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いつかの先に逢えるまで ~神子様との同居は期間限定?もう会えなくなるなんてイヤなんですけど!?【完結済(全104話)】  作者: 静林


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募る想い 7

 クリスマスイブの夜は一緒にディナーを、と俊介から誘われていた。

 ところが運悪く24日から年明け4日まで、アメリカで開催されるカウントダウン&ニューイヤーゲームショーのスタッフメンバーに抜擢されてしまったために、前日23日の夜に碧衣を訪ねてきてプレゼントの交換をするだけになってしまった。 


「誕生日もドタキャンしたのに、ホントに情けないな。折角 ERABLE HOTEL のバーラウンジの予約が取れたのに」


 恨めしそうに「本当にごめん」と何度も謝るが、「プロポーズしたら100%成功する」と言われている場所でのディナーの誘いが何を意味するのか、誘われた時点で覚悟はした。

 俊介のことを恋人だと意識したことが1度もない、が、決して、断じて嫌いなわけではない。寧ろプロポーズされたら迷うくらいの情は…恐らくある。

 ・・・そう、迷うのは直紀に心が揺れているからだ。

 直紀への気持ちに気付くまでは、生き返るための身体を炎上直前に、車から引っ張り出して守ってくれたという恩があり、彼が自分との結婚を強く望んでいるのなら断れないだろう、と思っていた。一緒に生きていくうちに愛情が芽生えるだろうと。

 ・・・なのに、今回急遽の渡米を聞かされてホッとしたのは、やはり直紀への気持ちが俊介へのものより大きくなっているからだ。

 心を整理するための時間稼ぎができたようで、正直ドタキャンになったことは有り難かった。

 直紀に自分の想いを伝えることは、環に申し訳ないからできない。それがわかっているなら、俊介の気持ちを受け入れれば良いのだ。そしてどうしても受け入れられないのなら、はっきりと断るべきだ。

 どちらもできないのは、碧衣が自分の中で、直紀との未来の可能性がゼロではないと淡い期待を持っていることを自覚しているからである。

 それだけではない。

 俊介とは一緒になれないと告げた瞬間に、今までの友情が散ってしまうのが嫌なのだ。かと言って、佳弥斗がいなくなって間がないのに「他に好きになった人がいる」など絶対に言えない。

 断るにしても、それらしい理由が要る。


ーどこまで醜くて狡い人間なんだろう。



 俊介からのプレゼントは手袋だった。キャメル色の羊革で裏地はカシミヤ100%。末端冷え性の碧衣にはピッタリの品物である。

 碧衣からはカシミヤ100%のダークブラウンのマフラー。

 俊介が帰った後に包みを開けて、「カシミヤかぶり!」と思わず叫んだが、きっと彼も同じことを思っただろう。


 今日もその手袋をしてきた。


 そしていよいよ祈りの時、直紀は納戸から陶磁器製のクリスマスツリーを持って来た。それは碧衣が「東条さんとオトコミコ様へ」と渡したあのキャンドルホルダーである。


 「まだ明るいけど蝋燭を灯そう。オトコミコの希望なんだ」


 そう言って直紀がツリーの上部を外すと、既に台座には使いさしのキャンドルが据えられていた。それは碧衣がプレゼントしたときに付いていたものとは別のキャンドルだ。


「オトコミコが凄く喜んで、もう何度も灯してる。もちろん俺にとっても嬉しい贈り物だよ」


 このプレゼントの礼はメールで送られてきていた。


「気に入ってもらえて私も嬉しいです」


 やはり蝋燭は神子たちにとって特別なのだ。

 直紀はライターで火を点けて再びツリーの上部を被せた。するとツリーの穴から揺らめく炎が見え、同時に甘いアロマの香りも漂ってきた。


「アロマキャンドルも良いですね」

「そうだろ。・・・じゃあ祈ろうか」


 4回目ともなると碧衣も直紀も慣れたもので、相手に許可を得ることもなく左手を繋いでピンクのシュシュで固定する、という一連の流れがスムーズになっていた。


(佳弥斗くん。あなたはもうトンネルを抜けましたか?もう生まれ変わりましたか?生まれ変わっていたら、幸せな家族に囲まれているのでしょうか?・・・どうか、どうか幸せでありますように)


 碧衣の祈りに呼応するように直紀の左眼が熱を帯びる。直紀は環の幸せを祈りつつ、碧衣がまだ知らない光霊のカケラの存在に胸が痛む。記憶も意識もないであろう佳弥斗の魂のカケラが反応する程に、彼女の祈りは深く強いものだと思い知らされるのであった。


(環、お前はもう生まれ変わっているのか?新しい家族から愛されているのか?)


