episode 2
息子の巧と二人で夕ご飯。
当然のように、巧の好きなメニューに偏る。
今日はハンバーグ。向かい合ってゆっくり食べる。
「ママ、ご飯食べたら、パパに電話してもいい?
いつ帰ってくるのって聞きたい。」
息子はそう言って、ご飯を口いっぱいに押し込んだ。
「別にいいけれど、そんなに詰め込んだら詰まっちゃうでしょ?」
コップの麦茶を差し出すが、巧は一生懸命噛んで飲み込んだ。
「じゃ、電話するね、ママも話す?」
そう言われてドキッとした。
別の用事はない。用事なんかメールで済む。
「ママは、明日の準備があるしいいわ。」
そう必死ににっこりと笑って見せた。
「わかった。」
そう一言だけ巧は答えて、急に話題を変えた
「ママ、今度はドレッシングはゴマがいいな。」
茶碗を洗って、キッチンをモップで掃除をしていると
巧が楽しげに電話をしていた。
「ねぇ、パパ。クリスマスはサッカーボール新しいのが欲しいな。」
嬉しそうにおねだりをしている姿から目を逸らした。
モップのゴミを掃除機に吸わせて機会を止めると
巧が電話を握ったままやってきた。
「ママ、パパが代わってって。」
心臓が一瞬飛び跳ねた気がした。
「あ、そうなの?」
そう言って巧の差し出すコードレスの電話を受け取った。
「もしもし。」
おそるおそるそう言うと、一瞬遅れて聡の声がした。
「実花、変わったことはない?」
少しかすれて聞こえる。
「特には、今日は奈央の結婚パーティだったの。
巧は美穂が預かってくれたの。」
「ああ、奈央ちゃんの。」
「あなた声がかすれて聞こえるけれど。」
「ちょっと風邪気味でね、大したことないよ。」
なんだか罪悪感を隠せない。私のせいで風邪をひいたような
そんな錯覚まで起こしてきそうだ。
「ちゃんと・・・食べてる?」
「大丈夫だよ。巧のこと一人任せてすまないな。
何かあったらすぐ電話しろよ。」
「うん・・・」
電話の様子で察したのか、巧が横から騒ぎ出した
「ママ、切る前に代わってよ!!」
「あ、巧がまだ話したいって。」
「・・・ああ、じゃ代わってくれ。」
巧にまた電話を差し出した。
なんだか顔の中に何か違和感を感じる。
何かが膨れ上がる。そんな感覚。
必死に平常心を取り戻そうと深呼吸した。
もう泣くのはたくさんだ。
天井を見上げて、あふれそうなものを必死に戻した。
私は心が狭いのかもしれない。
この胸の奥のわだかまりを、どう処理していいかわからないままだ。
昨年の夏からずっとこだわっているのは私だけなんだ。
7歳上の聡と出会ったのは、高校生の頃だった。
初めて会ったとき、聡は高校の教育実習生だった。
一目で気になったけれど、その時はそのままで
再会したのは社会人になってから。
短大を出て就職した会社で、結局教職には就かず
就職していた聡と再会した時は正直これが運命だと思った。
聡は教育実習中ももてていた。
私は遠巻きで見ていただけだった。
社会人になって部署が一緒だったことと
その時の話題で親しくなれて
2年交際して結婚した。そして息子が生まれて
優しく子煩悩な聡と、幸せに暮らしていた
去年の夏までは。