episode 20
結局、大手チェーンの大衆居酒屋に行った。
店内はざわざわと賑やかで
年末の忘年会シーズンだけあって、カウンターしか開いてない。
並んでカウンターの席に座った。
子供がいないからってこんなのなんだかいけないかなって思うけれど
カウンターだし、2人っきりじゃないし、まあいいよね。
そう自分に言い聞かせていた。
生ビールが運ばれてきて、店長はジョッキを掲げた
「まず、乾杯しましょ。今日もお疲れさまでした。」
「お疲れさまでした・・・」
かちんとジョッキを合わせた。
う~~んやっぱり、一口目のビールってって最高。
そう思いながらジョッキを置くと、店長は優しい笑みで私を見てる。
「この間も思ったんですけれど、実花さん乾杯の時いい顔しますね。」
「悪い??」
「いや、いい顔なんですよ、本当に。」
そうニコニコ笑う。からかわれてるのかしら。
「ま、食べましょ。ほら。」
もうがつがつ食べてやる、そう決意して割り箸を割った。
揚げだし豆腐食べて、串焼き食べて唐揚げ食べてサラダ食べて、
ジョッキに2杯飲み干した頃には、食欲は収まってた。
年末のシフトの話とか、初売りの話とか
そんな話を選んでしていたけれど、ネタも尽きて来た。
でも酔っているせいか、何か喋りたくて仕方がない。
酔ってるせいだ、ついぽろっと口から出てしまった。
「本当に彼女いないの?」
店長はニヤリと笑った。
「やっといつもの実花さんになった。」
「いつものって何よ。」
「いえ、別に。」
そう言いながらもニコニコしながらビールを飲んでた。
「俺はね、実花さんが幸せでいて欲しいんですよ。
生き生きした実花さんの笑顔が好きなんです。
だから悩んでほしくないんですよ。」
そんなこと言われても困ってしまう。
どう受け取っていいんだか悩んでしまうじゃない。
「安心してよ、俺は実花さんに、旦那さんより俺を取ってって
言わないから。
そんな苦しくなるような事は言わない。
ただ、実花さんといると楽しいから。
だから飲もう、もう一杯。」
「そんなに価値のある女でもないわよ、私。」
「何言ってるんですか、人間の価値は
物差しなんかないですよ、
俺にとって実花さんの価値はうなぎ登り。」
酔っているのか知れないけれど、無邪気に言われて
恥ずかしいやらむずがゆいやら。
なんだか自分がすごく可愛い女になってる錯覚を起こす。
店長はどんどん続ける。
「旦那さんの事、今でも好きなんでしょ?
だから苦しいんでしょ。」
あれ、そこでなんでこの話なの?
「なんか今言われてた事と、質問がかみ合わない気もするわ。」
「悔しくない訳じゃないんですよ、でも
今の実花さんは、これを解決しないと進めないみたいだから。」
核心を突かれて、ドキッとした
「なんか付き合ってた頃よりよそよそしくなっちゃって。
相手も自分もね、子供もいるのに馬鹿みたいでしょ?」
「なんで実花さんはよそよそしくするの?」
・・・・・・・・・・・・・・
「なんでだろう。」
本当になんでかわかんない。
「また、私にとって聡は、憧れの遠くから見る人に
戻っちゃったのかなあ。
あの頃みたいな気分。」
そう言うと、しばらくお互い黙ったままになった
しばらくして店長が切り出した。
「悔しいなあ。」
「何が?」
「いつまでも実花さんに恋心持たせてるなんて
すごいのかも、悔しすぎる。」
「恋心なんかじゃないよ、多分。」
そう否定してみたものの、きゅっと心が締まった。
「実花さん、俺の付けこむ隙はないですか?」
並んで座っているせいか、首をかしげて店長はそう言った。
周りのざわめきが一瞬止まったように感じたのは
本当に気のせいのはずなんだけれど、
なんだか、そこで世界が一瞬止まった。
胸の奥がざわっとざわめいた。