物事には何でも限度というものがあって
この話は"何をおっしゃっているかよく分かりません"というお話の登場人物たちのサイドストーリーです。
先にそちらを読んでいただく方が面白いかも?
イポクリジーア・ブジャルド男爵令嬢は、よく物語に出てくるような平民庶子からの成り上がり…ではない。そして男爵の再婚相手の平民の連れ子…なんてこともなく。
比較的のんびりした丘陵地帯を治めている地方貴族の両親の間に産まれた、正真正銘の男爵家のお嬢さんである。
あんまり出世欲のなさそうなお父上に、穏やかそうなお母上。お兄さまはそこそこ優秀で、領地は安泰と言われている。
そんな家族の中に突如現れた異分子がイポクリジーアだ。
「私はこんなところで終わる人間じゃない!」
が口癖の、超の付く上昇志向の持ち主だった。
その志は良いと思うの。でもね。"終わらない"ために勉学に励むならともかく。
高位貴族への嫁入りを画策し始めたのだ。玉の輿で成り上がり!ってやつね。
最初は一つ上の学年にいた第二王子狙いだったんだって。おっそろしー。
だけど王子殿下からはたった一言。
「誰かコレ退けてよ」
その場に居合わせた、宰相の長男が護衛に命じて摘み出し、殿下の婚約者からは何故近づいてはいけないか滔々と語って聞かされて辟易したらしく。狙う男のランクを少し落とすことにした。
いや、男爵令嬢にランクを落とすなどと言われる筋合いの方々では無いんだけど。
次に"妥協"して狙うことにした侯爵子息とは雑談を出来るくらいには仲良くなれたことに気を良くして、婚約者を引き摺り下ろしてやろうとあの手この手を使おうとしたら。
「俺の婚約者を追い落とすつもりとかマジか?殿下に"他に被害が出ないようにオマエが相手しとけ"って言われたけど、ふざけんなよ。」
と、恐ろしい顔で睨まれたので、大変不本意だったけれども伯爵、子爵令息あたりまでランクを落とすことにした。いや、男爵令嬢に不本意などと…以下略。
そこまでランクダウンしても、ちやほやしてくれるのは箸にも棒にもな小物だったが、彼女がひっかけられるのはここが限界だった。それでもやたらめったら声をかけた甲斐はあったみたいで、2〜3人は略奪に成功し、婚約解消まで持ち込んだことで
「まあ少し不本意だけど、ここから1番条件の良い男を選べば良いわ」
と勝者の気分を味わっていた。
だが、蓋を開けてみたら…
婚約解消後にいざ!と彼女との婚約を両親にお願いした子息たちは
「アホかっ!あんな身持ちの悪い女、うちの敷居を跨がせるか!あ?どうしてもっていうなら除籍してやるから好きにしろ」
と猛反対にあい、両親のあまりの剣幕に恐れ慄いた子息たちは婚約を諦め、せっかく頑張ったのに略奪は一つも実らなかった。
失敗から学ばねば!と思った彼女は敗因を考える。そこで彼女は閃いた。
子息じゃなんにも自分で決められない。なら!
そしてわたくしの婚約者だったイディオが狙われたのだった。彼はお父上が少し大きなトラブルに巻き込まれたせいで随分早くに子爵を継ぐことになったのだ。
現在は子爵を名乗りつつ、周囲の手助けを受けてどうにか領地運営し、自分は学生として色々と学んでいる最中だ。
そしてわたくしとの婚約は。
彼と彼の領地を支えるためのもの。だって同じ派閥だからと言って何もないのに援助なんてできないからね。
けど、どうやら彼はその辺りを理解しきれていなかったようだ。
わたくしは侯爵令嬢。そう、侯爵令嬢が子爵家に嫁ぐのだ。これだけ爵位に差がある婚姻は大概が訳アリだ。今回の場合は資金援助…と言いつつも実は迷惑料として援助をするための理由付けでしかなかった。だからわたくしに恋愛感情はないし、そんな理由での婚約だからイポクリジーアに嫌がらせをするような動機はないのである。
それが分かってないなんて。彼のお父上はどう説明したんだろう。
婚約解消の段になり、彼のとんでもない思い違いが露呈して我が父は
「こんの…アホンダラ!ご両親への恩がなければ家ごと取り潰してやるのに!」
とずっとイライラしていた。
「まあまあお父さま。わたくしも大概はらわた煮え繰り返ってますけども、それよりなにより彼とのご縁が切れたことに感謝しておりますの。だからもうそこまでで。」
※※※※※※
「えっ…おかあたまっ!おかあたまあー」
目から鼻から。ぐずぐずといろんなものを撒き散らした幼女が物凄い速さで駆け寄ってぶつかって来た。
え?おかあたま?え?え?わたくしこんな子産んだかしら?あら?何か大事なことを忘れちゃってる感じ?
