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【15】真実 (2)

舞台は、日本のような日本では無いファンタジー世界です。


修羅場はまだまだ続きます。


珀黎(はくれい)の言葉に、瑛龍(えいりゅう)香綺(かあや)も貴族たちも全員が動きを止めた。


「貴様、母上の願いを足蹴にするつもりか…?やはり、私から王太子の座を奪おうと…」


珀黎は悲しそうな目で瑛龍を見つめ、静かに首を振る。


「そうじゃないんだ、瑛龍。君は確かに王妃陛下の子ではあるけど、国王陛下の子では無い。故に、君には王位継承権がそもそも無いんだ」


会場がシンと静まり返った。


香綺はその場で膝から崩れ落ち、瑛龍は口を開けたまま珀黎を見ている。



「…何を、馬鹿なことを…。私が、国王陛下の子では、無い…?そんなはずは、無い…。母上が、私は国王陛下との子だと言って…」


瑛龍は香綺の方を振り返って叫んだ。


「母上!そんなはずはありませんよね?私は、国王陛下との子だと、ずっとそう仰っていましたよね!?私は将来、国王になるのだと…」


その瞬間、香綺が手で顔を覆って泣き出すのを、瑛龍は呆然と眺めるしかった。



「瑛龍」


珀黎が声を掛けると、瑛龍は憎悪の籠った目で珀黎を睨み付け、おもむろに髪の毛を掴むと抜けた毛髪を机に叩き付けた。


「貴様の戯言など誰が信じるものか!そこの奴が魔力の分析とやらが出来るのなら、私の魔力と国王陛下の魔力を分析してみろ!私は正真正銘、国王陛下の子だ!」



瑛龍は今にも泣き出しそうな怒りの表情でそう叫んだ。


珀黎が髏鬼(ろき)を見ると、髏鬼が頷いた。


こうなることを見越して、国王陛下の毛髪を許可を貰って採取してきていた。


髏鬼が苓彰(れいしょう)の毛髪や骨と一緒に置いた、白髪混じりの毛髪がそれだ。



渋る瑛龍に毛髪やら切った爪やら寄越せと脅す羽目になるかと思ったが、これは都合が良いと髏鬼は内心ホッとした。


髏鬼が手を翳し魔力を込めると、それぞれの毛髪に残った魔力の色と形が浮かび上がってきた。




魔力の色と形などの要素は、母親と父親から半分ずつ受け継がれる。


仮に、母親の魔力が朱色の△□、父親が青色の♢○とするなら、その子供は朱色の△♢、朱色の□○、青色の□♢、青色の△○など。


これはあくまで例えであって、実際の形はもう少し複雑になっている。




瑛龍と国王の毛髪から検出された魔力は、どちらも全く似つかないものだった。


瑛龍の魔力は先ほどの香綺のものと良く似ているが、国王の要素は少しも無かった。


それは、会場にいる貴族たちにも一目瞭然で、瑛龍が国王の血を受け継いでいないということが判明した。



「嘘だ!こんなもの出鱈目に決まっている!私は王太子だぞ、この詐欺師共が!貴様らなぞ、すぐにでも首を刎ねてやるからな!」


怒りに顔を染め、唾を吐き散らして叫ぶ瑛龍を髏鬼は冷ややかに冷静な目で見る。


「…瑛龍殿下、あなたは国王陛下の御子では無いだけではなく、王妃陛下の不義によってお生まれになってるんですよ」


「はぁ!?母上と陛下は愛し合っておられたんだぞ!母上がそんなことするはずが無い!」



憤然と髏鬼を睨み付け、今にも殴り掛からんとする瑛龍に髏鬼はさらに残酷な事実を突き付ける。


「お気付きになりませんか?あなたはの魔力は、珀黎様を襲った犯人、苓彰のものととても良く似ているんですよ」


「はっ……」



瑛龍は血の気の引いた顔で机の上の毛髪を見た。


