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【12】束の間のひととき

舞台は、日本のような日本では無いファンタジー世界です。


またのんびり回です。


蒼天宮邸(そうてんのみやてい)での姫巫女お披露目の式典までの間に珀黎(はくれい)は何度か八仙花神社(はっせんかじんじゃ)に来訪した。


その度に珀黎や烏鬼(うき)たちが調べた情報をお互いに話し合い、詳細をまとめていく。


その間に珀黎は藍姫(あいひめ)と共に、神社の周りを散歩したり、お土産にお菓子を持ってきてくれたりと何かと話し相手になってくれていた。



今日も烏蘭(うらん)狐珀(こはく)が見守る中、眩い光を放ちながら美しく咲き誇る紫陽花を見る珀黎と藍姫は、とても楽しそうに2人だけの時間を過ごしていた。


「藍姫様のおかげで世界の明るさを改めて実感しております。こんなに美しい花々を眺められるのも随分と久しぶりでした。あなたの姫巫女様としての才、いえ、あなたの"心の優しさ"で、私は救われました」


珀黎は藍姫を慈しむように見つめていた。


「珀黎様が再び美しい花々を愛でられる手助けが出来たことをとても誇りに思います。姫巫女は神の力を受け取り、国を守るだけではなく、人々を癒すことも役目なのだと、ようやくはっきりと自覚しました」


紫陽花の朝露に濡れた花弁を指で撫で、藍姫は珀黎を見つめ返した。




篠宮家(しのみやけ)にいた頃の藍姫は、父である宗弦(そうけん)からの重圧や暴力、義母や義妹からの陰湿な暴言の数々に怯える日々だった。


母は藍姫を生んでまもなく亡くなり、誰も味方になってくれる者はおらず、抵抗の仕方も知らず、ただ我慢して受け入れることしか分からなかった。


しかし、八仙花神社に来て烏鬼たちから魔力の存在や扱い方を教わり、姫巫女としての能力が覚醒した。


それだけではなく、烏鬼たちも珀黎も、藍姫に魔力があろうが無かろうが、それだけで無価値無能と決めつけ、虐げるのは間違っているとはっきりと断言してくれた。


今まで誰ひとり味方のいなかった藍姫にとって、それだけで心が救われ、やっと息が出来た心地がしたのだ。


そこから少しずつ藍姫本人に自信が付いていき、姫巫女としても成長していくことが出来た。


虚ろな目で下ばかり見ていた娘は今、しっかりと顔を上げ前を見据え、2本の足で大地に立っている。


自信と活気に満ち溢れた藍姫の魔力に紫陽花たちが、まるで祝福するかのように光を放ち共鳴した。



「あなたは本当にお強い方だ。これからあなたはどんな困難にも臆することなく進んで行かれるでしょう。あなたは歴代の姫巫女様方と同じように美しく気高い。私にはそんなあなたがとても好ましく見えます。これからもあなたと共にこうしてお話出来たらと願ってしまいます」


優しさの中に少しの妖艶さを隠して微笑む珀黎に、藍姫は顔が赤くなるのを自覚せざるを得なかった。


藍姫の全身が激しい鼓動に支配される中、珀黎は屈んで優しく藍姫の手を取る。



「藍姫様、私は必ず藍姫様をあなたの家族や瑛龍から、数多の敵から守ってみせます。藍姫様が傷付いて涙を流されないよう、私がお傍にいてお守りすること、この紫陽花たちと藍姫様に誓います」


澄んだ灰緑の瞳がまるで射抜くように真っ直ぐ藍姫を見つめている。



これは、王族や貴族が婚姻前に行うという"守りの誓い"だ。


これを受け入れるということは、珀黎からの求婚を受けるということになる。


藍姫は迷わなかった。



藍姫は珀黎の手を優しく握り返すと、微笑んだ。


「はい。不束者ですが、どうかよろしくお願いします」



ふわりと清涼な風が吹き、藍姫の長い髪が珀黎の肩口を撫でた。


読んで頂きありがとうございます!


次回、いよいよ藍姫と花琳が再会します。

どんな修羅場になるか、お楽しみ頂けたら幸いです。


評価や感想など頂けたら飛んで喜びます。

よろしくお願いします。

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