【21】浄化の儀
舞台は、日本のような日本では無いファンタジー世界です。
建物の片付けを兵たちに指示し、珀黎と藍姫たちは外へ出た。
烏鬼が空を見上げると結界に大きくヒビが入っているのが見えた。
「あれが"守りの紫陽花"にも現れていた異変ですか?かなり大きな歪みが生じています…」
藍姫も見上げながら困惑したように呟いた。
「おそらく花琳が呪いに飲み込まれ、魔物と共鳴、融合したことで結界に異常が起きたんだと思います。通常であれば結界は魔物の攻撃程度ではかすり傷すら付きませんが、これに"呪い"が絡むと非常に厄介なんです。強すぎる"呪いの力"は清浄な結界すらも歪めてしまう」
結界に大きな亀裂があるというのに、それに気付いているのは藍姫や珀黎、そして四葩のみだった。
珀黎の側仕えたちも護衛の兵も空を見上げる藍姫たちを怪訝な顔で見ていた。
藍姫に髏鬼がこっそり耳打ちしてくれる。
「結界もそうなんだけど、紫陽花から放たれる光とか神の力が絡むものって普通の人には見えづらいんだよ。自分の魔力ならまだしも、魔力が高くなければ認識すら出来ない。難儀なもんだよね」
残骸処理やらで多忙な珀黎に礼を言って藍姫たちは八仙花神社に戻り、急いで"守りの紫陽花"のもとへと向かった。
藍姫は茶色く変色してしまった紫陽花の花びらに手を翳し魔力を込める。
薄紫色と白桃色の魔力が融合して輝きを放つ。
以前のように呪いの力に弾かれることも無く、"守りの紫陽花"はみるみるうちに瑞々しく咲き誇り甦った。
「良かった。これで結界は修復出来ましたね」
藍姫も四葩も揃って安堵し、胸を撫で下ろした。
「まさか清浄なる結界に亀裂が入るほどの大きな呪いの力とは恐れ入ったね。魔物を喚び出したのが人の少ない建物だったのが不幸中の幸いか。犠牲は出てしまったけども…」
"守りの紫陽花"を修復後、神社の居間で休憩していた髏鬼はやれやれとため息をついた。
もし、珀黎や藍姫たちがもう少し遅れていたら、巨大な魔物は外へ飛び出して街の住民たちを襲い、犠牲者は膨大な数になっていただろう。
「巨大な魔物の脅威は去ったかもしれないが、辺境の森には依然として魔物たちがうじゃうじゃいやがる。巨大な魔物が呪いの力と共鳴した影響もあるかもしれねぇし、早いとこ手を打った方がいいんじゃねぇか?」
蛇鬼は胡座をかき、狐鬼の用意した熱い茶を啜った。
広大な土地を有する金玲王国には、いくつもの大きな森が存在する。
瘴気は風の流れに乗って森の方へと溜まり、澱みが生じてそこから魔物が生まれてしまう。
姫巫女は各地の森を回って浄化の儀を行うことになっているのだ。
「そうですね。なるべく早いうちに準備を整えて珀黎様へ通達をします。藍姫様、各地を回る予定は藍姫様のご体調も考慮して行いますので、ご安心下さい」
「はい、ありがとうございます。私、頑張ります!」
シャキッと背筋を伸ばして宣言する藍姫に、烏鬼も思わず口元が綻んだ。
巨大な魔物の襲撃から1週間後、藍姫は辺境の森へ浄化の儀を行う為、八仙花神社を出発した。
もちろん、人間の姿に変化した四葩も一緒である。
出発前に烏蘭や狐珀に手伝ってもらいながら、姫巫女としての神聖な衣装に着替えた。
白練色の着物には薄紫色の美しい紫陽花がいくつも刺繍され、その上に藍白の薄羽織をかけ、頭には紫陽花の花があしらわれた冠を載せている。
腕には金の装飾が施された腕輪と、耳には菫青石の耳飾りが輝きながら揺れている。
「お美しいです、藍姫様!」
狐珀が嬉しそうに飛び跳ねてはしゃぐのを烏蘭が小突いて宥めた。
辺境の森の入り口付近には、既に珀黎が魔物の襲撃備えて用意した兵と共に待機していた。
兵たちから離れた場所には見物に来たであろう貴族たちが並んでいるのが見える。
姫巫女の浄化の儀は特に貴族たちには通告されていないが、どこからか情報を聞きつけて命知らずにも野次馬に来るのだ。
「藍姫様、お待ちしておりました」
珀黎が恭しく礼をの姿勢で頭を下げる。
「国王陛下にご挨拶申し上げます。この度のお立ち会い、誠にありがとうございます」
藍姫も軽く膝を曲げて挨拶をする。
「それではこれより姫巫女様による浄化の儀を執り行います。藍姫様、こちらへ」
珀黎や四葩、貴族たちが見守る中、藍姫はしっかりとした足取りで森の入り口へと向かった。
森の入り口には注連縄や紙垂の飾られた柱が建てられ、藍姫はそこまで歩くと立ち止まり、目を閉じて静かに魔力を込め始める。
首から下げられた白い勾玉がキラリと光ったかと思うと薄紫色の光が漏れだし、たちまち森を覆うように輝き出した。
藍姫は瞳を青白く変化させると、空を見上げ歌うように言葉を紡いだ。
「この地に蔓延る悪しき者たちよ、清浄なる元素に還りたまえ」
すると、薄紫色の光は天に集まり、まるで雨のように森へと降り注いだ。
魔力の低い者たちもハッキリと可視出来るほど、高濃度で神聖な魔力の集まりに涙を流す者さえいたほど圧倒的な光景だった。
瘴気が漂い、澱んだ空気に汚され陰鬱としていた森は陽の光が差し込み、清涼な風が吹く清らかな場所へと生まれ変わっていた。
「何と…素晴らしい…。これが、神に選ばれた姫巫女様のお力なのか…」
貴族のひとりが惚けたように呟き、周りの者たちも一様に頷いた。
「藍姫様は間違い無く、歴史に名を残す偉大なる姫巫女様になられるでしょう」
烏鬼が賞賛の言葉述べ、珀黎も兵たちも敬意を込めて礼の姿勢を取った。
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