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いつかの先に逢えるまで ~神子様との同居は期間限定?もう会えなくなるなんてイヤなんですけど!?【完結済(全104話)】  作者: 静林


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直紀 目覚め 3

 4つの大きな引き出しと6つの小さな引き出しに、メイク道具と日常使いのアクセサリーがきちんと整理されて使いやすいように収納してある。こういうところは綺麗好きな環らしい。

 数あるアクセサリーの中に直紀が見たことのないものがないか探すが、見当たらない。そこにあるものは「直紀メイド」のものばかりで、妻の希望通りに作ったピアスとネックレスも収納されている。

 1つ1つに思い出とストーリーが詰まっていて、デザイン画を描いた時が懐かしい。


ー俺以外から貰った物はない…か……。


 大切な物はドレッサーかクローゼットに仕舞っていたハズ。好いた(ヤツ)からの贈り物もどちらかで見つけられると踏んでいたが、発見には至らない。

 さて、他に環が保管したり、隠したりする場所があっただろうか?

 キングサイズのベッドに腰を下ろし、右手親指で顎を押して「うーん」と思い巡らすが、「そもそもジュエリーデザイナーの妻にアクセサリーを贈るか?」という疑問が湧いた。

 直紀が知る限り、親しくしている男友達はいなかった。いっそ、顧客名簿のようなものでもあれば探せるだろうに、今はすっかりデジタル化しているから…。


「あっ、スマホ!」


 リビングのキャビネットに置かれた遺品のデジタル機器を思い出す。

 再び痛む胸を押さえて立ち上がり、環のスマホを手に取ると「これで全て明らかにされたら、それはそれで怖いけど、はっきりさせたいしなぁ」と腹を括って電源を入れた。

 画面が表示されるのを待つ、が・・・・・・電池切れ。


 「はあっ」と情けない溜め息を吐いて、「何やってんだろう」。


 今、知らなくても良い。


 明日、安達夫妻が遺品や供え物の片付けを手伝いに来てくれることになっているので、今夜はもう身体を休めようと、頭の中から姿の見えない「浮気相手」を締め出した。


 軽くシャワーを浴びてから、枕元に畳まれているパジャマを着て1人には広すぎるベッドに横たわると、まだ微かに残る環の香りを肺いっぱいに吸い込んだ。

 いつか妻の声も匂いも思い出せなくなるかも知れない。そう考えただけで泣きそうになるが、服用した薬が瞼を閉じた途端に眠りに落とし、涙を流す間も与えなかった。


 夜中、誰かが耳元でボソボソ呟いている声が聞こえ、はっとして目覚めて隣を見た。だがそこに妻が寝ているはずがなく、直紀用のベッドサイドランプが薄暗く光っているだけであった。


「夢か…」


 寝付いてからそれほど時間は経っていないのに目が冴えてしまった。環のことだけでなく、仕事のことも気になる。気になり出したら、どんどん頭も冴えて喉も乾いてきた。 

 胸の痛みを和らげるように押さえて、ベッドから起き上がる。そして冷蔵庫からミネラルウォーターのペットボトルを取り出し、窓際で眠らない街の夜景を見下ろした。

 行き交う車のライトを眺めながら、「仕事に戻れば寂しさも紛れるかな」と独り言ちて目線を空に向けると、満月が煌々と輝いている。


『ジュウゴヤ ノ ツキ デスネ』

「えっ…?」


 今、確かに聞こえた。

 誰もいないはずのリビングを見渡すが、月明かりに照らされたリビングには直紀ひとりの月影があるだけで、もちろん誰の姿もない。

 聞こえたのが女性の声だったのなら、妻の魂がまだこの空間を彷徨っているのか…と都合よく解釈するのだが、あれは男のものだった。


ー男?・・・何か不思議な、ガラスコップを弾くようなクリスタルサウンドのような響きだった。


「いやいや、事故で頭を打ったから幻聴だろうな。左眼も視力が落ちたし、まだ本調子じゃないからな」


 そう結論づけて、もうひと口水を飲むと寝室へ戻った。

 朝までの時間を考えると、もうひと眠りできるのに、眠気がやってきてくれない。何か考えれば眠れるだろうと、退院前に警察官が来て状況説明を求められた際のやり取りを振り返ってみる。


 警察官の話によると、直紀の運転に過失はなかった。スピードも制限速度を大きく超えていないし、センターラインも木が倒れてぶつかる前まで越えていないことは、現場検証で確認できたという。

 直紀の記憶と事故の状況はほぼ一致しており、相違はないようだ。

 警察官から疑われるようなことも、厳しく追及するような口調で詰め寄られるようなことも一切なかった。直紀は自分の運転ミスで環を死なせてしまったのではないと言われ、随分慰められた。


「運が悪いとしか言いようがないくらい偶然に偶然が重なった不幸な事故でしたね」


 同情してそういう発言になったのかも知れないが、言い方があまりにも軽く感じられたために、直紀はまるで「毎日どこかで起きている事故のうちの1つ」と言われているようで怒りがふつふつと湧いてきたのだった。


「そりゃあ、あんたらは加害者も被害者も日常的に見てるんだろうさ。だけど、環が死んだんだ」


 そう口から出かかったが、目の前の警察官はもちろん何の関係もない。単に直紀の言いがかりだ。彼らも仕事で話を聞きに来てるだけ…と下唇を噛んで我慢した。


「事故に遭ったもう1台の車のほうでも1人亡くなったと聞きました」


 そう。ニュースでも橘商事の社長の息子が命を落とし、同乗者が重症だったと伝えていた。

 橘商事は情報関連だけでなく、バイオマス燃料や建材製品から衣料品、生活用品、介護関連まで扱う日本有数の総合商社である。

 その大企業の御曹司が犠牲になったのだから、直紀側に事故の原因がなかったのか、専門家を名乗る人物がワイドショーの番組に登場して、好き勝手に検証していた。

 暫くの間は嫌でも耳に入り、目に触れ、妻を失った悲しみのどん底にある精神に追い討ちをかけるような内容を垂れ流していたのだった。


「はい。あちらの車に関しても過失は認められていません。運転手は幸い、掠り傷程度でしたから事故後すぐに話を聞くことが出来ました。ただ、あちらのドライブレコーダーは燃えてしまったので、それは東条さんのドライブレコーダーで確認した次第です」


 直紀は左ハンドルの外国車だったために助手席の環が犠牲になり、もう1台は右ハンドルの車だったので、同じように助手席の御曹司が犠牲になり、運転席の後部座席に座っていた女性が助かったのだと図を見ながら説明を受けた。

 どちらにも過失が無いので、こちらから会いたいと申し出ない限り、顔を合わせることは必要ないらしい。

 そして、あちらも直紀に面会を求めているわけではないと言う。


 そう言えば、重傷を負った女性はピアニストだと教えられた。大学を卒業して間もないという話だったのでまだ若いのだろう。ピアノを弾くのに支障がある怪我を負ってないだろうか。鏡を見るたびに、辛くなるような傷跡が顔や身体に残ったりしていないだろうか…と気遣った。


 直紀には左眼の視力低下があるが、ジュエリーデザイナーとしてデザイン画を描くのに支障はないものの、宝石鑑定のためにルーペを使うのだが、その際に多少不便を感じるかもしれないな、とは思っている。

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