残したいもの 7
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何組もの結婚式を見てきた繊月の巫は、碧衣と直紀にもその未来を願いたいのに、可能性がことごとくゼロに近いことを考えると胸が痛んだ。
佳弥斗の魂のカケラだけで天界に帰るために、魂を直紀の肉体から離すタイミングや切り離し方を思い描いてみるが、何が正解か、そもそも正解が存在するのか実際にやってみないと分からない。
それほどにカケラが小さいのだ。
せめて半分、いや3分の1でもあれば希望もあっただろう。下界に降りる際、尻尾の先にちょこんとくっついたことにも覡自身が気付かない程度の大きさしかない。
もちろん諦めるわけではなく、佳弥斗の魂のカケラだけで天界に帰るつもりでやってみる。「ダメ元」という言葉をこの世界で覚えた。
そう、「ダメ元」でやってみるのだ。
もうすぐその日が確実にやって来る。
天界に帰る日が近づくにつれ、繊月の巫は帰ってから自分はどうなるのか、大御神からどのような裁きが下されるのか静思することが増えた。
次の朔様候補に選んでもらいながら、その返事もせず神子としての役目も放って下界に降りた。おまけに若い覡を追いかけさせたのだ。
お咎めなしのはずがない。下手をすれば覡にまで罰があるかも知れない。自分は消滅する覚悟で下界に降りたのだから大御神にこの命を消されても構わない。
どうせ大好きだった先代の繊月の覡にはもう会えないのだから、消されたって良い。いっそ、スパッと消してもらえたら尚良い。
ただ、若い覡はこれからも神子としてあの門の広場で神子たちと共に寿命を全うさせてやりたい。
天界に帰って、大御神に詫びと願いを哀訴させてもらう機会を与えられるかどうか分からない。問答無用に消されるか、もしくは煉獄の池に放り込まれる可能性だってあるのだ。
嘆願できるとしてもその機会は1度しかないだろうから、どんなに無様に見えても構わない。絶対に覡を守って見せる。
ワタシも下界で強くなりましたよ。
これは、「当たって砕けろ」であってますかね?
それでも煉獄の池のことを思い浮かべただけで身体の震えが止まらなくなる。
あの鈍色の大きな土の扉のむこうから漏れてくる邪悪な気配。
生まれた時からそこは阿鼻叫喚の恐ろしい世界が広がっていると教え込まれてきたのだ。その中に放り込まれたら、罪が許されてそこから出るまで神子ならどのくらい苦しまなければいけないのだろう。業火に曝され続けることに耐えられるだろうか。
いっそこのまま下界で消滅するほうが静かに逝けるだろう……………ダメ。それは出来ない。繊月の覡を道連れにしてはいけない。絶対に天界に帰さなければ。
繊月の巫は改めて自分が仕出かしたことの重大さを省みたのだった。
ー「落とし前をつける」だったかしら?
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そして迎えた6月21日の繊月の日。
直紀の家でいつも通り静かに祈りを捧げる。碧衣と直紀が繋いだ左手にはいつものようにピンクのシュシュが巻かれている。
良く晴れた夜空には糸のように細い月が浮かんでいる。
『これが最後の繊月の祈りです。7月18日にワタシと繊月の覡は天界へ帰ります。・・・良いですね、ナオキどの』
いよいよ明日からの章で「別れの日」がやってきます。