軽くパニックになってしまったわたくしの横で夫はもっと動揺していた。
「い、いつの間に⁈だって!俺たちほとんど一緒に居たよね?いつの間にこんな大きな子を産んだの?えええ!全然気がつかなかったよおおおお」
夫の明後日の方に突撃していくような狼狽え方に、わたくしは逆に冷静になることができた。
「何を言ってるの?貴方に知られずに子供なんて産めるわけないじゃない!」
幼女に向き合って、優しく聞いてみる。
「ねえ、貴方お名前は?」
「お、おかあたま?おかあたまじゃないの?ないのー!!」
びえーん!さらに激しく泣かせてしまった。どうしたものかと夫婦で狼狽えていたら、わたくしたちよりももっと狼狽えた侍従と思われる年配の男性がやっと追いついた。
「あ、アンファンさまっ!急に走り出してどうなさったのですか?じいやはもうアンファンさまの全力疾走には追いつけないので…」
ああ、これはややこしいことになりそうだ。
何故なら追いついてゼイゼイ言っていた男性もまた目を見開き。
「おおおおお!おくさまあっ⁈」
と叫んだから。
「アロガンシア子爵、夫人。先ほどはお嬢様も私も本当に大変失礼を致しました。申し訳ございません。」
深々と頭を下げる年配の男性、もとい執事のイコノモスさん。
お詫びにと誘われた、子爵程度では到底予約の取れない有名カフェにてお茶と甘いものをご馳走になりながら事情を説明していただいた。
なんと、わたくしは先ほどの幼女、アンファン様のお母様にそっくりなんだそうだ。
彼女は元来身体の弱い人だったらしく、アンファン様を出産後、日に日に弱っていき彼女の4歳の誕生日を祝った次の日に帰らぬ人となったそうだ。
アンファン様はその気配を敏感に感じ取っていたのか不安定な状態が続いており、心配したお母様が家族に対してひと芝居打つことを提案した。
亡くなったとは言わず、治療のために魔法の国へ行って元気になって帰ってくると伝えるように、と。
健気な彼女はその言葉を信じ、母が最期を迎える瞬間まで隣でぴったり寄り添い眠っていたそうだ。
「魔法の国はとても遠いからね。お母さまが眠っている間に連れて行ってもらうんだよ。」
私が彼女と会ったのはそう言ってお別れしてから半年ほど経った頃だった。
彼女は魔法の国で元気になったお母さまが帰って来てくれた、と飛びついて来たらしい。
話を聞きながらわたくしは涙してしまった。
…隣でその何倍もおいおいと泣いている夫を見て冷静になったけど。
恐縮して頭を下げ続けるイコノモスさんに
「事情はよく分かりました。お気になさらないでください。」
と伝えてお暇しようとした時。
「おかあさま!おかあさまが本当に帰って来てくださった!」
先ほどの余裕のない突撃泣きべそとは違い、うるうるとしながらアンファン様が個室に入って来てしまった。
そして膝の上に乗りギュッとしがみついて来た。
必死でしがみつく彼女を、わたくしは無碍に引き離すことができなかった。
夫は声を出すまい、と口を両手で押さえながら必死に声を押し殺して泣いている。何故わたくしより泣く?
