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ヴェルズニルス市

大体、物語でいう所の人間とは、成長していくと見せかけて少しずつ力が希釈されていくものである。

初めに神があり、神の力が分けられた生き物達が居て、少しずつ少しずつ希釈されて今の人間になる。

成長したと思っている部分は、例えるなら、まだ神の面影が残った人間が生み出した物に肖っているに過ぎない。

これは成長と言えるのだろうか。

成長していると思いたい人間がプライドを保つ為に違法な薬草や酒に溺れ、感覚を麻痺させる。

力が弱かろうと頭が弱かろうと、精神が弱かろうと頼れる場所がある。それもまた自分で紡いできた力ではない。

そしてまた私も魔法や剣を使えず、今日もヴェルズニルス市の保護庁にお世話になっている一人である。


俺の名前はガーマー、常に感覚が麻痺しているからプライドを保つ物は要らない。

今日も住んでる場所のすぐ隣にある掲示板を見に行く。

やけに人が集まっていたので、少し離れた所で人が少なくなるのを待ってから内容を見た。

どうやらヴェルズニルス市から出た勇者達がゲドナ族四大賢者の内の一人を殺したらしい。

その記事の中で特に皆が目を引くのは神力継承者のトーラ、ヴェルズニルスに居た原初の神の血を唯一濃く引き継ぐ者。

こういう知らせがあった時の次の日はパレードをやる決まりがあるのだが、五月蝿い場所が嫌いな私はいつも静かな部屋の中で外から聞こえる音を少し不快に思いながら過ごしている。

なんなら今日から外は五月蝿い、パレードの準備で大人数が明日を楽しみにして動きまわる。

何も力を持たない人間はこういった行事を楽しむ事は出来ない、力を持つ者だけがこの世の中を楽しむ事が出来る。

外の刺激で何も集中出来ないので寝る事にした。

カーテンを閉める、真っ暗は嫌いだ、考えてしまうから。

トーラもそんな事を言っていた、「暗いのが怖いんだ」って。私と同じだと一緒に笑っていた。

でも彼女は、神の力によってその暗闇と向き合わなければならない。

持つ者も持たざる者も平等に辛さが襲ってくる、そんな事を考えてしまうから。

俺は迷信とかは信じない口だが自分だけが明るい場所に居たら申し訳なくなるから部屋を暗くして寝る。

トーラがいつか暗闇から逃れる事が出来ますようにと祈りながら。


起床、カーテンを開けたらまだ夜中だった。

喉が渇いて水を飲もうとしたら水が出ない、そういえば公共料金を払い忘れていたのを思い出した。

幸いヴェルズニルス市はそこそこ都会だったので、24時間やっている所があるので出かける事にした。

夜中でもそこそこ五月蝿い、虫も人も反響するように声が聞こえてくる。

少しでも静かになるようにフードを被る、ついでに顔も隠れて一石二鳥だ。

到着、店に着いて公共料金の支払いと共に水を買う事にした。

ヴェルズニルス市名産のセラフ山の水が好きだ、とても独特な味がして世間では賛否両論だが僕は好んで飲んでいる。

売り切れてる事が無いのも良い所だ。

「あっ、ごめんなさい。」

フードを深く被った同士の人間が水を取る手がぶつかった、俺は声が通らないので深くないお辞儀を二回した。

自分の他にもセラフ山の水を選ぶやつが居るんだとちょっと嬉しくなった、俺以外にこの水を好きなのはトーラしか居ない。

「あれ?ガーマー?」

聞き馴染みのある呼ばれ方だった。

振り返ったらフードを深く被っているトーラだった。

「トーラ?ここで何してるんだ?」

理由は俺と違って顔を隠す為だろうと思って小さい声で話し返した。

「この水売ってる所この店しか知らないからさ、久し振り。」

疲れた声だった、でも小さい頃と変わらない優しい声だった。

「あんまり店員と顔合わせたく無いだろ?俺が一緒に買ってくるよ、待ってて。」

「(息を吸い込む音)ありがとう。」

金は俺の方が無いけどトーラの気持ちを優先して水を二本買う事にした。

なんで自分一人で買いに来たんだろう、誰かヴェルズニルスの兵士とか頼まれた方が逆に嬉しいはずだから頼んだら良いのに。

とか思いながら会計を済ませ、トーラに水を渡した。

昔そうしていたように店の裏手の静かな場所に行き、そこに置いてある従業員が使える椅子に座って二人で水を飲んだ。

ここからは綺麗な月が見える、ここで飲む水は別格に美味い。

膝に置いていた自分の手にトーラが手を重ねて言った。

「やっと会えた、パレードにも一度も来てくれないし、ずっとどこに居たの。」

じっと自分の目を見つめる、この空白の時間で俺はトーラの目をまっすぐ見られなくなっていた。

「五月蝿い所が苦手なんだ、知ってるだろ。」

絞り出すように声を出した。

「私も苦手、でもパレードで台に乗って高い所から人混みを見てる時、今度こそ貴方が来てくれるかなっていつも見てた。」

そんな事言われたら罪悪感が凄い。実際パレードは何十回も行われている、それほどトーラ達の活躍は凄い。

「俺が居なくても、もう信頼出来る仲間がたくさん居るだろ。」

「君が居なきゃ駄目、暗闇が怖くて五月蝿い所が苦手で、それでも一緒に居たらそれが嫌じゃ無くなるのは君だけなの。」

心に重く響く、思っていたようで結局自分は逃げていた事を。

俺にも神の力が継承されていればと何度思った事だろう、ただの一般人だった俺には血反吐を吐く程頑張っても得られるのは傷だけだった。身体も、心も。

それでもトーラのその言葉に応えるには神の力は要らない。

覚悟を決めてトーラの目を覗いたら少し赤くなっていた、トーラも傷だらけだった。

運命に選ばれたようでまた、運命に囚われているような顔をしていた。

そんな顔を見たらいてもたってもいられなくなって思わずトーラを抱きしめた。

トーラは泣いていた、抱きしめ返された力は強かった。いや強すぎる。悲しみがそうさせるのかと思ったが単純な力の差がありすぎた。

「ト、トーラ...く、苦しいよ...」

トーラがハッとした顔で腕を離した。

「「んっ...ふふっ...」」

何だかこの感じが懐かしくて二人で笑ってしまった。昔、手を繋いで走った時も肩が外れるかと笑い合っていた。

「やっぱ君と居ると、世界が明るく見えるんだ。ね、ガーマー。」

「俺もそうだよ。トーラ。」

二人で空を見上げた、空なんて久し振りに見た。こんなに星があったっけ、月はこんなに大きかったっけ。

「明日行ってみるよ、パレードに。」

自分は逃げない事にした、トーラは沢山仲間が居るけど、自分が居る事で少しでも明るくなるなら僕は、五月蝿い所に勇気を出して行ってみる。

「約束ね!」

あぁ、懐かしいな。トーラは昨今あまり見ない小指で約束をしようとするんだ。

「あぁ、必ず。」

その時鐘が鳴った、ヴェルズニルスの時計塔だ。

「あっ、忘れてた!そろそろ戻らないと!またね!」

「うん、またね。」

トーラは昔と変わらない笑顔で手を振って帰っていった。

本当に自分は必要とされているだろうか、その問いは今も変わらず心の中に残っている。

本音と建前がぐちゃぐちゃになって分からなくなってしまっていた俺は残った水を一気飲みして家に帰った、明日のパレードに備えて。

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