episode 19
あっと言う間に学校は終業式を迎え
その日はきっと朝早くから浜松を出て来たのだろう、
夫の両親が昼前には家にやってきた。
滅多に会えないたった一人の孫に会いたくて、
ウキウキしながら来たのがよくわかる。
聡の性格と同じく、面倒見の良い、明るいさばけた義両親。
こんな両親の下で育った聡が羨ましいと思っていた。
「実花ちゃん、一人でいつも大変でしょう?
聡も転勤なんかになっちゃったし、早く戻れるといいんだけれどね。
なんなら転職して浜松にって言ったんだけれど、
まぁ、あの子の性格上、今更戻っては来ないんでしょう。」
嫌味には聞こえない、義理母はそんな愚痴をこぼしてはいたけれど。
途中でお昼ご飯にとお弁当を買ってきてくれて、
学校から帰った巧と4人でご飯を食べ、
午後1時には3人で、浜松に出発した。
巧も嬉しそうに車に乗り込んだ。
「ママ、お土産買ってくるね!」
そう言って、巧は手を振った。
私はそこから仕事に出る準備に入った。
今日は遅番と変わってもらったのだ。
義両親がわざわざ来てくれるし、出迎えない訳にもいかないし。
だから珍しく遅番で出勤する事になった。
閉店の9時まで残らないといけない。
まぁ、巧がいないのでその辺は問題ないけれどね。
初売りの準備とかで、明日からも少し長めに仕事を入れた。
車を見送って戻った部屋は、がらんとしていて
なんだか寂しいと思ってしまった。
出勤して、今年最後の発注にかかった。
今日を逃すと、今年中には間に合わない。
在庫とにらめっこして、他の備品の在庫も確認して。
こういう風に任されるのは、すごく楽しい。
パートとはいえ、自分の場所があるって気分になる。
発注の予定を一覧にして、店長の決済を貰おうと、
店長の姿を探した。バックを出て店内へ移動した。
ショッピングセンター内は、クリスマス一色。
巧には年末に渡す約束をしているので、まだ選んでいない。
欲しいものは大体知ってはいるけれど、うちにはサンタさん神話はない。
パパと3人で買いに行くと楽しみにしているのだ。
巧の気持ちを考えると、今の状況は非常に申し訳ない。
店内でレジに入っていた店長を捕まえた。
「チェックお願いします。」
そう言って決済板ごと書類を渡し、レジを交代した。
「では、包装が終わりましたらお呼びしますので、
それまで店内ご覧になってお待ちください。」
そう言ってラッピングにかかった。
3歳位の女の子向けのサイズのかわいいワンピース。
発注の時からかわいいなあと眺めていたワンピースだ。
うちには縁のなかった、可愛いワンピース。
ピンクの箱に詰め、クリスマスの包装紙で包む。
横で、発注予定表を見ていた店長が、
「これ、印鑑押しましたから、置いておきますよ。」
そう言って後ろの台に置いた。
「ありがとうございまーす。」
包装中の箱から目を離さずに返事をした。
「今日、実花さん最後までですよね。」
「はーい、ラストまでいます。」
リボンの結び具合を決めていたので、気持ち半分で返事をしていた。
「終わったらご飯食べに行きませんか。」
「いいですねー・・・じゃなくて!」
思わず顔を上げて店長を見たら、ニコニコしながら
「いいって言いましたよね、じゃ。」
そう言って次のお客さんの接待に行ってしまった。
いいよとは言ってないけれど・・・・
ダメとも言えない自分に自己嫌悪・・・・