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いつかの先に逢えるまで ~神子様との同居は期間限定?【甘く切ない溺愛関係は終わらない】(全104話)  作者: 静林


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ずっと愛してる 2

このページには性的な描写があります。

 23年前の7月18日。

 繊月の番が天界に帰った日。


 碧衣は綺麗に身体を拭かれて、パジャマも身に着けた状態で目が覚めた。

 カーテンが開いたままの窓からは日が差し、夜が明けてから随分時間が経っていることが分かる。


 碧衣がこの1年、常に感じていた繊月の巫の気配は…なくなっていた。


 そして隣には直紀が横たわっている。自分の左手首と直紀の右手首がいつも通りピンクのシュシュで固定されていた。

 まるで眠っているように穏やかな顔の直紀。碧衣が意識を手放す前に「愛してる、碧衣」と何度も囁いてくれた、あの声を一生忘れない。


 碧衣は直紀の横顔を見ながら、彼に頼まれていた事後処理を始めなければ、と悲しみに浸る前に心を奮い立たせる。

 順番は何度もシミュレートしたので、頭に叩き込まれていた。

 これは魂を差し出してくれた直紀との最後の共同作業である。


 1番初めにすることは、雅孝に連絡。

 できるだけ焦って取り乱した様子で電話を掛ける。「どうしましょう、東条さんが息をしていない」と訴えれば「直ぐに行くから」と言うか、「救急車を呼んで」と言うだろう。後は彼が指示してくれるから、その通りにすれば良い。オロオロして泣いていれば大丈夫。

 そう直紀が言っていた。その後警察が来ても、救急隊が来ても、「夕べは元気だったのに…」「どうしてこんなことに…」を繰り返すよう指示されている。


(よし、始めよう。大丈夫、上手くできるわ)


 込み上げる胸の痛みを堪えて、手首のシュシュを外そうとした。


「っえ!?」


 思わず声が出る。


「冷たくない」


 シュシュを外して手を握ってみるが、確かに体温を感じるし、一般的に言われている「死後硬直」なるものも始まっていない。


「まさか!」


 もしかしたら…と期待する。ドキドキと鼓動が高まり、口がカラカラに乾く。


「生きてる…よね?」


 息をしているか確認するために、鼻と鼻が当たる程顔を近づけた、その刹那、うっすら彼の瞼が開いた。

 近づけた顔を離すことなく、徐々に開いていく瞼の奥に吸い込まれるように見つめる。

 碧衣の身体は固まって微動だにできない。

 唇だけがあわあわと震え、荒い息を吐き出していた。


 先に声を発したのは直紀。


「あ…お…い…?」


 掠れた声を耳にした途端、彼が間違いなく生きていることを実感してその胸に顔を埋めて大声で泣いた。鼻水とよだれで顔がぐちゃぐちゃになっても構わず泣き続けた。


(東条さんが生きてる。・・・だって、だってセンゲツの神子様の気配はもうないんだもん)


 直紀は自分の胸で号泣する碧衣の頭を愛しそうに撫でて、「一緒に生きて行こう」と優しく声をかけた。


 プロポーズであった。


「うん。うん」


 彼女に迷いは無い。

 嬉しくて泣きながら何度も頷く。

 もう一度彼の顔を確かめたくて見上げると、今度は彼が碧衣を抱き上げてキスをする。


「私、酷い顔してるから」


 恥ずかしそうにパジャマの短い袖で顔を拭こうとするが、彼はそんなこと構わないと言って唇を合わせながら、彼女のパジャマを脱がせにかかる。

 それすら待てないとばかりに、碧衣は自ら身に纏っているものを全て脱いでベッド下に落とした。彼女が生まれたままの姿になると同時に裸になった直紀に抱きしめられる。

 

 喘ぎ声で掠れた声すら発せられなくなった頃になって、漸く直紀が冷蔵庫から冷えたミネラルウォーターを持って来て、ボトルを持つ力が残っていない碧衣のために口移しで与えてくれた。

 疲れ切った碧衣は瞼が重く、睡魔が襲ってきたが、まだ意識を手放したくなくて彼に目で訴える。

 そんな彼女の様子を眺めながら「大丈夫、俺はここにいる」と伝えて彼女のぽてっとした唇を指でなぞった。


「東条さん、キスして」


 まだまだ彼を感じていたくて限界に達している身体で強請る。


「直紀って呼んで」


 耳元で甘く囁かれた碧衣は「直紀さん」と呼んで、窄めた唇を彼に向けてキスの催促をする。


「そんな可愛いことをされたら、今日は一日中ベッドで過ごすことになりそうだな」


 再び直紀の瞳の奥が光ったのだった。


 碧衣がどれだけ彼とひとつに繋がっていたいと頑張っても、明け方から何度も抱かれ続けた身体は悲鳴を上げている。

 彼を感じたまま、途中で意識を飛ばしてしまった。


 次に彼女が目覚めた時、日が落ちて窓の外は薄暗くなっていた。


(センゲツの神子様?)


 改めて呼んでみるが、やはり気配はもうない。

 一抹の寂しさと、無事に天界に帰れたのかという心配を直紀と共有したくて、リビングにいるはずの彼と話すために、とベッドから足を床に降ろす。


「きゃぁ」


 床につけた足は全く踏ん張りが効かず、そのままドスンと床に尻もちをついてしまった。その音と悲鳴で直紀が飛んできた。

 そして床にへたり込んで目をパチクリさせている碧衣を見て「無理させ過ぎてしまったか…」と独り言ちて頭を搔いたのだった。


 「どこも打ってない?」と心配そうに声をかけて、彼女に肩を貸すようにしてベッドに並んで腰を掛けた。


「神子様の気配がありません。直紀さんのほうも?」


 直紀は碧衣の頭を撫でて自分の肩にもたれさせる。


「うん。俺のほうも気配はないし、見え辛かった左眼の視力も回復してるから、佳弥斗君の魂のカケラもないと思う」

「じゃあ、佳弥斗くんの魂のカケラでセンゲツの神子様たちは天界に帰れたのですね」


 そういうことだと理解している、と直紀は答える。


「ただし、ちゃんと天界に帰れたのか、もう知ることはできないんだろうな」

「何か知る手立てがあれば良いですが…帰れたのだと信じましょう」


          *          *          *


 開演10分前に碧衣と直紀は婚約者である翠と共に、前から3列目の親族席に座って、愛する息子の登場を待った。


 23年前、永遠の別れになるからと1夜のつもりで結ばれた時には子どもを授かることはなかったが、暫く後、入籍した時に妊娠していることが判ったのだ。


 オーケストラの奏者が楽器を携えて各々の席に着いた。


 一拍間を置いて、大きな拍手と共に指揮者である東条繊斗が入場してきた。180㎝を越える長身に、父親譲りの二重で切れ長目、母親と同じウェーブがかかった癖毛は手で掻き上げると色気を漂わせる。


 凛々しい婚約者の後ろ姿をうっとりとした目で見つめる翠の右頬には、ひと足先に浄化の門を潜った環と同じえくぼがある。


 そして右手にコルクの持ち手が付いた「あの」白いタクトを構えた繊斗が左手を上に振り上げた。


 その左手甲には糸のように細い月の模様の痣がある。


次の章はついにエピローグです。

天界に戻った巫と覡がどうなったのか、最後まで見届けてください。

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