別れと決意 7
覡の興奮が落ち着くのを待ってから巫が話し始めた。
『ナオキどのに無駄に期待させたくなくて、敢えて話しませんでした』
巫の言葉を耳にして、頭から冷水を浴びたように神子とその宿主は固まってしまった。
『まず、カヤトの魂のカケラがあまりにも小さ過ぎます。意識も記憶もない程度の大きさで、ワタシたちを天界まで届ける効力があるかどうかわかりません。・・・次に、ナオキどのからその小さなカケラだけを抜き取ることが可能かどうかです。抜き取れなければ、結局ナオキどのの魂も一緒に身体を離れるでしょう』
巫は、ここまでの説明で十分だと判断して、それ以上続けることはなかった。
先程まで得意げに話していた神子と希望を見出したと思っていた宿主が、完膚なきまで打ちのめされたことが明白だったからだ。
(そうか。そうだよな。オンナミコ様がそんな簡単なことを考え付かないはずがないよな)
直紀以上に覡の落ち込みは激しい。
『ナオキどの。申し訳ありません。期待させてしまいました。・・・次期朔様になられる巫様の思慮を汲むことができませんでした。ワタシの失態です』
覡の声が掠れているのは、直樹に少しでも希望を抱かせてしまったことに対して慚愧に堪えないのだろう。
碧衣の右手に触れながら彼女の寝顔を見た。あれ程泣きじゃくったのに、今は安心しきった表情でよく眠っている。
親友からのプロポーズを断って、辛くて苦しくて悲しくて泣いたのだ。
ひとりで泣くことも出来ずに「誰かに慰めてもらいたい」と選んだのが直樹だった。
自分を頼ってくれたことが唯々嬉しかった。
ーこの女性の魂を使わせるわけにはいかないな。
1度は環と共に天界に逝った命。不思議なくらい恐怖心は湧いてこない。
左手首の数珠ブレスレットを見て、「環、俺の選択は間違ってないよな」と吐息に混ぜて呟いた。
(俺の魂を使ってくれ。そして橘佳弥斗も門を潜らせてやってくれ)
ひと呼吸程の沈黙の後、繊月の巫画『わかりました。その決断に感謝します。・・・期限は7月19日です』と告げた。
7月19日。
直紀はそれまでに仕事の段取りと、身の回りの整理をしなければいけない。幸い思い残す子どもはいない。
(2つだけ俺の希望を聞いて欲しい。・・・1つは7月最終週に日本で1番大きなイベントがあるから、その準備が終わるまで待って欲しい。・・・2つ目は、俺の魂を使って天界に帰ることと、橘佳弥斗の魂のカケラが俺の中にあることを、最後の最後まで如月さんには知らせないで欲しい。この2つは聞き届けてもらえるだろうか)
『ナオキどのの願い、領掌しました』
この時点で直紀の運命は決定され、動き出したのだった。
それを碧衣は知らずに、右手の温もりと共にすやすや眠っていた。




