episode 21
突然切りこまれて、一瞬ひるんだ。
でも、ここはやはり、一度話し合うべきなのだ。
「ダメじゃん、店長。それ言っちゃ。」
そう言うと店長はえ?と言う顔になる。
お酒を飲んでるせいか、素直になれる気がした。
「正直店長の存在に救われてると思う。
いつも明るくて、気遣ってくれて、本当にありがたいって思う。
揺らがないかって、正直はっきり違うとも言えない。
でもね、私多分、今も旦那の事大好きなんだと思う。」
言いだしたらなんだか止まらない。
「店長、店長にはすごくいいところがいっぱいある。
彼女がいない彼女がいないって言うけれど
店長にはきっと運命の人は絶対いる。
その彼女が羨ましいと思うくらい店長はいいところがいっぱいあるの
だから幸せになって欲しい。
いつかきっと、それを見届けられるかわかんないけれど
そのままの店長でいて欲しい。」
思わず一気にまくしたてると
店長はニヤッと笑った。だから私もにっこり笑えた。
「なんか落ち込むべき状況なのに、落ち込めないな。
やっぱ実花さん最高。」
「ただ、店長の事好きなだけよ。
こんな人妻に落ちて欲しくないの。」
「大丈夫、理解できましたから。」
そう言う店長に、わざと
「良かった、泣かれちゃったらどうしようって思っちゃった。」
そう言うと、店長は笑い出した。
つられて大きな声で笑った。
私たちは友達でいられるよね、きっと。
終電に間に合いそうなので、2人で駅まで歩いた。
今年の冬はいつもよりとても寒い。
「寒いねえ、店長。酔いが覚めちゃう。」
「明日から雪になるって。年末年始は雪って言うし
地球温暖化って言いながら、冬は寒いって卑怯だね。」
そんな他愛ない事を話していたのだけれど、ふと思った。
「店長、あのね、聡と話し合おうと思う。
出来れば、一緒に暮らせるように話し合いたいと思う。」
店長は立ち止まった。私が一歩前に出る形になったので
後ろを振り返った。
「一緒に暮らせるかまだわかんないけれど。」
そう言うと、店長は言った。
「実花さんの幸せを願ってるから。いつも。」
そう一言答えて、店長は右手を差し出した。
私たちは握手をした。
「頑張って告白してください。実花さん。
でも、俺は実花さんのこと好きな気持ちは変わらないですよ。」
胸がきゅっと締め付けられる。
こんな私にそんな気持ちを抱くのはもったいないのに
でも、今はその言葉に甘えていたい。
きっといつか、その気持ちは他の人に向くんだから。
風もなく、空にはオリオン座が見える。
明るい都会の夜にも負けずに、星が光って見える。
店長にもっとすがりたい気持ちはあったけれど、
それは胸の奥にしまって、握った手をゆっくり離した。
「また、明日。お店で。」