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episode 1

11月の晴れた日曜日。

高校からの親友の奈央の結婚パーティーが行われた。

奈央は、別れて閉まった後もずっと

5年も思い続けた彼と、

晴れてよりを戻したと思った途端に結婚した。

奈央は会社じゃ頼れる主任だったらしいけど、

昔馴染みの私から見たら、

不器用で自分の気持ちを出さない奈央が、

このまま一生仕事に人生を捧げてしまうのではとかなり心配したけれど。

どうやら圭司さんも似たタイプだったようで、本当に良かった。


私は、奈央に近づいた。

「おめでとう、奈央。

 本当良かったね。

 お腹の赤ちゃんたちは順調?」

そう話しかけると、奈央はこっちを振り返った。

「実花、ありがとう。」

満面の笑みの奈央に抱きつかれた。

しばし二人で抱き合った。

「赤ちゃんつぶれちゃうじゃない。」

そう言って、奈央を離した。

「順調よ。2人とも。女の子じゃないかって。」

そう言ってお腹をさする。

圭司さんも友達と離れて、近寄って来た。

「実花ちゃん、久しぶり。

 今日は来てくれてありがとう。」

そう言いながら手を差し出してきたので、握手をした。

「おめでとうございます。

 ほんっとうこのままじゃ、

 奈央が干からびるって心配してました。」

そう言うと、にやりと笑いながら

「俺が干からびるのが先だったよ。」

「いえ、相変わらずのイケメンですよ。」

「本当に、実花ちゃんには、俺勝てないもんな。

 いつでもうちに遊びにおいでよ。

 奈央ももう家にいるし、

 まだ家にずっといることに馴れないみたいだから

 相手してくれると助かるな。」

「お安い御用ですよ。

 のんびり過ごす方法でも伝授しましょうか?」

こんなに楽しく会話をしていても、

2人の眩しいくらい幸せそうな笑顔に、胸がちょっぴり痛んだ。

私達もこんな頃があったはずなのに。

そんな思いを無理矢理押し込んだ。

今日は2人を祝う日なんだから。日差しが暖かく、

11月にしては気温も高めで気持ちがいい。

空を見上げたら、ふと涙が浮かんだ。


ランチタイムのパーティーだったので、

5時には自宅のあるマンションについた。

そのまま小学1年の息子を、

同じマンション内の友人宅に迎えに行った。

山内、とある玄関には、気の早いクリスマスリースが飾ってある。

インターホンを鳴らすと、すぐに

「あ、お帰り。すぐ開けるね。」

ほんの10秒程で、友人の山内美穂が、笑顔で出迎えてくれた。

「実花、随分早かったのね。

 ゆっくりしてきて良かったのに。

 巧だってうちの宗哉と仲良く遊んでたし。」

美穂はいわゆるママ友達なのだが、

同じ年で、子供も同じ年、なんだか気も合って

あっという間に仲良くなった。

こういう、子供を見られない時など

お互いに預け合っている、貴重な存在だ。

私は実家と疎遠な上、夫は単身赴任中。

そんな私をいつも気にかけてくれる。

「ありがとう、私みたいな子持ちのおばさんは

 さっさと帰んなきゃ。

 これ食べてね。お土産。」

そう言って途中で買ってきたケーキを差し出した。

「ありがとう、とりあえず上がんなよ。」

そう美穂は言ったけれど、

「この格好だもん、早く帰って着替えなきゃ。

 太ったかしら?なんか息苦しいし。」

そう笑いながら答えたら、

「実花は太ってなんかないわよ。私の方よ。

 わかった、巧呼んでくるから。」

そう言って玄関の奥に消えた。

息苦しいのは、胸の奥が苦しいせいだ。

そんなの分かっている。わかっているもん。


同じマンション内とはいえ、家は3階上になるので

エレベーターで上がって帰る。

息子のたくみは、夫に面差しが良く似てきた。

まだ幼いその横顔を見ながらエレベーターを待っていた。

「ママ、何?僕の顔何か付いてる?

 今日ね、シュウとね、シュウのママとね

 公園も行ったよ。」

はっと我に返って、笑顔を返した。

「楽しかった?良かったね、天気も良かったし。」

そう言うと、さらに明るい笑顔で

「シュウのパパとママと4人でサッカーしたよ。

 ねえ、今度はいつパパ帰ってくる?

 パパとまたサッカーするんだ。」

「クリスマスの後かな、楽しみだね。」

「うん!」

エレベーターのドアが開いた。

息子と手をつないで乗り込んだ。

夫はこの夏から福岡に単身赴任になった。

こうして離れて暮らすことは、本当に正解だったのか

自問自答を繰り返す。

ついて行かなかった理由は

子供の学校だけが理由ではなかった。

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