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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

雪と沈黙

作者: 平瀬ほづみ

 私たちの住む町はたくさん雪が降る。

 高校の前を通るバスは一時間に一本。最終は高校の放課後の終わりに合わせて十八時半。

 採算が取れない路線なので、廃止が見当されたのだが、いかんせん冬場は雪が降って自転車通学が危ないということで学校が頼み込んで路線を維持してもらっていた。でも結局、来年には廃止されることになった。

 まあ、いいけれど、

 来年には卒業している。


「進学先決まってるのに、なんでここにいるの」


 図書室の隅っこで降り積もる雪を見ていたら、友人のひなたがやってきた。

 図書室には人がいるので、小声で。


「バスを逃したの」

「何してたのよ」

「友達と話してたの」

「推薦合格者は余裕だね~」


 一般受験組のひなたが隣に座って私の脇腹を小突く。


「ひなたは何してたの」

「先生に数学を教えてもらってた」

「ひぃ、国立大志望は大変だね~」


 ひなたの口調をまねした声が大きかったのか、まわりの人間がこちらをチラ見する。その視線に気付いて私とひなたはあわわと口をふさいで小さくなった。

 お互いに目配せして、目だけで笑い合う。


「さて、数学、やんなきゃね」


 ひなたはそう言ってバッグの中から数学の問題集とノートを取り出した。

 私を無視して勉強を始める。

 私はその様子をなんとはなしに見つめていた。

 外はしんしんと雪が降り積もる。


 ひなたは色が白くて、髪の毛は栗色。少し癖が入っているので、長めのボブはゆるくうねっている。

 ひなたは眼鏡をかけている。視力はよくない。

 ひなたの将来の夢は学校の先生。なんでそんなブラックな仕事を目指しているのかわかない、と言ったら、看護師志望の美咲に言われたくないと笑われた。


 ひなたとは、高校に入って出会った。

 一年の時に同じクラスになって、六月の文化祭で同じ係をやって仲良くなって、それ以来ずっと親友。お互いになんでも話せる。でも、話せないこともある。


 ひなたは小学校を通して器械体操をしていたから、体が柔らかくて動きがとても美しい。一年の秋、体育の授業で器械体操をやった。ひなたは体育の先生に言われて、何度も器械体操のお手本を演じた。

 あのしなやかな動きに私は魅了された。

 体操服からすらっと伸びた手足、優雅な動作。

 教室にいるひなたからは想像ができない。


 そこにいたクラスメイト全員がひなたに見とれたと思う。

 でも心臓をわしづかみにされて、全部ひなたに持っていかれた人間はいただろうか? 私以外に。


 雪がしんしんと降る。

 夕方になると気温も低下して、暖房ががんがんに効いている図書室にいても窓辺はひんやりする。

 すぐ隣でひなたがシャーペンを走らせる音がする。

 ずっとひなたを見ていたいけれど、ひなたに鬱陶しがられるかもしれないので、私は机の上に腕組みをしてそこに頭を載せた。

 目を閉じて、ひなたの音を聞く。

 ページをめくる音、消しゴムの音。シャーペンの音。

 あと何か月かで聞くことができなくなる音。


 春になれば雪はとけてしまうけれど、私のこの気持ちはとける日がくるんだろうか?

 そもそも、私のこの気持ちはいったいなんなのだろう?


 わからない。

 あと少しで卒業して、この町を離れる不安感が見せているだけの幻なのかもしれない。


 ただ、この時間が永遠に続けばいいのにな、と思っている。

 雪がやまなければいいし、バスが来なければいい。

 春が来なければいい。


 どんなに仲がよくても言えないことはあるし、その正体に気が付いていても名前をつけてはいけない感情もある。

 私達がこれからもずっと親友でいるために。


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