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いつかの先に逢えるまで ~神子様との同居は期間限定?もう会えなくなるなんてイヤなんですけど!?【完結済(全104話)】  作者: 静林


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募る想い 1

 11月は安定した気候と木々が紅葉する美しい景色が人気で、結婚式を挙げるカップルが1年の中で最も多い月である。

 そのため碧衣は昼間に結婚式で、夜はロビーラウンジでピアノを弾く、という日が増えている。

 夜の演奏は自分の気分で好きなように選曲できるが、結婚式のほうは新郎・新婦の希望に合うよう選曲し、式の進行に従って曲をアレンジして演奏順を決めるため、なかなか手間がかかる上に気も使う。

 そして大抵の場合、「やっぱりこの曲をやめて、こっちの曲にして欲しい」と直前に変更が入るのだ。友人の結婚式で流れたり、新曲が出たりすると、そちらを使いたいと思う気持ちは理解できる。「間に合いますか?」とか「大丈夫ですか?」と必ず聞いてくれるが、「無理です」と答えたくない

 。碧衣のプロとしてのプライドである。嬉しそうに相談している新郎・新婦の姿はこちらまで幸せを分けてもらった気がするので、「できる限り希望に添うよう頑張ります」と引き受けるようにしている。


 先週打ち合わせをした若いカップルはお腹が少しふっくらしていて、結婚式当日はかなり目立つほどになるだろう、と話していた。式次第を見ると新婦の負担が軽減されるよう、式の時間も通常より短くなっている。

 当初は、記念に「ウエディングフォト」だけで良いと新婦が言ったのを、どうしてもウエディングドレス姿を彼女の両親に見せてやりたい、と新郎が言い張って結婚式を挙げることになったのだと聞かせてくれた。

 「若いなあ」と思ってプロフィール用紙を見ると2人とも19歳。


 次は新婦が11歳年上のカップルである。3歳の女の子を持つシングルファーザーが新郎で、その女の子がこの年上の女性をたいそう気に入り、お母さんになって欲しいと父親に頼んだのだ。

 彼も笑顔を絶やさないこの女性を気に入り、百貨店のレストランでプロポーズした時、女性が大号泣したという。


 10組10様のドラマがあり、愛が満ち溢れたエピソードを打ち明けてくれる。出会いから結婚を決めるまで、何の障害もなく順調にトントン拍子に進むカップルのほうが少なく、途中で「もうダメだと思った」というエピソードを持っているほうが多い。ここまで辿り着いたからこそ笑って話せるのだろう。


 新郎・新婦を交えた打ち合わせが終わると、ウエディングプランナーと2人で式の進行プランを確認する。プランナーから特別な指定が無ければ碧衣に一任、ということでおおまかな曲順をイメージして顔合わせは終了となる。


 そんな11月の結婚式シーズンも半分が過ぎて、次のクリスマス、年末年始のイベントに移り変わろうとしていた。

 昨日直紀から届いたメッセージにも「お互い忙しいけど体調を崩さないように頑張ろう」と書いてあった。

 碧衣だけでなく、直紀も11月最終週から12月25日のクリスマス当日まで伊勢東百貨店で「クリスマスジュエリーコレクション」を開催するので忙しいらしい。12月6日、7日には抽選で30名を招待したトークショーと相談会があり、直紀と雅孝が缶詰状態になるのだという。ただし、 ERABLE HOTEL で催した「ブライダルフェア」のようなコラボ企画ではないため、精神的には余裕があると言っていた。


 碧衣から11月30日の3回目の繊月の祈りはどうしましょうか、とメッセージを送ると、1回目と同様に南急ホテルにしないか、と返信があった。その日は碧衣も結婚式でピアノを弾く仕事が ERABLE HOTEL で入っているため、南急ホテルだと移動時間が短くて都合が良い。結局、直紀がまた2部屋の予約をしてくれた。


          *          *          *


 3回目の繊月の祈りの日は、ホテルの窓から糸のように細い月がはっきり確認できる澄んだ夜だった。11月最終日ともなると空気はキリッと冷えて、コート無しで街を歩くのにはちょっと寒い。

