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いつかの先に逢えるまで ~神子様との同居は期間限定?もう会えなくなるなんてイヤなんですけど!?【完結済(全104話)】  作者: 静林


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残したいもの 1

 碧衣が沖縄から帰ってきた翌々日、両片想いの2人が手を繋いで祈る7回目の繊月の日だった。

 この日は平日だが、ほとんど休みなく働いている直紀はリフレッシュ休暇という名目で終日休みを取った。繊月の番の似顔絵を描く時間も考えると、丸々1日空けたほうが余裕があって良い。

 1日休暇を取ったといっても碧衣が来るまでの間を使ってデザイン画のチェックをする。そうしていると約束相手の碧衣が大きなショッパーを抱えて昼前に彼のマンションを訪ねてきた。

 ジンベエザメやマンタが印刷された美ら海水族館の大きなショッパーには安達家の愛息子である忍への土産の大きなぬいぐるみが入っている。

 フワフワのジンベエザメの形を崩したくなくて、敢えて水族館で入れてもらった袋のまま彼のマンションまで運んだのだが、さすがに50㎝のぬいぐるみは大き過ぎたか。沖縄ではそうではなかったが、東京では道行く人の視線が気になった。


(水族館の土産売り場ではそんなに大きく感じなかったんだけどなぁ)

『アオイはもうひと回り大きなサイズのぬいぐるみを買おうとしましたよね』


 幼児は大きなぬいぐるみが好きで、上に乗ったり一緒に寝たりするので、忍が抱きつきやすい大きさを考えてこのサイズに決めたのだ。


「これはまた…。この状態で沖縄から飛行機で?」


 ショッパーに収まりきらないジンベエザメの尻尾を直紀がモフモフと揉みながら、この大きな袋を抱えた碧衣が空港や街中を移動する姿を想像して笑う。


「はい。機内持ち込みができたので…忍くん、喜んでくれるでしょうか?」


 モフモフしながらぬいぐるみを眺める直紀が可愛い。


「お気に入りになるの、間違いない。俺が保証するよ」


 それを聞いて碧衣はホッとした。

 まず忍への土産がクリアしたことに気を良くし、続けて同じショッパーからプチプチの緩衝材に包まれた箱を4個取り出し、「これは東条さんと環さん、そして安達さんご夫婦へのお土産です」と、順にテーブルに並べていく。


「4つとも同じもの?色違いとかある?」

「全部同じものなので、2つずつ受け取ってもらえたら」


 直紀がそのうちの1つを箱から出すと、コロンとした樽のような形をしたグラスが現れた。琉球ガラスだ。表面は滑らかな凹凸で触り心地が良く、底に行くほど濃い青になっている。沖縄の海をうまく表現していた。


ー1つは環のためだと言ったよな。


 箱の1つを指さして、「環にも?」と確認する。

 「はい」と頷きながらきっっぱりと首肯した。

 彼がワインを飲むときに、小さなグラスに注いで愛する妻の遺影の前に供えるのを何度か目にしていた。


「東条さんが何か飲まれるとき、環さんも同じグラスが良いと思ったので…」


 言ってしまってから、余計なお世話だっただろうかと今更ながら少々焦る。

 土産を選んでいる時は、直紀がどう受け取るか深く考えなかった。

 ちらっと彼の顔色を確認すると、「ありがとう。次から環と一緒にこのグラスを使うよ」と目を細めて、両手でグラスを包み込むように持って眺めている。

 彼が好意的に受け取ってくれたので、碧衣は胸を撫で下ろした。

 たしかに自分は彼に恋をしているが、想いを残したまま死んでしまった環の代わりになろうとか、彼の傷を癒してあげるのは自分だ、など微塵も考えていない。

 環の魂が生まれ変わって幸せな人生を歩めるよう、純粋な気持ちで直紀と共に祈りたいと思っている。彼に対する気持ちが恋であっても、それを押し付けるつもりはない。

 寧ろ環への愛を代わらず持ち続ける直紀を尊敬すらしていた。

 そして常に彼の左手首に存在する環のダイヤモンドが嵌め込まれた数珠ブレスレットを見て、自分もこれ程まで愛してくれる男性と巡り合えたら…と希うのだった。

 その運命の男性が直紀ならば良いのにな、くらいの期待は許してもらえるだろう、とは思っていた。


「安達さんと忍くんに渡していただけますか?」


 土産一式を大きなショッパーに入れて直紀に差し出すと「いいよ」と引き受けてくれた。


「月曜日にデザインの確認ミーティングで雅さんと会うから、その時に渡すよ」


 ショッパーを持って、「じゃあ始めようか」と言いながら納戸へ消える。

 ごそごそと音がした後、彼がケント紙と筆記用具を持って戻ってきた。約束した通り、祈る前に繊月の番の似顔絵を描くのだ。

 ケント紙は画用紙の種類に分類され、表面がさらさらしているため絵具やインクが滲みにくい特性がある。そして似顔絵やデザイン画を描く際、何度消しゴムで擦っても毛羽立ちにくい。

 この用紙は碧衣の兄も絵本の原画を描くときに使うので、彼女も良く知っている。


「君も描くんだろう?」


 筆記用具を差し出す直紀に対して、申し訳なさそうに碧衣は首を横に振った。


「私が描いたものを見たら、反応に困りますよ。慰めるために東条さんと神子様たちに気を使わせるのが辛いので、どうか勘弁してください」


 顔の前で掌を合わせて容赦を願う彼女を見て、それ以上強要せず、「よし、じゃあ俺がしっかり神子様を描くよ」と自分の前にだけ筆記具を並べた。

 碧衣はそそくさと彼の左隣に席を移り、作業の妨げにならないように右手を環のダイヤモンドが輝く数珠ブレスレット近くに触れて準備が整った。


 描く順序として、繊月の巫の似顔絵から始めることになった。

 その方法は、繊月の巫の特長を覡が、覡の特長を巫が直紀に伝えることとした。

 『巫様の顔の形は卵形で…』から始まって、各パーツの様子を説明していく。

 少々細めの眉。幅広い二重瞼でくりくりとした大きな丸い目。直紀が毎朝淹れるブラックコーヒーのような焦げ茶の瞳。高くも低くもない鼻は小振り。そしてぽてっと厚みのある唇は可愛さを強調している。

 少しずつ明かされる巫を見ながら、今までは「天の声」というナレーターのようなイメージしか持っていなかった神子にも、姿かたちが確かにあるのだと胸に迫るものがあった。


ーまさか、姿を見られる日が来るなんて…。


 覡が『艶のある黒髪は真っ直ぐで、腰の辺りまであります』と続けて語る。

 その黒髪を唐紅のリボンで背中の辺りで緩く束ねている。前髪は辛うじて眉が見える長さで揃えてある。


 それぞれのパーツを描きながら覡が『もう少し大きく』とか『位置を少し下げて』など微調整を直紀に伝えてどんどん完成に近づく。

 そうやって首から上ができると、『巫様は太ってはいませんが、少々ふっくらした体型です』と言って首から下の説明に移った。

 白衣に緋色の袴姿を描くと、覡が『ナオキどの、お上手です』と唸る。

 実際には白衣には金糸で縁取られた繊月の細い月が鏤められているのだが、それは省いた。

 そこまでは下界の人間と同じように見えるが、ここからの説明で大きな違いが明らかになる。


『ワタシたち神子には、栗鼠のようなフワフワした大きな尻尾があります。それは透き通る程美しい真っ白な尻尾です』


 直紀は仕上げに水彩絵の具で薄く色を付けて、本来なら目にすることもない繊月の巫の姿絵が完成したのだった。

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