そして後日衝撃の提案を受けたのだった。
※※※※※※
「え?しばらく母親のふりをしてもらえないか、ですか?」
なんだか大事になっている。
あの日、しがみついて来た彼女が眠るまで抱きしめて背中を優しく撫ぜてやった。安心して眠った彼女を乳母に渡して帰ったのだが…
彼女、アンファン様はなんと隣国公爵家のお嬢さまであった。
3人兄弟の末っ子でいらしたアンファン様だが、ある程度物事が分かるようになってきていた兄たちとは違い、いまだにお母さまは戻ってきてくれると信じていた。
あの日。母が帰って来たと安堵して深く眠った後、目覚めてすぐお兄さまたちにお母さまが帰ってきた!と報告しに行ったのだ。
でも。
その頃にはわたくしの姿はどこにもない。彼女はそれからずっと泣いているんだそうだ。
食事も喉を通らず、日に日に衰弱しているらしい。
心は痛む。痛むけれど。
「えーっと…。流石にバレるんじゃないですかね?まだ半年ほどでしょ?亡くなられてから。街中でばったり会った一瞬とは違うでしょう!」
「アロガンシア子爵夫人。どうにかお願いできないだろうか。」
「シュウェット侯爵!何故貴方がここに?いや、どなたが来られようとも同じ事だ!彼女は私の妻ですよ。貴方がたが仰っているのは、円満な夫婦を無理矢理引き裂くのと同じ事なんですよ!」
「流石に君たちを引き離そうとは思っていないのだよ。力を借りたいんだ。あの娘の母親は我が国の出身なんだ。…従姉妹だったんだ。従兄弟連中の中で1人だけ歳が離れていてね、みんなのお姫さまだったんだよ。」
なんと、そんな事情があったとは。
「なるほど、そういう事だったんですね。遠いとはいえウチの妻とは血縁があったと。こんなに薄い繋がりなのに顔だけは似ているなんて、血の繋がりとは奇妙なものですな。」
シュウエット侯爵が頷く。
「そうなんだよ。遠いとはいえ親戚だと判明してホッとしたよ。何の縁もなかったら、もしかしたら彼女の父上が知らないところで?などど邪推するところだった。」
そんなに似ているの…?と疑心暗鬼だったが当のご本人、パテル・ソダーリス公爵とご子息に会って、これはよっぽどだと実感した。
「な、な…。マードレ!マードレなのか!」
いえちがいますぅ!
「はっ!はっ!ははうえっ!本当に魔法の国から帰ってこられたんですかっ!」
ご子息2人が駆け寄って抱きつこうとして来た。済んでのところで夫がうわーっと叫びながら割り込んだ。
「ちょちょちょ!この人は私の奥さんですぅ!貴方たちのお母さまとは違うんですぅ!」
夫の焦りは当然だ。こちらにその気がなくても、向こうは公爵家だ。いざとなれば無理矢理連れて行かれる可能性だってある。
ハッと我に帰った公爵とご子息は慌てて謝って下さった。
「子爵夫人、子爵。取り乱して済まない。だが、本当に…」
3人とも涙ぐんでいる。
「母上が本当に帰って来て下さったのかと、そんな事ないのは分かってるんですが…大変失礼いたしました。」
「そんなに似ているとは…」
「アンファンが…間違えてしまうのも納得です。本当にそっくりだ。遠縁の方だとお聞きしましたが、ここまで似ているとは思ってもいませんでした。」
そんなに似ているのか。とはいえ、私たちは全くの赤の他人だ。どんな奇策を考えているのか知らないが、幼子といえども母だなんて偽ってバレないわけがない。そう思ったら、だんだん腹が立って来た。
「バレないわけ、ないじゃないですか!バレた時、へへっバレちゃった!で済むと思うんですか!」
そうだよ、気がついた時あの子が負う傷を誰も考えちゃいない。
「今の何倍も何十倍も傷つくことになるんですよ!いい大人が揃いも揃ってなんてくだらないことを!」
私の剣幕に誰もが押し黙った。
なのになぜ私は…。
「おかあさま!」
ここに来てしまったんだ…。
「アンファン。少し背が伸びたわね。ふふっ。お母さまに追いつくのなんてすぐかもしれないわね。」
「やだっ!わたくしは大きくなりたくないわ!」
頬を膨らませてそう答えるアンファン様。
「まあ!何故かしら。」
「だって、だって大きくなってしまったら…」
ギュッとしがみつきながらこう言った。
「きっとお母さまはどこかに行ってしまうから。」
ううう…ぐずっぐずっ…