髏鬼は今一度、瑛龍と苓彰の毛髪に魔力を込める。


そこには、香綺と苓彰の魔力の要素を半分ずつ受け継いだ形の瑛龍の魔力が映し出された。


瑛龍は口をパクパクさせて苦しげに喘いでいる。


珀黎は悲しげに目を伏せた。




苓彰はもともと当時側室だった香綺の護衛だった。


2人はそのときに出会って愛人関係になり、たびたび隠れて逢瀬を繰り返していた。


そのときに出来た子供が瑛龍だ。



香綺は瑛龍の妊娠が発覚すると、国王陛下の御子だと主張し、愚鈍な国王はそれを信じて疑わなかった。


しかし、当時の家臣たちは瑛龍は国王の子では無いのでは?と噂していた。


成長した瑛龍は国王に全く似ていなかったからだ。


周りから"愚鈍なバカ殿"というアダ名で陰から笑われていた国王はちっとも気にしていなかったが、感の鋭い者は香綺の不貞を疑っていた。


苓彰も、もともと単純でお人好しな性格であった為に、愛する香綺の言葉を疑うことなく鵜呑みにしていた。



ある日、香綺は苓彰に自分の命が狙われているのだと涙ながらに訴えた。


当時、王宮内では国王の後継者として第一王子の珀黎派と、現王妃の子である第二王子の瑛龍派とで派閥が分かれ、緊迫した状況にあった。


形勢は国王も溺愛している瑛龍を支持する派閥が優勢で、焦った珀黎派が瑛龍と香綺の命を狙っているのだと香綺は震えながら言った。


蒼天宮邸(そうてんのみやてい)にて、継承者争いがあるのは苓彰も知っていた。


しかし、珀黎派が瑛龍と香綺の命を狙うなど全くの出鱈目であり、香綺の作り出した嘘である。



しかし、泣きながら助けて欲しいと訴える香綺を見た苓彰は、愛する者の命の危機に怒り、それならば俺が珀黎の命を奪ってやると憤然と息巻いた。


それを聞いた香綺は、手筈は全て自分たちがするから、どうか珀黎を殺して欲しいとお願いしたのだ。


その為に、香綺は苓彰に適当な退職理由を作って珀黎の護衛を辞めさせ、金を渡してしばらく自宅にいるよう指示した。


そのときに劇薬入りの小瓶と指示書を苓彰に渡したのだ。



暗殺を決行する日を珀黎の誕生日にしたのは、誕生日パーティーの準備で、使用人たちがバタバタと慌ただしく、珀黎の部屋へ行く隙が出来るからだ。


苓彰は蒼天宮邸で仕えていたので、邸内の間取りや人の少ない通路など熟知している。


当日は、香綺が指示した通りの道順で進み、珀黎の部屋の前にいる護衛たちも、香綺があらかじめ離れるよう適当な理由で呼び出していた。



そして、苓彰は珀黎への暗殺を実行する。


その結果、暗殺は未遂に終わったが、珀黎は両目を失明する大怪我、目撃者も無く、苓彰はそのまま香綺の用意した隠れ家に一時的に逃げていた。


苓彰は暖炉で襲撃時に着ていた衣服や香綺からの指示書を燃やしたが、完全に燃えきらず、一部の紙片が残ってしまっていた。


しばらく、苓彰は隠れ家で身を潜め、頃合を計って香綺から出てきても良いという指示が来るはずだった。



そして、隠れ家に潜んでから2日が経った頃、香綺が突然、苓彰のもとを尋ねてきた。

しかも何故か真夜中に、変装した恰好で。


訝しんだ苓彰だったが、愛する香綺がやってきて嬉しくなり、お茶を用意しようとすると、香綺が手ずから紅茶を入れてくれた。


そして、苓彰は出された紅茶を一口飲んだ。


その瞬間、口と喉が焼け付くような刺激が襲い、苓彰は激しく嘔吐した。


床に転がり何度も咳き込み、涙で視界が滲む中、苓彰が助けを求めて香綺を見ると、そこには無表情に苓彰を見下ろす香綺がいた。


