プロローグ
本日から連載開始です。
無数の真っ白な蝋燭が宙に浮いている。
太さも長さも区々なそれらが無辺の空間に遥かな高みから床すれすれの高さまで、そして蠟が溶けて滴ることもなく炎を乗せている。
この空間には空気の流れがないにも拘わらず、炎が微かに揺らめく。床を思わせる足元にはドライアイスのような乳白色の煙が、これまた漠々と広がっている。
京都伏見稲荷大社の千本鳥居を彷彿させるような無数の朱色の門がトンネルを作り、その出口は見えない。トンネルの入り口は蝋燭の明かりに照らされ、その門を潜るために黄金色の光球と瑠璃色の光球がぞろぞろと1列に並んでいる。
その長い列の最後尾辺りで床の煙の中から光球がボワーっと現れ、ポンっと浮き上がり、そして列に並ぶ。
淡々とそれが繰り返されている。
これらの光球は下界で寿命が尽きた魂である。
そう、ここは天界。
大御神が全ての御霊の安寧のために創造した世界。
蝋燭の明かりが照らしているのはトンネルの入り口だけで、その内側には一切の光が届かないために漆黒の闇が口を開けて、来るものを飲み込もうとしてるように見える。
一定のリズムを刻んで黄金色と瑠璃色の光霊がトンネルに吸い込まれるように向かい、門を潜った途端に自身の光が漆黒の闇に溶けて見えなくなる。
黄金色と瑠璃色の光霊は同数であったり、規則に従って並んでいるわけではない。圧倒的に黄金色の光霊が多い。
トンネルの入り口となる門の両側には、巫(女の神子)と覡(男の神子)が立っている。
巫は白衣という白い着物を着て、緋色の袴を穿いている。覡も白衣に、こちらは紫色の袴を身に纏い、両神子の足元には白い足袋が見える。
巫は豊かな黒髪を腰まで伸ばし、ゆるくひとつ結びにしている。一方、覡はショートヘアではあるが、微妙に個性があった。
巫と覡が穿いている袴には様々な月の形が金糸で縁取りされて鏤められ、その形がその神子の名になっている。
神子の姿は下界の神子と同じように見えるが、決定的な違いがあった。
それは、天界の神子の尻には栗鼠のような大きくモフモフした純白の尻尾がついているのである。
天界のこの空間には、巫が29体と覡が29体、そしてその58体をまとめる1体の巫がいる。そのまとめ役を担っている巫は白衣と緋色の袴の上から千早という衣を纏い、それには銀糸で縁取られたすべての月の形が鏤められている。
神子の役割は光霊が重ならずに1体ずつ順々に門を潜るよう祈りを捧げることである。
光霊は等間隔に並んでいるわけではなく、同じ時間に、同じ場所で、同じ事由によって寿命を終えた魂が分かるように他の光霊と少し間隔が開いている。
殆どの光霊は単体で並んでいるが、複数の光霊がひと塊で並んだ場合、下界で事故か事件があったのだと神子たちにも分かった。強制的に寿命を終えなければならなかった光霊かも知れないと思うと、次の人生はもっと幸せであって欲しいと、祈りながら門に導くのだった。
いつも通り門の両側で2体の神子が祈りを捧げながら光霊をトンネルに導いていると、3つの黄金色の光霊と1つの瑠璃色の光霊がひと塊で並び、門に差し掛かった。
そして、まさに門を潜ろうとしたその刹那、門の両側で祈りを捧げていた2体の神子のうちの巫のほうが1つの黄金色の光霊をいきなり抱いて、周囲に目を遣ることもせず一直線にドライアイスのような煙の中に飛び込んだのだった。
「繊月の巫が下界に降りた!」
神子たちの悲鳴のような声が響く。
繊月の巫と言われた神子が煙に消えた直ぐ後に、門の両側で祈りを捧げていたもう一方の覡が、連れて行かれた黄金色の光霊の次に並んでいた別の黄金色の光霊を抱き、飛び降りた巫を追いかけるように煙に飛び込む。
先に下界に降りた巫と違ったのは、追いかけた覡の大きな尻尾には、連れて行かれた2体の黄金色の光霊の後ろに並んでいた瑠璃色の光霊の1部がくっついていたことだった。
「繊月の覡も降りたぞ!」
今度は神子たちの歓声が響き渡る。
天界から2体の神子が2つの光霊とカケラを持って下界へ一直線にすうーっと降りて行った。
天界について加筆しました。