だから!何故貴方が1番泣いているの!少し離れたところで侍従に紛れている夫が大泣きしている。
でも、これでよく分かったわ。
アンファン様はちゃんと理解している。していてなおのこと、ただ似ているだけの私でも良いからそばにいて欲しいのだ。
「ごめんなさいね。アンファン様。私は貴方のお母さまではないの。アンファン様も分かっているのよね?」
「はい。最初にお会いした時には本当にお母さまだと思っていました。けど、2回3回とお会いするうちに…」
「アンファン様はお母さまがとっても大好きだったのね。…ほらみなさん。みなさんよりもアンファン様の方がよっぽど大人びているわ。」
なりすましを考えていた面々は俯いてしまった。
「もう、あんなに大好きだったお母さまを間違えるはずないでしょう。…でもね、アンファン様。貴方のお父さまもお兄さまもおじさまも。そしてわたくしもアンファン様に元気を出して欲しかったの。やり方はちょっと間違えてしまったけれど、それは分かってあげてちょうだいね。」
「はい。…あの、お名前を聞いてもいいですか?」
「わたくしの?わたくしはね、メーテールというの。」
「メーテールさま。これからもたまに…こうやって甘えてもいいですか?」
あまりの健気さにわたくしの目からもポロリと涙が溢れ…
「ううううおおおーん!いいっ!いいに決まってる!会いたい時にはすぐ会える所にちゃんといるからあああ!」
だから!何で貴方が感極まるのです!
みんな呆気に取られて涙も出なくなってしまった。
当然アンファン様の涙も止まって…
「うふふ。こんなに心配して下さってるのにわたくし、あなたのお名前も知らないわ。聞いてもいい?」
「ううっ、パテラス・アロガンシアと申しますううう、ぐずっ。パパと呼んでもいいんだよぉぉぉ」
「子爵、父上はまだ生きていますから!それは大丈夫ですっ!」
ご子息からツッコミが入ったわ。それにしてもあの人ったら。あんなんで良く子爵なんかやってこれたわね。
最初はみんな困惑しきりだったけど、夫の大号泣があまりにも面白くて最後にはみんな笑い出してしまった。
※※※※※※
「と、まあこんな事があってだな。お前に子爵を譲ることになったんだ。」
「端折りすぎだよ!父さん。何をどうしたら子爵位を譲る話に繋がるんだよ⁈」
「まあまあ。わたくしとお父さまはそんな感じでしばらく隣国に行かなかればならないのよ。」
「母さんもそれで済ますの⁈」
「でも悪い話ではないんだよ。侯爵家のお嬢さん、エフティーア様がお嫁に来てくださるそうだし、それに伴って色々と便宜を図ってくださるんだ。」
「そうよ、お父さまだって頑張ってらっしゃるけど所詮子爵だから貴方へかけられる教育資金なんて知れているのよ。それが侯爵家で領政はもちろん子爵家当主としての振る舞いに至るまで、教育費を全て受け持ってくださるのよ。貴方が子爵を継ぐのにこんな好条件、もう一生ないんだから。」
「…その見返りが、学生にして子爵としての責務を果たし、さらに妻にも妻の実家にも頭の上がらない一生という事ですか。」
「婚姻はおそらくお断りできるぞ。でもなあ、一度も交流もないままお断りしていいのか?案外気が合うかも知れないのに。それに侯爵も威張り散らすお方じゃないから、不安は直接ぶつければいい。」
こうして私は子爵でありながら学生をやることになった。侯爵家からの援助は確かに至れり尽くせりだ。だが…
「結局オレはエフティーアのわがままを叶えるために売られたんだよ。」
「金さえ出せば文句ないだろうって親まで遠ざけられたんだ」
「オレだって学生の間は愛だの恋だのしてみたかったよ。けど、そんな自由は許されないんだ。」
そう。オレは不満たらたらだった。足りないとはいえ父はちゃんと説明してくれたはずなのに、いつの間にか。
「オレは侯爵家の横暴の犠牲者なんだよ!」
だって、便宜を図るだけなら婚姻なんて別にいらないだろう?侯爵家のお嬢様がたかだか子爵家に嫁ぐなんて、そこまでしないといけない理由にならないはずだ。だから。
オレに執着しているから。オレを手に入れるためなら何でもするから。
イポクリジーアにも苛烈なイジメをするんだと信じて疑わなかった。
どれだけ手ひどく扱っても許されると信じていた。
それが。誰が思う?
