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いつかの先に逢えるまで ~神子様との同居は期間限定?もう会えなくなるなんてイヤなんですけど!?【完結済(全104話)】  作者: 静林


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碧衣のキモチ 4

「・・・・・・・・・はぁ?」


 たっぷり間を取ってから発せられた1音。呆れて出たような声だったので、碧衣は透かさず言葉を足す。


「うちに来てもらっても2人きりになるわけじゃないですし…。センゲツの神子様たちもいらっしゃるわけで…だから…」

「だから安心だと?」


 隣で碧衣が首を縦にうんうんと大きく振って頷く。

 再びたっぷり時間をかけて考え、「ん……」と唸って、「じゃあ、君の家でってことにしよう」


「可愛げが無くてすみません」

「自覚はあるんだ」


 ハンドルを握ったままで、直紀は大笑いした。


「その日は20時に仕事が終わるんです。私の演奏後、マジックショーが特別に開催されるので。なので、21時には家に帰れます」

「俺は君の家を知らないから、このまま送って行っていいかな?もちろん家の前までね」


 そういう流れで碧衣のマンション駐車場まで送ってもらったのだった。


「じゃあ11月1日に」

「今日はありがとうございました。安達さんにもお礼を伝えてください」


 助手席側のドアを閉めた後、丁寧にお辞儀をする。


「わかった」


 その場で手を振って直紀を見送った直後、自分がとんでもない提案をしたことに冷や汗が止まらなくなって、背中がぐっしょり濡れたのだった。


          *          *          *


 碧衣をマンションで降ろしてから、「俺、間違えたんじゃないか?」と繊月の覡に問いかけた。


『アオイどのはワタシたち神子もいるから、と言ってたじゃないですか』

(お前は神子だから知らないだろうが、大多数の人間の男は女性と2人きりになると邪な思いを抱くもんなんだよ。まして、22歳の綺麗な女性だ)


 覡は『はぁ~』と心底呆れたように溜め息をついた。


『ナオキどの、神子だって下界の者たちがどうやって次の魂の器を増やすか…とか、その行為に至るためにどうやって気持ちを昂らせるか…という知識は持っているのですよ』


 むっとして反論する。


『確かに下界の営みについて知らないことのほうが多いでしょう。それでも、魂に関わることは神子たちが生まれた時点で既に存知しているのです』


 大して神子のことなど知りもしないクセに…と叱られた気分になった。


(そうか。神子たちを貶めるような発言をして申し訳なかった。すまない)


 不快な思いをさせたことに対して素直に謝った。


『ワタシたち神子が光霊の浄化と幸福を願って祈るその日がどれ程神聖な日であるか、ナオキどのは十分ご理解いただいているはずです。その祈りの日にアオイどのと2人きりになったからといって、邪な気持ちを滾らせるような人間だとは思っていません。そうですよね?』


 あまりにも正論過ぎてぐうの音も出ない。


「ごもっともだ。お前が正しいよ。・・・若い女性の家に誘われたからって何を勘違いしてるんだか。二十歳そこそこのガキじゃあるまいし、阿呆丸出しだな」


 自嘲気味に呟いた。


(これからも俺が阿呆な考えを持ったときは、今みたいにどんどん叱ってくれ)

『了解しました。でも、ナオキどのは決して道を踏み外すようなことはしません。ワタシには分かります』


          *          *          *


「如月さん。今年はクリスマスイベントに出演してもらうってことでオッケーですよね」


 碧衣がいつも世話になっている ERABLE HOTEL の副支配人から呼び止められた。


「はい。今年はチョコレートランチブッフェですよね。日曜日に天宮(あまみや)さんとタイムスケジュールの摺り合わせと曲目の調整をすることになっています」


 天宮というのは碧衣と同じようにロビーラウンジでピアノの生演奏をしている男性ピアニストのことである。

 碧衣は月、水、金、土曜日を担当し、その他が天宮。クリスマスやイベントの開催時は曲目と時間割を話し合い、2人で分担して弾くことになっているのだ。


 天宮は小学3年と1年の男の子の父親で、ピアノを弾いていないときはよく喋る明るい人物だ。

 音楽大学を目指す中、高校生の指導を主な生業としている。碧衣も受験前の1年間、厳しく指導してもらった。指導者と生徒としての間柄の1年は「天宮先生は厳しくて怖い先生」と恐れて、どちらかと言えば苦手な指導者だった。

 碧衣が希望した音楽大学は競争率が高いため、どれ程スパルタであっても天宮のような「合格請負人」と呼ばれる指導者に教えを請う志願者が多いのである。

 もともと彼は「厳しすぎる」と批判されることもあったが、彼の指導を受けたいと願う生徒全員が、その希望が叶うわけではなかった。事前に試験があって、一定のレベルに達していること、指導すれば伸びる余地が明らかであること、それらを認められなければ彼のレッスンを受けることはできないかった。それほど「狭き門」だったのだ。

 そもそも天宮はこの音楽大学の関係者と繋がりがあって、合格するためのノウハウを熟知していた。天宮の指導を受けられなかった保護者からは「裏口ではないか」と噂されることも多々あったが、彼も卒業生で、この大学の「クセ」を知り尽くしているのだ。それを叩きこまれるのだが、とにかく厳しい。

 拍数を数えるために持っている竹製の50㎝物差しで、間違って弾いてしまった手の甲を何度ぴしゃりと叩かれたことか。「今回のレッスンでは絶対に叩かれるもんか」としっかり練習して行っても、手の甲を真っ赤にして家路に就くのだ。

 悔しくて何度大泣きしたことか。


 だからホテルで再会して天宮の本性を知ったとき「この人は誰ですか?」状態だった。


「如月さんは課題をちゃんと練習してくる優秀な生徒だったから、叱ったことはないよね?優しい先生だっただろう?」


 そう懐かしがられたときは顔を引き攣らせて「そうでしたっけ?」と苦笑いするしかなかった。

 それでもあの厳しい指導があったからこそ合格できたし、大学に入ってからも良い成績を残せたのだと天宮には感謝している。

 天宮と再会してから随分後に「実は、天宮先生は自分が指導した生徒が無事に合格すると泣いて喜び、不合格だった生徒には家まで行って、指導不足でしたと頭を下げてたんだよ」と聞かされた。


 碧衣と天宮はクリスマスイベントで昼の部ーチョコレートブッフェーを担当するが、夜は有名女性シンガーのディナーショーが開催されるため、ピアノの仕事はお休みとなる。


 昨年のクリスマスはまだ学生だった。

 恋人がいる友人はカップルでロマンチックな夜を過ごしたのだろうが、碧衣は「おひとり様グループ」に所属していて、そのメンバーで東京Dランドに繰り出したのだった。

 キャラクターのカチューシャを付けたり、みんなでスマホケースに貼ろうと言ってお揃いのシールを買ったり。開場前からメロンパンとホットコーヒーを持って列に並び、パレード終了まで、卒業後の進路が決まった解放感から、気の合う仲間で大騒ぎしたのを懐かしく思い出した。


 今年のクリスマスはイヴも含めて平日で、おまけに社会人なのでみんなで集まることはないだろう。

 きっとコンビニでサンタクロースのマジパンがちょこんと乗った小さなケーキを買って「ぼっちクリスマス」をするのだろうなぁ…とちょっぴり寂しく思っていた。

大幅な校正はここで終了しました。

次回、21時10分の最新話公開からは少しでも読んでいただきやすい状態になっていると思います。

どうぞ、ゆっくりお楽しみください。

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