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いつかの先に逢えるまで ~神子様との同居は期間限定?もう会えなくなるなんてイヤなんですけど!?【完結済(全104話)】  作者: 静林


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思い出作り 3

   ”良ければ東京タワーで祈った後、うちに泊まらない?”


 一体どれくらい息が止まっていただろう。

 繊月の巫から「アオイ?」と名を呼ばれるまで時間も呼吸も止まっていたような気がする。

 見間違いではないかと再度見直すが、やはり「うちに泊まらない?」と書かれている。


(と、泊まってもいいのかしら?・・・私の中にはセンゲツの神子様がいるんだから、妙なことにはなりませんよ。・・・そりゃそうですよね。東条さんの中にも神子様がいるんですから。・・・泊まっても良いですよね?)


 まるで保護者に許可取りをするような慌て振りが可愛い、と巫が笑う。


『良いのではないですか?』


 直紀が残された時間でやりたいことを片付けてしまうために、繊月の番は助力を惜しまない。魂を差し出してくれるのだから、碧衣の気持ちより直紀のほうを優先せる、そう決めたのだ。

 たとえそれによって碧衣が悲しみ傷付いたとしても、生きていれば癒す時間があるだろうし、癒してくれる他人(ひと)も現れるだろう。


          *          *          *


 天宮に頼まれたとおり、24日は ERABLE HOTEL で「懐かしの80年代映画音楽」とタイトルを打ってピアノを弾いた。

 自分の当番日ではその日の気分で演奏するのだが、天宮はタイトルを小さな黒板に書いて弾いているのだ。

 そしてこの日も観客の好みにドンピシャだったようで、最後の「Take My Breath Away (Top Gun)」を弾き終わると盛大な拍手を贈られた。


 翌日は東京タワーで祈る日。

 今日は直紀の家で泊まるので、着替えとメイク道具をできるだけコンパクトに纏めた。

 小型であってもキャリーバッグなどを使えば、「期待して荷物いっぱい持ってきました」とアピールしているようなもの。だから大きなトートバッグを選んで、着替えは寝間着と下着、タオルだけにした。

 先日借りたフェイスタオルも忘れずに可愛いギフトバッグに入れた。必要最低限の荷物だが、どうせ翌日直紀はオフィスに行くし、碧衣も朝食を済ませたら自宅に戻ってくるつもりであるから、これで十分だと思った。


 約束の時間より早く現地に着いたが、まだ直紀の姿はない。

 彼の到着を待つ間にチケットを買うか迷った結果、彼が買っている可能性もあると思い至ってチケット売り場近くで待っていると、ネイビーデニムパンツにグレーのダウンジャケット姿の直紀が碧衣の姿を見て小走りでやって来た。


「ごめん。寒い中待たしてしまったね」


 2月下旬らしく、まだ春は遠いと感じる程に今日は気温が低い。直紀が着用しているダウンジャケットの首元から黒ニットのタートルネックが見える。

 碧衣も赤ニットのハイネックインナーをオフホワイトのウールスラックスにインして、キャメルのロングコートを羽織っている。そして寒さ対策に首元を3重にクリーム色のストールを巻いた。


「いいえ、少し前に着いたばかりです」

「待ち合わせの時刻より早く着けたと思ったのに、君のほうが早かったんだな」


 寒空の下、女性よりも早く来て「寒いのに待たせてごめんなさい」と言って冷えた手を握って温めてもらう役柄を選択したつもりが、反対の役になったことでちょっと悔しそうな直紀が可愛く見える。

 碧衣は「あなたに会えるのが嬉しくて早く来た」と言う代わりに勝利の笑みを浮かべたのだった。


「着いて早々申し訳ないのだけど、上に行く前に何か食べに行ってもいいかな?・・・実は昼、食べる時間を取れなくてペコペコなんだ」


 私と一時でも早く会うために食べる時間も惜しんで仕事をしたんだろうか、などと自惚れた解釈をする。


「それは大変!ボリュームのあるものでも良いので、東条さんが食べたい物を選んでください」


 私もガッツリ食べられるくらいお腹に余裕があります、と言うように顔の横で握り拳を作ってみせた。

 実際、碧衣は空腹ではないのだが。


「では、お言葉に甘えて焼き肉屋に行こう」


 そう言うと、当たり前のように手を繋いでくる。碧衣は俊介から貰った手袋をしているが、直紀は素手だ。

 できるだけ温もりを分けてあげたくてしっかり彼の手を握った。


(デートだと思っても良いですよね?)


 手袋をしているので、直紀のほうには聞こえない。繊月の巫が『ええ』と許してくれる。


 余程空腹だったのだろう。直紀はまるで回転寿司の皿を積み上げるかのような勢いで何皿も注文して、ばくばく食べていく。

 碧衣は「私が焼きますから、どんどん食べてくださいね」と焼き係を名乗り出てトングを独り占めにした。

 そして彼も遠慮することなく食べ役に専念したのだ。

 テーブルを挟んで彼女がタイミング良く焼いた肉と野菜を美味しそうに食べている直紀を見て、恋人気分を味わう碧衣の顔がほんのり赤いのは、七輪の熱の所為ではない。


「如月さんも食べて」


 何度もそう言ってくれるので、生野菜の合間に肉を頬張る。

 そして、焼き網のラスト1切れを直紀が口に放り込んで「食べたぁ」とお腹をポンポン叩いて満腹だと碧衣に伝えた。

 デザートには2人ともバニラアイスを注文してディナーを終えた。

 ここの支払いも直紀がさっさと済ませてしまったので、まだ買っていなかった東京タワーの入場券は碧衣が買うと言って、半ば強引にチケットカウンターに向かったのだった。


 地上150mのメインデッキには夜景を眺めながらエレベーターで一気に上る。

 見慣れている都心のビル群の明かりがどんどん足元で小さくなるのは未来都市のようだ。

 好きな男性と眺める景色は何割増しにも輝いて見えると聞いたことがあるが、本当だったんだ…と実感した。

 このメインデッキには神社や有名な透明ガラスの床がある。

 祈る場所を探してぐるりと1周してみた。碧衣は手袋を外して直紀と手を繋いでいる。

 歩幅を合わせてキョロキョロ見渡しながら歩くと、たまに彼の腕と碧衣の肩が当たる。このまま何週でも回りたい、と思ってしまった。 

 最終的に、静かに祈るならレインボーブリッジが見える方向が良いだろうと2人の意見が一致した。

 2月の平日の夜ということもあって見学者は疎らである。


 いよいよ祈る準備のため碧衣が右手を窓際の手摺に置くと、その手を覆うように直紀が左手を乗せた。

 彼の体温を感じると、目を閉じて彼が触れている部分に集中してすうっと息を吸う。それは記憶に刻むための行為であった。「あと何回…」そう思うと1回1回を大切にしたかった。

 肩を寄せ合って手を重ね、レインボーブリッジを静かに眺める2人は誰から見ても愛を誓い合ったカップルのようだ。


『では、繊月の祈りを始めましょう』


 繊月の巫がそう宣言すると、いつも通り番の美しい祈りの声が頭の中で響き、心が澄んでくる。


ー佳弥斗くん。今夜は東京タワーから祈りを捧げているのよ。大学時代、何度か来たよね。みんなで絵馬を書いたけど、実は私、「恋愛成就」って書いたの。ほんの一瞬だったけど、成就したんだからご利益があるんだね。


ー環。俺もあと少しで環と同じ門を潜ることになりそうだ。だからこっちの世界にいる間、我が儘を許して欲しい。


それぞれの想いを込めた祈りの時間が静かに過ぎていく

 

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