野営地にて
何時間か歩いていて夜になった、足が痛い、こんなに歩いたのは兵に居た時以来だ。
「止まレェ。」
後ろから剣を突き付けられる。
もう一人が顔を覗く。
「ナァんだ、アタシらの仲間かヨォ。」
八重歯を見せて笑う、瞳を見ると自分と同じように光っていた。
しまった、ゲドナ族はヴェルズニルス周辺に拠点を作っているというのを忘れていた。
「ん?大荷物でも持って遠出カァ?マァ前線から逃げちゃいけネェってルールはねえからナァ...」
瞳をこんなにマジマジと至近距離で見られた事は無い。
トーラから見る自分の瞳はこんな風に写っていたのかと思っていると
「でもヨォ!アタシらの部隊は前線の中でもやる事ネェぞ!オメェが居た部隊よりちったぁ楽出来るぞ!」
「いや...大丈夫です...」
後ろで剣を突き付けていたやつが剣を納めて肩を組んできた。
「そう言わずにこっち来いヨォ...飲み仲間が増えたら嬉しいだラァ?」
そう言って二人に引き摺り込まれるように拠点へ連れて行かれた。
幕舎に入ると何十人かのゲドナ族が酒を飲み交わしていた。
「隊長ォ!仲間を連れてきたッス!」
隊長が声に気付き、こっちへ近付いてきて言った。
「やぁ新入り、ここでは楽にしていけ。」
隊長はそう言いながら酒を兵士達に注ぐ、声は明らかに周りとは違ってはっきりとしていた。
経験から気付いた、ここは恐らく最前線だ。
仲間達を戦場に送り出す前に豪華な食事で迎える。
そうか、自分は思ったよりも手前で捕まってしまったらしい。
取り敢えず席に着いた、周りは既に出来上がっている。
隊長が酒を注ごうとしていたので止めた、すると驚いた顔をした隊長が隣に座った。
隊長は突然首の匂いを嗅いで小声で言った。
「なぁ、アタシらの匂いがしねぇ。一体誰なんだ?オマエは。」
「隊長、一対一の場を設けて頂いても宜しいでしょうか?」
隊長は立ち上がってこっちへ来いと合図をした。
奥の部屋に入った。
机の上には色んな資料があったが、中身を見る間も無くすぐに片付けられた机の横に向かい合って座った。
ピリピリした空気感の中、刺す様な目線を受ける。
変な探り合いは苦手だ、死ぬかもしれない。
「とか思ってるんだろ?」
自分はゲドナ族についてよく知らないが、この人に楯突いてはいけないと直感した。
「単刀直入に言わせて頂くと俺はゲドナ族として生きてきてはいません。」
「だろうな。」
「ヴェルズニルス市内では貴方達の仲間と思われる人を捕らえています、特徴が載っていたのですが当てはまっていて...俺は怖くて逃げてきました。」
「それについてはこっちにも情報は来てる、逃げてきて捕まった奴はお前が初めてだがな。アイツらも迷子の仲間だと思ってオマエを連れてきたんだろう。」
身体を舐め回すように見られる。
「どっからどう見てもゲドナだなオマエさんは、行く宛は?」
「ありません。」
「じゃあ仮にアタシらに捕まらなかったとしてどうするつもりだったんだ?」
「分かりません。」
隊長は溜息をつきながら言った。
「一番大きい星を目指して走れ、そこにアタシらの本拠地がある。」
「そんな大事な情報教えて貰って良いんですか?」
「オマエみたいな奴にはスパイは務まらんだろ、ハハッ。」
「隊長、ありがとうございます。」
「...隊長と呼ぶな、寂しくなるだろ。」
席を立って隊長は背を向ける。
俺は、その背中に礼をして部屋から出た。
「オイィ!隊長と何してたんダァ?」
さっき俺を捕まえたゲドナだ。
「ちょいと用事でな、すぐここを出るよ。」
「ソウカァ...マァ引き止めてもしょうがネェ、元気でナァ。」
そう言って抱きしめてきて背中をトントン叩いた。
この人達は優しい、暖かい感じがする。
何故ヴェルズニルスはゲドナ族と争わなければならないのか、そんな疑問が出てきた。
でも今はそこに時間を割いている場合では無い。
俺は歩き続ける、あの一番星に向かって。




