直紀 事故前 4
都心から出て山間部を走る頃になると、予報では晴れだと言われていた空に灰白色の雲が薄く広がってきた。
目的地を入力したナビゲーションが示すルートは道幅が狭く、カーブが多い山道である。
空に広がる薄雲は見る見るうちに灰白色から墨色に変わり、遠雷が鳴り始めた。
左側の斜面に鬱葱と生えている樹木が、強く吹き始めた風に揺らされ枝木がしなる。直紀は「車体に傷が付くと嫌だなあ」と思って注意深く運転していたが、やがて降り出した雨が激しくなるにつれてワイパーが効かなくなってきた。
ただでさえ気持ちが落ち込んでいるというのに、天候まで追い討ちをかけてくるとは・・・と腹立たしく恨めしく思った。
自動点灯モードに設定しているヘッドライトが作動するほどに暗くなる。
「嫌な天気になったな」
黙って運転していると苛々が募り堪えきれずに、隣でずっと俯いている環に聞かせるようにポツリと呟いた。
声をかけてもらって少し救われたと思ったのか、その顔を上げる。
「ええ。雷、怖いわ」
運転している直紀のほうに顔を向けた環をちらっと横目で見て、無意識に口角を上げる。彼がほんの少し表情を和らげたことが余程嬉しかったのか、右頬にえくぼを作って微笑み返してきた。
ーああ、やっぱり環が好きだ。誰にも渡したくない。
前方から来る車のヘッドライトに2人が照らされた刹那、聴覚を失うほどの雷鼓。
「きゃああぁあ………」
「たまきぃー---!!」
夫婦の悲鳴が重なり、直後にグシャンと大木が車を圧し潰す。
雷撃を受けて裂けた大木が2台の乗用車を潰し、1台は黒煙を上げて炎上している。
仄暗い空間に響く雷鳴の中、3つの黄金色の光霊と1つの瑠璃色の光霊が一直線に物凄いスピードで高く高く昇っていった。