あの女、オレに興味がなかったなんて。
イポクリジーアが玉の輿に乗るために裏で汚いことをしていたなんて。
周囲の人間だって、オレの話を聞いて一緒になって怒ってくれていたのに。
「だってさあ、お前。あんなに厚遇を受けていながらいつでも不満ばかり口にしてたよね?そりゃあ誰も真面目に忠告なんかしないよ。お前みたいな文句しか言わない嫌なやつが将来安泰なんて気に入らないじゃないか。それに、細かい事情は分からないけど、侯爵家のご令嬢が子爵家と縁付こうとしてるんだよ?お前がやらかしたらその厚遇、自分に回ってくるかもしれないって思うやつもいるんだよ。」
そんな…周囲にはそう思われていたのか。教えてくれた友人は婚約者との仲睦まじさで有名な奴だ。だからオレの境遇を嘆いてもいつも2人がかりで嗜めてくれていた。だから最近は少し避けていて、共感してくれる他の友人とつるむ事が多かったんだけど。
「そりゃそうよ。だってどう考えたって身に余る幸運のはずで、あっという間に持ち物も何もかもランクアップしたでしょう?そんな幸運だけは享受して婚約者を大切にしない人に。…さらに言うなら、婚約者に見限られたら親しい関係なのがデメリットになるって理解している人は側に寄らないわよ。」
「じゃあ今、オレと仲良くしているのは…」
「次の婿の座を虎視眈々と狙っているか、何故貴方が急に一流の装いになったか理解できていないのにお金の匂いがする!と近寄って来たかよ。」
「今のお前の周りにはそんな奴しかいないんだよ、もう。」
彼らの言うことは間違っていなくて、婚約が解消されたと分かると、さーっと人が引いていった。
チャンスとばかりに侯爵家に婚約の打診をする者。
侯爵家にコネを作るために、オレの言動を報告する者。
オレはどこで間違ってしまったのか。
「お前、まだそんなこと言ってるの?まだこんなに恵まれた環境なのに?」
友人の声がした。こいつだけは未だにオレの心配をしてくれるようだ。それでももう何もなくなったと思っているオレには…
「聞いたよ。侯爵家からはあと3年も支援が受けられるんだよね?…あんたの所の子爵領、そもそも困窮していなければ、災害もなかった、しかも今年は特産の麦?あれも豊作だったんでしょう?」
「まあそうだけど、たった3年でどうしろって!」
「困窮しているわけでもないから普通に治めていたら収支トントンなわけ。それだけでも恵まれてるのに、そこから発展させるためのノウハウを貰うんだよ?それで上向きにできないんだったら、何年支援してもらってもダメってことだよ。…領民に皺寄せが来る前に自分が身を引くことを考えるレベルだよ。」
※※※※※※
「そうか、そのまま残ることにしたか。」
「はい。報酬の事だけを考えれば引き上げて、こちらで再びお世話になるのが一番何ですけどね。面白いんですよ、あの子爵領での仕事。それに…」
結局3年はあっという間に過ぎたけど、どうにかブレインを無くさずに済んだ。その上。
「あの、本当に私で良かったんですか?」
娘さんまで手に入れてしまった!
「君だから良いんだよ!オレの暴走を止められる人が良かったんだ。それにね。」
「私も付いてきてお得、なんて言ったら私は居なくなりますよ、婿殿。」
ううっ、声に出す前で良かった。
あれだけ嫌だと思っていた
"妻と妻の実家にも頭の上がらない一生"
は避けられなかった。けど。
「尻に敷かれるのも悪いもんじゃないよな。」
そう思える事もあるもんなんだな。信頼できる人達に囲まれて、忙しいけど充実した日々を送っている。
来年には子供も産まれるし、ますます頑張らなければ!と妻のお腹を撫でながら決意するのだった。




