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いつかの先に逢えるまで ~神子様との同居は期間限定?もう会えなくなるなんてイヤなんですけど!?【完結済(全104話)】  作者: 静林


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碧衣 目覚め 4

今回から再び本編に戻ります。

 翌朝、話し声で目が覚めた。


「身体を起こせるようでしたら車椅子で検査室に移動しますが、まだしんどいようでしたらこのままベッドで運びます」


 ベッドの足元で、看護師が母に今日受ける検査の手順を説明していることろだった。


「おはようございます」


 寝ぼけ眼を擦って、その腕を天井に向かって伸ばすと腕の筋肉がピーンと張って気持ちが良い。すると碧衣の声で看護師が碧衣に近寄り、「おはようございます」と言って体温計を手渡す。それを脇に挟んで「できれば車椅子で検査室まで行きたいです」と希望を伝えた。


「もうすぐ先生の回診がありますから、そのときに直接申し出てください。それと、ほかに何か気になることがあれば聞いてください」


 1週間も眠っていて、漸く目が覚めたというのに意外と事務的なんだなぁ・・・と朝の忙しい時間の看護師に不満を感じた自分を情けなく思った。


ー私だけが患者じゃないんだから…。もしかして、今のって神子様に聞かれたかしら?



 午前中いっぱいかけて一連の検査を受けると、すっかり体力が落ちた身体には応えた。

 朝の回診で、まだ口から食事を取ってないから車椅子は無理ではないか、と主治医に言われたのに「大丈夫です」と言い張って、検査が終わるころになってそれを後悔したのだ。


 ぐったり疲れ切った碧衣が乗る車椅子を母に押してもらって病室に戻ると、窓際のソファに俊介が座っていた。

 碧衣の顔を見ると、泣きそうな表情の俊介が彼女の名を呼びながら駆け寄ってきた。

 碧衣も両手を前に差し出して彼と手を握り合う。ドラマならここは「感動のハグ」をするシーンだろうが、現実は握手止まり。


「ああ、俊介くん。助けてもらったお礼を早く伝えたかったの。俊介くんも危険だっただろうに、ありがとう。こうしてまたあなたに会えるのは助けてもらったからよね。なんてお礼を伝えたらいいか……」


 車椅子に座ったままの姿勢で深々と頭を下げた。


「俊介くんが来てくれるってわかっていたら、何か用意したのに……。ちょっと飲み物買ってくるから、碧衣を頼むわね」


 母が娘にニコッと微笑んで出ていく。あまりにあからさまな態度である。


 碧衣が俊介の助けを借りて、車椅子からベッド中央に腰を下ろし、ギプスが巻かれた足をベッドマットにそうろっと乗せる。漸く自分のベッドに戻れたことでホッとしてふぅっと息を吐いた。それを俊介が心配そうに見ている。


「どこか痛いところとかある?」

「ううん。痛いところはないのだけど、これが不便だし、痒いし…」


 膝まで固定されたギプスをトントンと人差し指で小突く。


「でも、左足首の骨折だけで済んだんだもの。文句を言ったらバチが当たるよね」

「額にも傷が残ってしまった」


 俊介が傷口のテープを隠すように被せた前髪を指でそっと掻き分け、痛々しいものを見るようにテープの下の傷を想像して眉を顰めて呟く。


「俺は気にしないけどね」

「相変わらず優しいね」


 碧衣の言葉に俊介はフッと鼻から息を吐いて「碧衣ちゃんだからね」と苦笑いする。

 俊介が見舞い客用のパイプ椅子を広げて、碧衣のベッドサイドに据えて座る。


「佳弥斗のこと・・・聞いた?」


 険しい表情に変わった俊介が碧衣の目をじっと見る。


「うん。亡くなったって・・・」


「あの事故を正確に碧衣ちゃんに伝えられるのは俺だけだし、碧衣ちゃんは知りたいんじゃないかって思ってる・・・だから今日はそれを話す覚悟で来たんだ。だけど、『聞きたくない』って言うならもちろん何も言わない。辛い話だから、途中でしんどくなったら我慢しないで言ってね。無理しなくていいから」