 あとひと月でメモリアルダイヤになる環を、直紀はヨーロッパに迎えに行くと決めている。


(もうすぐ会えるからな)


 それぞれの想いを乗せた2時間の祈りも無事幕を下ろした。


『やはり蝋燭の灯火があると心が洗われますね』


 繊月の覡は祈る時間以外でも、日常的に点火をせがんでいるという。


『アオイも時々火を点けてくれるのですよ』


 碧衣の部屋にはウイスキーのロックグラスに似た、シンプルなキャンドルスタンドもあって、そちらのほうが炎の美しさがよく見えるので、巫はそちらを使ってくれと頼むことが多い。

 それを聞いた直紀は、「よし、大晦日に買いに行こう」と覡を喜ばせた。


『ワタシに選ばせてくださいね』


 すっかり馴染んだやり取りを聞いて碧衣の口元が綻ぶ。


 繋いだ手を解いて、直紀がグラスに炭酸水を注ぎ、レモンの輪切りを浮かべる。ダイニングテーブルに置いて、そのグラスの横に小さなリングケースを並べた。


「クリスマスは過ぎたけど、プレゼントは用意してあったんだ」


 クリスマス当日にメッセージアプリで「メリークリスマス」のスタンプと短いメッセージを送り合ったので、まさかプレゼントが用意されていたとは。


「開けてもいいですか?」

「どうぞ」


 シェルピンクのリングケースを開くと、ホワイトゴールドのリングに沿って、森林を彷彿させるグリーンの宝石が、大小合わせて10石ほどランダムに配置されている指輪が入っていた。


「!?」


 これは何と捉えたら良いのか頭の処理が追い付かない。

 恋人同士なら間違いなくプロポーズに使うような代物である。

 縁あって手を繋ぐだけの相手に贈るようなものではない。


「アレキサンドライト。太陽光の下では深いグリーンだけど、白熱灯の下ではバーガンディーレッドに変化するんだ。・・・嵌めてみて」


 そんなに優しい声で言われても恐れ多くて触れることすらできない。


「いえ、いえ、いえ。とんでもないです。こんな高価な指輪、受け取れません」


 間違いなくこれは直紀作である。店頭に並んでいればケタを数える程の値札が付いているだろう。

 息がかかるのも申し訳なくて、手で口元を押さえて指輪を覗くように間近で見た。


『美しいですね』


 繊月の巫は覡とは違って宝石を日常的に見ることはない。だから巫と碧衣は同じ感想を口にする。


「綺麗ですね」


 直紀が彼女の横から手を伸ばしてリングケースごと手に持ち、指輪をケースから引き抜く。


「左手貸して」


 椅子に座った状態の碧衣の横に立つ直紀に見下ろされて、眉をハの字の困り顔にしながらゆっくり左手を差し出した。その手を優しく受け取って中指に指輪を滑らせる。


「うん。サイズもぴったりだ」


 満足そうに彼女の手を取って眺めている。


ーそうか、雅孝さんのアトリエに行ったとき、リングゲージで測ってもらったんだった。


 直紀が碧衣の手を離して「どう?」と感想を求める。碧衣は顔の前で手を広げて「素敵すぎて…」とうっとり見入ってる。


「俺たちジュエリーデザイナーは、身に着ける人を想像してデザインするんだ。だから、その人が実際に着けて喜んでくれたら満足なんだよ。贈るのも好きだしね」


 そう言いながら直紀は彼女の向いの席に座って、炭酸水が入ったグラスを揺らして泡立てた。


「誕生日にも素敵なパールのペンダントをいただいたのに、クリスマスにもこんなに素晴らしい指輪を贈っていただくなんて…ありがとうございます」


 自分のために作ったのだと言われてしまえば「喜んで受け取る」の一択である。


「大切にします」


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