episode 22
今日は12月28日
年末とはいえ、いつも通りに仕事に出ていると
年の瀬の気配ををあまり感じない。
食品売り場とかにいれば、売り場はおせちや正月用品や
そんなもので感じるのかもしれないなぁ。
そんな事を思いながら、職場への道を歩いていた。
今日、聡は巧のいる浜松に向かっている。
正しくは昨夜出発したようだ。
11時ごろ、今から出るとメールが入った。
強い寒波で雪の予報が出ている。
路面凍結とか、車の運転にいまいち自信のない私にはちょっと怖く感じる。
無理しないでゆっくり進むよう、メールを返した。
今日の勤務も、私は一日フルタイムで仕事を入れている。
忙しい正月に休む申し訳なさで、出れる時は精いっぱい出ようと思い
出勤しているのだけれど、それでも
正月の福袋の準備などでバタバタしている。
アルバイトにも初売りの打ち合わせをしないといけない。
どの辺まで聡の車が進んだのかとか、気にはなっていたけれど
電話やメールを送る余裕すらなかった。
聡は、夜中は3時間ほど仮眠を取ったようだった。
朝6時半に、今、岡山と携帯に電話が入った。
ちょっと眠って起きたところらしく、声が多少枯れてはいたけれど
なんだか楽しそうに話をしてくれた。
まだ暗いんだけれど、寝心地悪いから目が覚めた
もう早く出発して早く着きたいとこぼした。
そんな聡の話を聞いていると、昔のように話せた気がした。
今回家に帰ってきたら
聡と話をしよう。じっくりと今の気持ちを話すんだ。
そう思うとなんだかドキドキした。
離れて暮らすのは嫌だと言ってみようか。
でも、拒まれたらどうしたらいいんだろう。
聡だって離れている間に、誰か気になる人が
いたりしたらどうなるだろう。そんなマイナスな思考に
囚われそうになる自分を心で叱咤した。
慌ただしく仕事をして、やっと2時から昼休憩を取った時に
携帯のメールを開くと、やっぱりメールが入ってた。
今、名古屋だよ、で、またちょっと仮眠するからと
11時にメールが着信していた。
う~~ん、やっぱり時間かかってる感じがする。
予想はしていたけれど、年末の帰省ラッシュで思ったより
時間がかかっているようだ。
これでも、聡が走っているのは上りだから、
まだ下りよりはましなんだろうけれどね。
寝ているかもしれない聡を起こすのも申し訳ないのでメールの返事は打たなかった
このペースだとやっぱり夕方遅くに浜松だろう。
私の今日の仕事は午後7時まで。
家に帰るまでには着いているのかなと思うけれど。
なんだかドキドキする。
明日は帰って来るのかな?
久しぶりに会って、一体何から話が始まるのかとか
そんなくだらないとしか思えない事でドキドキしている。
バタバタしていたら、あっという間に夕方5時を回った。
年末の買い物のせいか、店内にお客さんは多い。
でも、そんなに売れるわけではないのが年末。
まあ、私でも初売りの方で狙うかな、とは思う。
そんな時、レジ裏の電話が鳴った。
丁度、目の前にいたので伝票に目を通しながら電話に出た。
発信元は見たことない電話番号。どこだろう?
「すみません、そちらに藤田実花さんいらっしゃいますか?」
女の人の声がした、落ち着いた声なのに、なんだか背景に切羽詰まった雰囲気。
そっち、早く!とかなんだか不安になる声が聞こえる。
「私が藤田ですが。」
「藤田聡さんの奥様で間違いないでしょうか?」
「はい、間違いありません。」
なんだか不安で、うなじがざわざわする。嫌な予感。
「こちら愛知総合病院の救急センターです。」
・・・救急センター?・・・
「まさか、何か・・・」
胸の奥が何か膨らんで、何かわかんないけれど
膨らんでいくような感覚。
思わず机に手をかけて、自分を支えた。
売り場に入ってきた店長が寄ってきた。
合図するように口だけで、大丈夫?何かあった?と言っている。
ちょっと我に帰れた。大丈夫と言うように、うんうんと店長に頷いて見せた。
「ちょっとすみません。」
そう電話に言ってから。店長に向かって言った。
「すみません、売り場お願いします。」
店長は、うんと頷きながらレジに入った。
「お待たせしました、藤田に何かありましたか?」
電話の向こうの女性は、淡々と話を始めた。
「はい、高速道路で事故に遭われまして、こちらに運ばれました。」
喉元になにか込み上げる。
動揺する自分と、しっかりしないとと思う自分とで、
体の中でざわざわと戦いを始めているような、そんな感覚。
次の言葉を聞くために、ぐっと体に力を込める。