【1】婚約破棄
舞台は日本のような日本では無いファンタジー世界です。
虐げられてきた少女の覚醒&シンデレラストーリー的な話です。
「藍姫、私はお前との婚約を白紙に戻し、義妹の花琳と新たに婚約を結ぶことにする。理由は分かるな?お前のような姫巫女としての才の無い無価値と王族が結婚するなどあってはならないからだ」
薔薇と孔雀の紋様が施された壮麗なステンドグラスから陽の光が零れる洋館の大広間で、瑛龍殿下に婚約破棄を言い渡されたのは、篠宮家の長女である藍姫だ。
ここは、金玲王国の王族が住まう蒼天宮邸。
広大な敷地に建つ豪奢な宮殿の大広間には、王国中の名だたる貴族たちが集まり、その視線は大広間の中央に立つ3人の人物に注がれていた。
1人はこの国の第二王子で王太子でもある瑛龍殿下。
その殿下の腕に甘えるように擦り寄るのは、篠宮家の次女で藍姫の義妹である花琳だ。
瑛龍殿下は憎々しげに目の前に立つ、見るからにみすぼらしい恰好の痩せこけた少女、藍姫を睨みつけていた。
広大な土地と肥沃な大地を誇る金玲王国には、国の花として紫陽花を祀っている。
この紫陽花には"神が宿る"とされ、姫巫女はその力を受け取り、国を覆う結界を張ったり、人間を脅かす存在"魔物"を浄化し滅することが出来る。
代々の姫巫女は貴族の娘の中から魔力の高い者が1人選ばれ、紫陽花が祀られている八仙花神社で祈りを捧げる。
そして、姫巫女は王家と婚姻を結ぶことにより、王家と八仙花神社との結びつきを強くする目的がある。
今代は、篠宮家から藍姫が姫巫女候補筆頭として選出され、王太子との婚約が内定していた。
しかし、藍姫が12歳のときに行った姫巫女としての魔力値を測る儀式で、藍姫はそもそも姫巫女としての魔力が無いということが判明し、そこから17歳にった今も家族から日々虐待を受けていた。
今日の王家主催の親善パーティーで藍姫は、瑛龍から正式に婚約破棄を言い渡された。
「お前との婚約破棄については国王陛下よりご許可を頂いてある。花琳との新たな婚約もだ。国王陛下もお前の無能さを嘆いておられたぞ」
「…謹んで、お受け致します」
藍姫は俯きながら震える声で返事をすると、くるりと踵を返し大広間から出て行った。
その後ろ姿を花琳は勝ち誇った表情で笑って見送った。
「お可哀想なお姉様」
***
藍姫は篠宮家の屋敷に帰宅すると、父である篠宮家の当主の宗弦に頬を平手打ちされた。
「この役たたずが!お前のような無能の為にいくら注いだと思っている!公の場で瑛龍殿下に婚約破棄まで言い渡されて、篠宮家の面汚しめ!さっさと離れへ行け!」
「も、申し訳…ございません…」
藍姫は痛む頬を押さえ、逃げるように離れへ移動した。
離れと言ってもほとんど物置小屋のような広さしかない狭い一室に、藍姫は閉じ込められるように生活していた。
もちろん、お世話係などの使用人もいない。
食事も満足に与えられず身体は痩せこけ、着物もボロボロのほつれた物しか無かった。
父からは殴る蹴るなどの暴力を日常的に受けていた。
着物に隠れる見えない部分には痣が絶えず、義理の妹、花琳や義母からは毎日ネチネチと暴言を吐かれ、精神的にも攻撃を受けていた。
こんなことになったのは、藍姫が姫巫女としての素質どころか、魔力自体が無いことが証明されたからだ。
藍姫は宗弦の妾として囲われていた母から生まれた。
藍姫が生まれたとき、庭に植えられていた紫陽花が時期外れにも関わらず一斉に花開き、眩い光を放った。
これを見た宗弦は「この子は神の子に違いない!」と、庶子である藍姫を本家に迎えて、惜しみなく金を注ぎ育ててきた。
藍姫が10歳のときに宗弦のゴリ押しで王太子になったばかりの瑛龍殿下との婚約が決まった。
そして、藍姫が12歳のときに悲劇は起きた。
読んで頂き、ありがとうございます。
ゆっくりになるとは思いますが、ちまちま投稿していきますので、お楽しみ頂けると嬉しいです。