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episode 15

久しぶりの飲み会はやっぱり楽しい。

巧はお泊まりだし、遅くまでゆっくりできるし、

なにより、心のもやもやも忘れられた。

ジョッキで飲むビールは味が違う。

酒屋で売ってる缶のカクテルと何かが違う。

解放感かな、なんかいつもある重責が外れるせいかな。

気晴らしってやっぱりたまには必要なんだ。


みんな昼間と違う顔がある。

こういう時じゃないと出来ない会話もある。

そんないつもの仲間との新鮮な会話に

気持ちが弾んでいた。

2時間の飲み会はあっという間に終わり、

2次会に移動して、また飲んだ。

時計が午前0時を回った頃には徐々に人は減って

気がつけば、酔い潰れた若い社員の女の子をどうするべきか

店長と二人で悩む羽目になっていた。

仕方がないので、二人で向かい合って飲みながらだけれど、彼女が起きるのを待っていた。

「実花さんは大丈夫ですか?家。」

「うん、今日はね、帰っても誰もいないから。」

「息子さんは?」

「友達の家に泊まりに行ってるのよ。」

そう言うと、店長は嬉しそうに、

「じゃ、まぁ、飲みましょう。」

にっこり笑って、メニューを再度開いた。

「もうあんまり飲めないよ。だからグラスワインにする。」

「飲めるんじゃん・・・・」

酔ってるせいか、何故か2人で大笑いした。

何がおかしいのか良くわかんないけれど

すごい楽しい、楽しいんだ。


「ねぇ実花さん、なんかすごい悩んでるでしょ?」

「そう見える?」

素直に切り返すと店長は

「うん、なんか旦那さんが単身になる前からおかしかった。」

「いろいろあんのよ。」

つい目線を外した。生傷は触らないほうがいい。

「結構深刻?俺に話してみない?」

その言葉に驚いて、店長の顔を見ると、酔ってるわりに真面目な顔だった。

なんだかその目線に、ぐらっときてしまった。

もう何もかも預けてしまいたいそんな衝動に駆られた。


私の方は酔ってた。きっと店長も酔ってると思う。

酔ってなかったらこんな話はしようと思わない。

でも、本当に真摯な顔でそう言われると

胸の奥のつかえたものをちょっと吐き出したくなってしまった。

つい昨年からの話を店長に打ち明けてしまった。

目もとからついこぼれる涙をごまかすのは大変だった。

深刻そうでなく、明るく話してみたけれど

心の底のチクチクしたものは忘れられない。


「なんだか、出来てしまった溝を埋められなくて

 転勤の話が出ても、ついて行くって言えなくて。

 ただでさえ九州なんて旅行でしか行ったことないし、

 この状態で周りに友達も知り合いもいなくなったら、

 そう思うとやっていけないって思ったのよね。」

話をそこで終えると、店長は黙ったままだった。


「ごめんね、こんな楽しい日にこんな話して。」

「いえ、こんな時でないと聞けないから。

 旦那さんって頼られる人なんですね。

 俺とは大違いだ。大人の男なんでしょうね。」

「昔から、周りに人が集まる人で

 私は周りで見ているだけだったの。

 なのに、なんでか私と結婚したのよ。

 その辺が謎よ、周りに綺麗な子たちいっぱいいたのに。」

そう言うと、店長はすかさず、

「実花さんは綺麗ですよ。

 実花さんは自己評価辛すぎ。」

そう面と向かって言われるとびっくりだ

「あ、ありがとう。何も出さないわよ。」

そう言うと、にっこり店長は笑った。

「店長こそ、彼女いない悩みとかない?聞くよ?」

そう言うと、

「いいの、俺はかなわぬ恋をしているんだから。」

「え?かなわぬ恋?」

「そうなんですよ、きっと叶わないからいいんです。」

そう言って私を見た。

本当はさ、私もバカじゃないから、店長の言いたい事はわかってる。

私も、こういうあやふやな関係を楽しんでいるのかも知れない。

壊したくない、そんな身勝手な気持ち。

ずるい、私はずるいな。

そんなの本当はわかっている。

でも、今、店長の存在が、私に取って大きくなってきている。

これ以上は、踏み込んだらいけない。

たとえ、たとえ私が、聡とこのまま別れても、

店長を巻き込んだら、私は一生救われないし、店長をダメにしてしまう。

このまま、気の合う仲間でいないといけない。

私は、明るく答えた。

「いつか、店長にピッタリ合う、運命の人が現れるよ。」

店長は寂しそうに笑った。

そうよ、お似合いの若い女の子が現れる。

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