 碧衣は黒のハイネックセーターにベージュのプリーツスカート、その上に濃紺のダッフルコートを羽織って足元は黒革のショートブーツで纏めた。直紀からプレゼントされたパールのペンダントが黒のセーターに引き立てられている。

 直紀より早く南急ホテルの部屋についた碧衣は、今日の結婚式で「御礼」と書かれたポチ袋と一緒に貰ったケーキの包みをテーブルに置いて彼を待っていた。軽食とお喋りを楽しんでから祈りの儀式を始めるのが、何となくルーティーンになっている。今夜の軽食には、この関西で有名な塩キャラメルのソースがたっぷりかかっているバームクーヘンだ。


ー客室に用意されているコーヒーでいただこう。


 8時の予定を10分程過ぎて扉がノックされた。


「申し訳ない。少し遅れた。伊勢東百貨店に寄ってから来たんだ」


 急いで来てくれたのだろう。息が少し上がっている。


「ジュエリーコレクションやってますもんね。どうでしたか?」


 碧衣は日頃からそうしているように、直紀が脱いだウールのブレザーを受け取ってハンガーに吊らして、「ありがとう」と彼も自然に口に出す。


「ありがたいことに盛況だったよ。予約も順調そうだし…」


 ワイシャツを腕捲りしながら洗面所に行って手を洗い、ふと鏡の自分と目が合った。その刹那、心臓がどくんと鳴る。


ーこれ、環との会話、そのまんまじゃないか。


 一方で碧衣もコーヒーを淹れながら「これじゃあまるで恋人だよね」と胸の高鳴りが大きくなって焦っていた。

 直紀と碧衣、それぞれが「落ち着け」と自身に言い聞かせ、互いに鼓動の高まりを鎮めることに努めたのだった。


「コーヒーを淹れたので、ケーキを食べませんんか?」


 まだ蛇口から水が流れ出る音が続く洗面所に向かって碧衣が声をかける。そして、その声がもう震えていないことに安堵した。小娘の気の迷いなど悟られないようにいつも通りに振る舞う。


「結婚式を挙げたご夫婦からバームクーヘンをいただいたんです。キャラメルソースがかかってるんですが、東条さんは極甘ケーキ、苦手じゃないですか?」


 洗面所から他を拭いて出てきた直紀が「大丈夫だよ。妻が甘党だったから食べ慣れてるんだ」と口にした「妻」という単語に、碧衣はチクリと胸の奥に痛みが走った。


ーこの痛みは絶対に勘違いしたらダメなヤツ。あの日、あの夜景を見ながら誕生日プレゼントを貰った、いわば「ホテルマジック」にかかっているだけ。魔法は必ず解けるものよ。


 苦しい言い訳で自分を納得させて胸のペンダントに触れる。


「このペンダント、凄く気に入ってるんです。東条さんが仰った通り、服装に合わせてカジュアルに着けてます」

「それは良かった。贈った甲斐があった。・・・今日の服装にもよく似合ってるね」


 自分が贈ったパールを満足げに見る。


 極甘ケーキとブラックコーヒーの軽食を取りながら、碧衣は今日の結婚式で両家の母親たちが作った1000個以上のリボンをゲストが「リボンシャワー」した話をした。ERABLE HOTEL ではライスシャワーはNGのため、リボンであったりフラワーであったり、風船であったり、といろいろ工夫されるのである。


「ほんの一瞬の演出なんですが、息子と娘の幸せを願って母親が1つ1つ作るんですよね。とても綺麗でした」

「そうだろうね。地面に落ちたものがリボンなら、それも素敵だな」

「はい。リボンで道が出来ていました。最近は結構流行っているみたいです」


 などと話し、食べ終えると平常の心拍数に戻っていることに安心して、祈りの儀式に移った。互いの神子に宿主の気持ちがバレるのは仕方がないが、相手の神子には知られたくない。


 手を繋ぐ前に事なきを得てホッとした。

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