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episode 13

12月に入ったすぐの土曜日、新婚の奈央の家に

遊びに行った。

もちろん巧も一緒に。


奈央の住んでた部屋の上の階の部屋は

前の部屋よりほんのちょっと広くて

でも、どことなく前の部屋の雰囲気も残ってた。

「今日、圭司さんは?」

キッチンの奈央に話しかけると

「土曜日は、まず休みってことがないの。

 圭司もゆっくりして行ってねって。」

奈央の入れたコーヒーと、私の持ってきたケーキで

まずは10時のお茶を飲んだ。

食べ終えると、巧は広いベランダに出て外を見ると

席を外した。

その途端、2人の会話が盛り上がった。

「すごい早い展開だったよね、奈央。

 あーんなにさ、ドロドロ思ってたじゃない?」

そう言うと、奈央はフフフっと笑った。

「まあね、もう会いたくない人この世でNO.1だったと思うけれど。」

「本社に行ったときとか、こそこそ逃げたとか言っててさ

 こっちに戻って来た時も、すごい泣き顔の入ったメールして来ててさ、

 で、あっという間に元の鞘ですもの、奈央ったらさ。」

わざとらしく皮肉めいて言うと、奈央も笑っていた。


「そう言えば、単身赴任って期限あるの?

 福岡だっけ?聡さん」

「ああ、北九州。小倉よ。」

「遠いね、九州とか。」

「年末は帰ってくるみたい。夏は忙しくて戻れなかったから。」

「ね、実花。まだ引っかかってるの?去年の事。」

悪友はこういうとこストレートだ。

まぁそう言うところが良いのだけれど。

「まぁ、隙があったとはいえ聡は悪くなかったし、

 でもさ、私もすごい疑っちゃって。」

「仕方がなくない?あんな事されたら私だって不安定になるよ。

 でも、これにこだわって、実花たちがおかしくなったら、

 それこそ向こうの思うつぼだし。」

「でも、九州に全部捨てて行く勇気もないんだ。」

そう言うと二人しばらく黙りこんだ。

12月とはいえ、天気が良くて部屋の中は結構暖かい。

ベランダで空を眺めている巧も、遠くまで見るのに夢中のようだ。


「ねぇ、奈央。奈央はどうやって乗り越えた訳?」

「何を?」

「だってずっと勝手に置いて行ったこと

 どこか憎んでたわけでしょ?

 だから5年隠れたりしてたんだし。

 5年の思いをどう処理しちゃったの?」

奈央は持ってたカップをゆっくり置いた。

う~~んとしばらく考えて話し始めた。


「なんだかんだ言って、忘れられなかったんだよね、多分。

 憎いって思い続けるってパワーのいる事よ、

 人を憎いと思うって疲れちゃうじゃない?

 町で会ったら嫌だなとかずっと考えてるじゃない?

 余計なパワーを使ってまで、憎いって思うって

 相手への思いが強いってことかなって思った。

 本当なら5年もあったら他に行っても良かった事だよね。

 私さえ気持ちを切り替えられたらさ。」


淡々と話す奈央の顔をまじまじと見つめた。

奈央はなんだかんだ言いながら5年間誰とも付き合ってなかった。

いつも、前の男が良すぎたのよね、って冷やかして

その度、冗談じゃないって切れてたっけ。

「結局、私は圭司の事が好きだったのよ。

 好きだけど報われないから、多分憎むことでごまかしてたのよ。」

そうにっこり笑う奈央は、以前より格段に綺麗になっていた。

幸せなんだろうなあ、きっと。

好きだから憎いか、そっか。

「・・・・・ごちそうさん・・・」

「ちょっと!、なによそれ人は真剣に答えたのに。」

「結局、ノロケじゃん、美味しかったよ。」

「もう、実花ったら。」

二人で大笑いした。こんな毒のある掛け合いで本音を語れるって

なかなか他にいない。

私はいつから聡に本音が言えなくなったのかしら。


「なんかさ、あの時さ、あまりのメールのインパクトに、

 聡に対する怒りまで湧いてこなかったのね、

 事が落ち着いてからさ、表面を繕うことばっかりしていて

 本題に触れるのが怖くて逃げてたら

 いつの間にか腫れ物に触るような生活になってて

 どうしたらいいかわからないまま単身赴任になっちゃって。」

「じゃ、今は怒ってる訳?」

奈央に言われてドキッとした。

あれ、私のもやもやの原因はなんだっけ?


 

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