episode 14
何にもやもやしてたんだっけ?
聡を信じなかった自分にだとか、そんな事言いながらさ、
いい子ぶってるような気もする。
「そう言えば、私、全然聡を責めたりとかしてないんだ、
なんだかんだ言って朝までその人と一緒にいた事とか
本気でムカついてるのに言えなくてさ。
その後も何も言わないのを聞けなくて
急に信じて黙っててくれてありがとうとか言われて、
余計に何も言えなくてさ。
信じて黙ってたんじゃなくて、知るのが怖くて黙ってた訳よ、きっと。」
ああ、こうして話すと、なんだか絡まってた糸が解ける。
本音の自分が見えて来た。
「実花はまだ、この件について完全燃焼してないわけだ。」
「そうかもしれない・・・」
「お互い遠慮してるんじゃない?
実花がその壁をぶち壊しちゃえば?
子供に見せたくないなら家で預かるけれど。」
そう言って奈央は意地悪い笑いを浮かべた。
「殴ってるとこ見せちゃまずいもんね。」
「1発で止めときなさいよ、DVになっちゃう。」
「あ、単身赴任でいないんだった。殴れない。」
2人で涙が出るほど笑った。
お昼は出かけてランチして、ぶらぶら買い物して奈央と別れた。
人込みを、少し先に巧が歩く。
時々こっちを振り返り、あっち?こっち?と聞きながら。
結局好きだから憎い、か。
この言葉がすごく引っかかる。
「好きなのかな、」
ついぼそっと口をに出してしまった。
食品コーナーで野菜を選んでいた時だった。
「ん、ママ何が好きだって?」
慌てて、握っていた大根を置いた。
「あ、大根よ大根。巧好きだったかなって。」
「おでんならね、好きだけれど。」
そう言って、肉売り場に歩いて行った。
私は大根の前を離れて、巧の後を追った。
結局は素直になれってことなのかしら。
好きなものは好きだって。そんな簡単そうな話だけれど、
そこがうまくいかないのが、大人の不思議かも。
12月に入ってすぐ、忘年会が行われた。
社員とパートにバイトを合わせて8人ほど。
うちの店だけの忘年会。営業所主催のは再来週にあるようだった。
12月とはいえ、そんなに寒さも感じず、集合場所の居酒屋に向かった。
最近、繁華街に出る事がなかったので、集合場所が良く分からない。
早目に家を出たのに、お店が見つからない。
集合時間まであと5分。
電信柱の住所表示は確かに近くの住所を示しているのに、
どうやら私は、迷っているようだ、うん。
その時、携帯が鳴った。
画面には店長の名前が出ている。
ホッとして、電話に出た。
「もしもし。」
店長の明るい声に、後ろでいろんな人の話し声が混じる。
「実花さん、あと実花さんだけよ。今どこですか?」
「う~~ん、確実に近くにいるんだけれど。」
「もしかして迷子?」
「そうとも言うかも。」
ぶーっと大きく噴出しているのが聞こえた。
「失礼ね、夜の街には滅多に出ないのよ。」
そう言うと、
「目の前に何があります?」
周りを見渡すと、1軒先にたばこの自販機、目の前にラーメン屋があった。
「やきとりの赤ちょうちんにラーメンいわいと、たばこの販売機。」
そう言うと、
「わかりました、そこで待ってて。」
そう言って電話は切れた。
2分程で、小さな路地から店長が出て来た。
走ってきたらしく、息が上がっている。
「実花さん、隣の通りなんですよ。」
「え?本当に?」
「この路地から入れるから行きましょう。」
そう言って肩に手を置いて、小さい路地に誘導された。
なんだか触れられてドキッとしたけれど
悟られないように、なんともない振りをした。
人が並んで歩くのも少し狭い小さな路地。
15メーターほどで向こうの路地に出るようだった。
でも、電気少なく少し薄暗い。
「待ってたんですよ。」
そう言う明るい店長の声に
「早く乾杯したかったんでしょ。」
そう言うと、店長は急に真面目な声で、
「実花さんと飲めるなんて滅多にないから、楽しみです。」
そう言って、ふふっと笑うと、
「さ、早く行こう。」
そう言って肩に添えた手に力を込めて来た。