募る想い 8
直紀は碧衣のマンションまで車で送ると言ったが、年末のこの時間帯は大渋滞しているだろうから電車で帰ると、そこは譲らない。
「少しでも一緒に居たいから」と直紀は喉元まで出かかったが言えなかった。ここに来てくれたのも「明るいうちから祈るから」「明るいうちに帰れるよ」と言ったからだ。
信頼があってこその関係を崩すようなことは出来ない。
部屋を出る前に碧衣は、環の写真に手を合わせて「今日はお邪魔しました」と告げる。
駅までの道を手繋ぎで歩く。繊月の巫が「覡と話したい」と言ったからだが、それは宿主の淡い恋心を思ってのこと。
「俊介にどう言おう」と悩んで答えを探している彼女を慰めたかったと言えば聞こえは良いが、本音では「自分たちが天界に帰る時にアナタの想い人も連れて行く」、これを碧衣にどう告げればよいか思い付かないのだ。それで、せめて手を繋がせてやろうと思ったのだ。
碧衣は自分のことを「醜くて狡い」と言うが、巫も自分を「狡い」と重ねる。
そして、繊月の覡も天界に連れて帰った後、巫が幸せでいられるのか、「連れて帰ってお役御免」では自分が下界に降りた意味がないだろうに、どうすれば良いか悩んでいる。
その宿主もまた、10歳以上年の離れたピアニストに惹かれている気持ちのやり場に困っているのだ。今はまだ環への気持ちが圧倒的に強い。それは間違いないのだが、環に対して持つ愛情とは別の感情が生まれ、それが少しづつ膨らんでいくのを止めることが出来そうにない。
碧衣と直紀は正月の過ごし方を話しながら歩いた。
「私は三が日はおせちを摘まみながら、父と兄に届く年賀状の整理ですね」
「俺も似たようなもんだよ。今回は喪中だから賀状は少ないだろうけど、仕事関係のメッセージが大量に届くからそれの整理かな」
「来年は無理でも、初詣行きたいですね」
「そうだな」
行きに感じた寒さを、不思議と感じない。
駅に着くと人でごった返している。帰省するのだろう、スーツケースを持つ家族連れが多い。
「年末はやっぱりすごいね」
「いっぱいの人ですね」
手を繋いだまま意味のない会話で別れを引き延ばす。
「あ、指輪、ありがとうございました」
「うん」
「本当に嬉しいです」
「うん」
手を離す。
「気を付けて帰るように」
「じゃあ、よいお年を」
互いに挨拶してから改札を通り、手を振って本日最高の笑顔を贈り合った。
こうして怒涛の年を締めくくったのだった。




