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パレード

よく眠れなかった、初めての事は苦手だ。

特に予定がある前の日は眠れなくなってしまう、遠足もそうだったな。

目を覚ます為に顔を洗う。

いつも同じような服、食事、準備に時間はかからない。

それでも、ギリギリまで忘れ物を確認する癖は治らない。

外が騒がしくなってきた、家を出よう。

日差しが眩しい、真上にある太陽を見るのは久し振りだ。

外に出るとより人混みを、そして飛び交う音を身体全体で感じる。

とても不快だ、それでも約束を破る訳にはいかない。


このパレードは、ヴェルズニルス市の城から伸びる一番大きい道の脇にびっしり人が並ぶ。

その真ん中を馬車が勇者達四人を乗せて練り歩く。

そのまま門から城の外に出て勇者達の姿が見えなくなったら解散。

これがパレードの流れだ、昨日ちゃんと掲示板を見た。

俺の家は門のすぐそばだから余計人が多い、門出を祝いたいかららしい。

最後列に立ってトーラを待つ。

何十分経ったらここまで来るだろうか、椅子でも持って来れば良かったな。

色々悩んでたら遠くから歓声が響いた、パレードが始まったのだろう。

声でかいな、結構遠いぞ。

少しずつ歓声が近づいていく、蹄の音が付随して大きくなっていく。

思ったより早く先頭の馬がはっきり見える位置に来た、これがパレードの力だろうか。

トーラを探す、どの位置に座るか聞いとけば良かったとか思っていたら一人だけめちゃくちゃ手を振っている。

あの手がトーラだろう、彼女は遠くからでも手を振ってるのが見えるようにずっと手を高く上げているようだった。

隣の人が叫び始めた。

「頑張れー!!」

頑張れ、か。

あまりかけたくない言葉だ、既に頑張っている人には酷な言葉だと思うから。

でもなんて声を掛けよう、決めておけば良かった。

そもそも大きい声が出るのだろうか、音が大きくなるとともに不安が大きくなっていく。

「ありがとうー!!」

トーラは叫んでいた、ずっと叫んでいたのか?

少し声が枯れていそうな叫び方だった。

そりゃあそうだ、一体何十分叫び続けてるんだ。

もう声が届く距離だ、トーラは急にキョロキョロし始めた。

何を探してるんだろうか。

もうすぐそこに来る、心がザワザワする。

でも心の言葉をそのまま伝えるのが一番だと思った。

声を振り絞って、手を添えて。

「無理すんなよー」

細い声が出た、自分でもびっくりした。

でもトーラはこっちを向いて大きく腕を振り始めた。

「ガーマー!!!!!」

名前を呼んだら駄目だろう、他の勇者達が全員こっちを向いてしまった。

とても怖かった、目線というものが。

でも勇者達は優しい笑顔でこっちに手を振っていた。

やっぱり勇者達は頼もしい、俺のような存在にさえそんな優しい表情が出来てしまうなんて。

最後列だったからかトーラはずっと俺の方を向いていた、はっきりと見えなくなるまで。

ちゃんと門出を祝えたのだろうか、人は笑顔でその場を去る。

自分は立ち止まっていた、これで良かったのだろうか。

夜は眠れないだろう。

今日の事は黒歴史の様にフラッシュバックするだろう。

それでも約束を守れなかった後悔よりはマシだ。

モヤモヤしながら家に帰る事にした、まだ外は騒がしい。

次の便りが来るまでまたいつも通りの日々を過ごすだろう。

パレードだって参加する度に自分の存在は特別で無くなっていくし、それが日常に組み込まれていく。

それもまた悪くない、力の無い人間は特別を望めば破滅してしまうから。


眠れなくて夜中外に出た、昨日も眠れなかったからフラフラする。

今日もセラフ山の水を飲もう、頑張ったご褒美だ。

店の裏で一人座った、変わらない日常なのに何故か寂しい。

空を見る、月は欠けていた。

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