「教えて。俊介くんだけに背負わせたらダメだと思ってる。私も知らなきゃいけないわ。・・・佳弥斗くんが車から出られなくて、炎に包まれたのは聞いた」


 1番辛い場面を俊介に語らせるのは申し訳ないと思って、碧衣から口にした。

 俊介が無言で頷く。


 少し間を置いて、静かな語り口で喋りはじめた。


「帰りの山道で、天気が悪くなって・・・雷が鳴り始めて・・・ライトを点灯しないと危ないくらい暗くなったよね。それからどんどん雨足が強くなった。雷がすぐ傍の大きな木に落ちて、根元のほうが裂けて倒れてきたんだ。・・・それが運悪く俺たちの車と前から来た車に伸し掛かった。俺たちの車の運転席は無事だったけど、フロントガラスは割れて、助手席側の屋根が圧し潰されてしまった。・・・隣の佳弥斗を見たら、一目で『もう助からない』って判断できる状態だった。・・・ごめん、どんな状態だったかは知らないほうが良い。そしたら後ろから碧衣ちゃんの苦しそうに呻く声が聞こえてきたから、急いでシートベルトを外して引っ張り出したんだ。・・・その直後、車が炎上した。・・・・・・たとえ助からなくても佳弥斗も車から出してやりたかったけど、時間も体力も俺には残ってなかった………」


 眉間に深い皺を作って、手の平に爪が食い込むほど強く握りしめて、悔しそうに苦しそうに言った。


「少しして後ろから来た人が消防に電話をしてくれて、すぐに救急車がきて、俺と碧衣ちゃんはここに運ばれたんだけど、碧衣ちゃんの意識が全然戻らなくて・・・佳弥斗がダメだったのに、碧衣ちゃんまで助からなかったらどうようかと思うと、ホントに辛かった」

ーホントは私も死んでたんだけどね。でも、俊介くんが私の身体を車外に出してくれたから、こうやってまた会えたんだよ。だから俊介くんは恩人で、どんなに感謝しても足りないわ。


 碧衣は魂が戻ってくる器を俊介が守ってくれたことに心から感謝するが、口には出せなかった。「1度死んでました」なんて、信じてはもらえないだろう。

 代わりに「助けてくれてありがとう」と何度も繰り返した。


 その後は佳弥斗の葬儀の様子を聞いたが、やはり大企業の社長の身内だけあって、仕事関係の人でごった返したらしい。


 ひと通り事故に関する話を聞き終えると、漸くリラックスモードのなった。

 ソファに置いてあった小倉堂の紙袋を碧衣のベッドにちょこんと乗せる。


「ずっと点滴から栄養入れてて、今日の夕方からやっと口からだって?最初は全粥だけだろうね」


 そういうわけで、家族に最中、暫く固形物が食べられないだろう碧衣には日持ちのする羊羹を見舞いに持ってきたのだと言って渡した。


「わぁ、ありがとう!お粥って言っても、どうせ味付けされてないに違いないわ。普通食になったら、絶対すぐに羊羹食べるもん!」



 30分後に母が飲み物やカップアイスを持って戻ってくると、ミネラルウォーターしか口にできない碧衣の横で、母と俊介はカップアイスを食べながら仕事のことや碧衣の退院後の予定などを話してから、「また来る」と言って俊介は病室を出た。


 午前中いっぱいかけて受けた検査に続いて、俊介と長時間話してさすがに疲れた碧衣は眠ってしまい、日が沈んだ頃やってきた父と兄に起こされた。


「もうすぐ先生が診にくるって」


 父と兄は、母から俊介が来てくれたことを聞き、碧衣も嬉しそうに「また来てくれるって」と微笑む。

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