驚いて思わず、そのまま固まった。

そんな私を見て、聡はくすっと笑った

「俺、後ろから追突されて、前のトラックに突っ込む瞬間

 ああ、実花にもう一度愛してるって言いたいって思った。

 生きて会えたら、最初に言おうって思ったんだ。」

思わず顔を離して聡を見ると、勝ち誇ったように笑っていた。


泣きたいような笑いたいような、そんな思いが溢れる。

そっと聡の耳元で囁いた。

「馬鹿ね、私の方があなたをもっと愛してるのよ、気付かなかった?」

そう言うと、恥ずかしいのといろんな感情で笑いが込み上げた。

くすくす笑うと、聡は

「・・・チクショー、抱きしめたいのに腕が動かない。」

そう言って舌打ちまでしている。

大丈夫、私たちはまだまだうまくやってけそうだ。

ベッドの上の聡を柔らかく抱きしめた。

聡の匂いを感じるのはどのくらい振りだろう。

涙が出るぐらい懐かしいと思った。

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