苓彰は床をのたうち回り、そのまま死亡した。


その死体が辺境の村近くの森の入り口に捨てられたのだ。





瑛龍はその場で(くずお)れた。


自分は国王陛下の子では無く、母親の不貞によって生まれた。


ずっと信じてきた世界が足元から崩れ落ちた。




珀黎は静かに瑛龍と香綺を見つめると、衛兵を呼んだ。


香綺は珀黎暗殺未遂により牢屋へ入れられる。


第一王子を狙ったとあれば、死罪は免れない。


瑛龍は国王陛下の御子では無いと証明された以上、王太子の地位は剥奪され、庶子に戻されることになる。



衛兵に連れて行かれる2人を珀黎は悲痛な面持ちで眺めていた。


藍姫(あいひめ)がそっと珀黎に寄り添い、その手を優しく握った。


珀黎は藍姫に気付いて穏やかに微笑む。



次の瞬間、それまで少し離れた場所で一部始終を見ていた花琳(かりん)が藍姫に駆け寄り、思い切り頬を叩いたのだ。


その勢いで倒れそうになった藍姫を珀黎が咄嗟に抱きかかえる。



「藍姫様に何をなさるのです!」


珀黎は怒りを顕に花琳を睨み付ける。


後ろにいる烏鬼(うき)たちもぶわっと殺気のようなオーラを出し、周りの貴族たちは怯えていた。



しかし花琳は鬼の形相で藍姫を睨み付け、興奮した様子でさらに殴り掛かろうとしたのを、珀黎の呼んだ衛兵によって取り押さえられた。



「あんたのせいで何もかも滅茶苦茶よ!娼婦の娘の分際で、姫巫女に選ばれて良い気になってんじゃないわよ!あんたが珀黎の目を治したせいで、瑛龍の出自が明らかになって……あぁ!もう!私はこのままじゃ姫巫女にも王妃にもなれない!全部あんたが生きてたせいでこうなったのよ!!あのまま野垂れ死んでいれば良かったのに!!!」



口汚く喚き散らす花琳に烏鬼たちは冷ややかな視線を送ると、前に進み出た。


「"あのまま野垂れ死んでいれば良かったのに"。それはあなた方、篠宮家(しのみやけ)が日常的に藍姫様に暴力を振るい、追い詰め殺害して山に捨てたことを言ってるんですよね?」



烏鬼は努めて冷静に、しかし言葉には僅かに怒りを滲ませて花琳に質問する。


「はぁ?!あいつが無能でどうしようも無い役立たずだから死んだんでしょう!自業自得じゃない!卑しい娼婦の娘のくせに私より先に姫巫女候補に選ばれて、調子に乗ったから儀式で失敗したんでしょ!ざまぁみろだわ、そのせいで多少暴力を振るわれたからって今さら文句を言うの?この恥知らずが!」



花琳の凄まじい剣幕に藍姫は呆然とするしか無かった。


この修羅場にコソコソと隠れて逃げようとしていた宗弦(そうけん)杏花(きょうか)は、狐鬼(こき)蛇鬼(じゃき)によって阻まれた。


「あなた方には特にお話を伺いたく存じます。さぁ、こちらへお越し下さい」


有無を言わさぬ迫力の狐鬼と蛇鬼に、宗弦と杏花は青褪めた顔で従うしかなかった。



次は何が始まるのだと貴族たちが見守る中、藍姫の前に宗弦と杏花が花琳と同じく、衛兵に囲まれながら出てきた。


自分を殺した父親と散々虐げられてきた義母を前にしても、藍姫は心を強く持っていられた。



隣にいる珀黎や烏鬼たちのお陰もある。



最初に烏鬼が口を開いた。


読んで頂いてありがとうございます!


次回は花琳たちへの断罪劇です。

お楽しみ頂けたら幸いです。


評価や感想など頂けたら飛んで喜びます。

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