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いつかの先に逢えるまで ~神子様との同居は期間限定?もう会えなくなるなんてイヤなんですけど!?【完結済(全104話)】  作者: 静林


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碧衣 事故前 5

ー佳弥斗くんは今まで数えるのも嫌になるくらい告白されてきただろうから、今から私が何を口にするか察するよね。・・・わかるよね。


 碧衣は左手を心臓の辺りにあて、「ふーっ」と大きく息を吐いて腹を括った。


ーこのドキドキが聞こえませんように。


ー声が震えませんように。


「好きです」


 ここ数日、食事しながら、ピアノを弾きながら、そしてベッドの中でも、どう告白するか、どう伝えるのがロマンチックか、あれほど考えたのに・・・何度も、何度もイメージトレーニングしたのに、実際に発した言葉はこの4文字だった。

 人生初告白に膝がガクガク震え、手指の先が氷水に浸しているように冷たい。

 大学の卒業記念コンサートでピアノソナタを弾いたときも最高に緊張したと思っていたのに、その比ではない。

 額から汗が噴き出しているのが分かる。化粧が崩れてないか、それすら気にする余裕もない。

 佳弥斗の顔を見るのが恥ずかしくて目線をずらして俯く。

 秒針が時を刻むチッチッという音が、聞こえるはずがないのに頭の中で鳴り響いている。


 佳弥斗が声を出すまで実際は数秒だろうが、碧衣にはショパンの子犬のワルツ一曲分の長さに思えた。


「ありがとう。・・・碧衣」


 初めて「碧衣ちゃん」ではなく、「碧衣」と呼んでくれた。その呼び方に促されて無意識に顔を上げると、目を細めて愛しそうに優しく微笑んでいる佳弥斗が。


「僕は、心から人を好きになったことがないから、恋とか愛とかがわからないんだ。可笑しいだろ?だから今まで『付き合って欲しい』って何回言われても特定の人と恋人同士になったことがないんだ。・・・でもね、寂しいときとか、嬉しいときとかに『会いたいな、声が聞きたいな』と思うようになったのは、碧衣ちゃんが初めてなんだよ』


ー泣いちゃダメ!笑え!


 目頭が熱く、溢れそうになる涙を必死に堪えて、佳弥斗の言葉を一言一句噛みしめる。


「ちゃんと考える。オーストリアで真剣に考えるよ。・・・もちろん前向きにね。だから今は『碧衣ちゃんの恋人(仮)』が返事でも許してくれるかな?」


 「OK」と即答できない佳弥斗のしんどそうな表情から、碧衣を傷つけないために、はぐらかしたり誤魔化したりしていないことが伝わる。


 そう、これが今の佳弥斗の精一杯なのだ。


「うん、十分だよ。ありがとう」


 下瞼に溜まった涙がその許容量を超えて流れる。


「日本にいる間に、いっぱいデートしよう」

「楽しみ!」


 涙で化粧が落ちないように人差し指で上手に拭う。



 まさか、この約束が叶うことがないとは……………。




 薄墨色の雲が覆う空が一瞬光った。


「こりゃあ降るなあ」


 帰り道を運転しながら俊介が呟く。

 暫くは幕電が続いていたが、次第に雷鳴が大きくなってきた。

 空が光ってから音が聞こえるまで、「1秒、2秒、・・・」と数えて、「まだ遠いよな」と、佳弥斗が俊介に話しかけている。

 車がカーブの多い山道に入った頃になると、大粒の雨がポツッポツッとフロントガラスを叩くように降ってきた。

 右側の斜面は樹木が生い茂り、左側は谷になっている。

 雨が降っていなくても十分注意しなければ危険な道である。


 ついに、ヘッドライトを点灯しなければ前が見えにくいほどに暗くなった。前方から大型のトラックが来たらすれ違えるだろうか、と不安になる道幅。

 当分の間、3人で会えないだろうから、帰りはのんびり違う道を走ろうと言った佳弥斗の提案に乗ったことが(あだ)になった。行きと同じ道を選んでいれば、この悪天候でもこんなに不安になることはなかっただろう。

 幸いなことに交通量が殆どなく、狭い道ですれ違うことはなかった。


 雷鳴はさらに大きく響き、稲光がくっきり走るようになり、碧衣は竦み上がった。先程まではカーオーディオから流れる音楽に合わせて身体でリズムを取るほどご機嫌だったのに、今はシートに身体を伏せて固まっている。


「もうすぐ天候が回復するから頑張って!」

「車内にいたら雷は落ちないから安心して!」


 前列に座る男性陣が明るい声で励ましてくれる。

 佳弥斗が後部座席で縮こまっている碧衣を見て、「大丈夫だよ」と微笑んだ。


 前方から1台の乗用車が碧衣たちの車を照らす。


(道幅は不安になるほど狭くないから十分すれ違える。心配ない)


 俊介が少し速度を落として慎重に運転する。


 2台があと少しですれ違うと思った刹那、耳を(つんざ)く雷鼓。

 それとほぼ同時に衝撃と激痛。


「碧衣!!」

「…………………………」




 既に痛みすら感じない、力も入らない碧衣の身体を俊介が引き摺る。


 何度も自分の名を叫ぶ俊介の声が遠くに聞こえる。


 焦点の定まらない目でぼうっと見るが、視界が赤くてドロッとしたものに覆われてよく見えない。

 碧衣の視線の先には、2台の車が大木に圧し潰され、1台は炎上している。


 もう殆ど見えないが、その光景だけが薄れゆく意識に刻み込まれた。


「・・・か・・・や・・・と……………」


 碧衣の意識がそこで途切れた。


 雷撃を受けた大木が裂けるように倒れ、2台の乗用車を潰し、1台は炎に包まれたのだった。


 雷鳴が続く仄暗い空間を3つの黄金色の光霊と1つの瑠璃色の光霊がすうーっと真っ直ぐ昇っていった。


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