【11】式典までの準備
舞台は、日本のような日本では無いファンタジー世界です。
「それにしても髏鬼は何で急に、身元不明遺体と珀黎公を襲った犯人が同一人物だって思ったのさ。珀黎公に髪の毛まで持ってこさせて」
狐鬼が新しくお茶を入れながら、座布団の上で寝転んでいる髏鬼に聞く。
「昔、珀黎公のお見舞いに行ったときに髪の毛を見せてもらっていたんだよ。そのときは比較対象もいないから、とりあえず髪の毛に残ってた魔力を解析して終わったけど、一応、魔力の色と形は覚えていたんだ。そして、村の外れで見つけた遺体の骨の魔力を何となく確認してみたら、ビンゴだったってこと。だから、珀黎公に次に八仙花神社に来るときに髪の毛持ってきてって手紙で伝えておいたの」
「なるほど。国に報告しようにも黒幕が王妃の香綺ではないかという疑惑がある以上、証拠隠滅を図られる可能性もありますし、賢明な判断でしたね。…それはそうと、藍姫様の御前ですよ。ちゃんと座りなさい、髏鬼」
烏鬼に注意され頬を膨らませる髏鬼に藍姫はクスクスと笑った。
「藍姫様はさすがのお力だったなぁ。珀黎公を襲った犯人やら黒幕が判明すれば、また珀黎公が王太子に立太子されるかもしれねぇじゃねぇか」
蛇鬼は熱い茶を啜ってから豪快に笑った。
「そうなったらこちらとしても有難いけど、そう簡単に行くかなぁ。まぁ、これから色々と調べてみるしかないよね」
「半年後には蒼天宮邸にて姫巫女様に選ばれた娘のお披露目の式典が行われる予定です。それまでに調べ上げて、王家に証拠を提出できるのが望ましいですね。王家や篠宮家には、藍姫様を死に追いやった罪もありますし、合わせて問い詰めることが出来れば良いでしょう」
烏鬼が冷えた目で窓の外を見据えながら言い放つ。
藍姫にもピリッとした空気が伝わった。
「向こうさんは藍姫様の義妹だかを姫巫女に据える予定らしいが、もう八仙花神社は神が選びし正統なる姫巫女様がおられる。奴らのひっくり返る様子が目に浮かぶぜ」
蛇鬼は烏鬼と同じ目で、しかし口元だけは楽しそうに笑っていた。
藍姫は花琳の蔑んだような歪んだ顔を思い出し身震いした。
常に藍姫を見下し虐げ、挙句の果てに殺した両親と義妹に半年後、顔を合わせなければならない。
死んだはずの藍姫が生きていたと知られたら、おまけに藍姫が正統なる姫巫女に選ばれたと知ったら、怒り狂った家族に今度こそ八つ裂きにされるのではないかと、恐ろしいことが次々と頭に浮かんできた。
俯いた藍姫に狐鬼が優しく声をかける。
「大丈夫。藍姫様のことは僕たちが必ずお守りするから安心して。もう二度とあんな家族の元に帰さないし、指一本触れさせはしないよ。藍姫様は八仙花神社の正統なる姫巫女様なんだから、本来の姫巫女様を傷つけさせなんかしない。だから自信を持って」
「瑛龍殿下にもお灸を据えた方が良いかもね。いくら王太子だからって藍姫様を侮辱するのは、俺らが黙っちゃいられないしねぇ」
「藍姫様を馬鹿にする奴は俺が縛り付けてやらぁ」
「何はともあれ、藍姫様は我々がお傍におりますからご安心下さい」
4人の力強い言葉に藍姫の目に浮かんだ涙が引っ込んでしまった。
「…はい!ありがとうございます」
藍姫は姫巫女に選ばれた。
責務をまっとうする為に怯えてばかりはいられない。
藍姫はもう、恐怖に震えるだけの子供では無いのだ。
魔力の扱いを熟知し、神の力を受け取り、この国を民を癒し守る使命がある。
凛とした表情になった藍姫に烏鬼たちは微笑んで頷き、拝礼する。
「藍姫様は随分とお顔付きが変わられた。勇猛邁進されるお姿に改めて敬意を表し、永遠に忠誠の誓いを」
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