八、初めて彼女と言葉を交わした日 ~ベルトラン視点~
「お初にお目にかかる。カルビノ公爵家三男、ベルトランだ。魔法騎士をしている」
「ロブレス侯爵家の長女、フィロメナでございます」
そして、見合い当日。
色々考えた結果、俺は第二騎士団の騎士服に身を包んで、ロブレス侯爵令嬢との見合いに臨んだ。
母は『そんな、朴念仁の代表のような』と苦い顔をしていたが、俺はあまり普段から小洒落た格好をしないので、初日だけ妙に気合を入れても仕方ないと思ったのと、騎士という仕事、第二騎士団という立場を彼女がどう見るか、確認したい意味もあった。
しかし。
まったくもって俺の杞憂、というか、邪念だったな。
貴族に疎まれがちな第二騎士団の騎士服にも嫌悪を示すどころか、目をきらきらと輝かせて俺を見てくれるロブレス侯爵令嬢に、俺は自身の狭量さを身に染みて感じた。
母が用意してくれた見合いの場は、王都でも人気の庭園の奥にある薔薇園。
しかも、そこを半日貸し切ったというのだから、恐れ入った。
俺では、とてもそんなこと思いつかない。
「わあああ・・・素敵」
しかし、母に対する多少の悔しさなど、ロブレス侯爵令嬢の喜びの前に、敢え無く霧散した。
彼女が喜んでくれて、俺も嬉しい。
まるで、春の妖精のような可愛さだ。
これは、母上に感謝だな。
都合よくもそんなことを思い、俺は、自身が光を放っているかの如く輝いて見えるロブレス侯爵令嬢を、眩しく見つめる。
「今日は、誰も来ない。ゆっくり、堪能するといい」
嬉しそうなロブレス侯爵令嬢と一緒にいるだけで、俺まで楽しい気持ちになり、自然とエスコートをしてガゼボまで歩いた。
相手次第で、エスコートもこれほど胸躍るものなのか。
昔馴染みだからとマリルーの相手をさせられたり、練習だといって貴族令嬢の相手をさせられた時には、面倒で嫌だという気持ちしか湧かなかったのに、ロブレス侯爵令嬢相手では、如何に彼女が歩きやすく出来るか、それに傾注している自分に気付き、あれだけ苦痛でしかなかったエスコートの神髄を、漸く知った気がした。
そして常日頃、女性は、香水や化粧の匂いが強くて近寄りたくないと思っている俺だが、ロブレス侯爵令嬢には、それも無い。
淡く、心地のいい香りがするだけであり、それが俺にはとても好ましかった。
「ありがとうございます。カルビノ公爵子息」
また、彼女は、俺の言葉をよく理解もしてくれた。
『今日は、誰も来ない』と言っただけで、詳しい説明や直接の言葉無しに、貸し切りにしたと理解してくれ、可愛い笑顔で礼まで言ってくれる。
「いや。このくらい・・と言いたいところだが、俺の力ではないのが恥ずかしいな」
それに対し、気の利いた返しをするどころか、自分の手柄ではないと馬鹿正直に伝えてしまえば、母がため息を吐く様が思い浮かんだが、これが俺なのだから仕方ない。
「ふふ。ではいつか、カルビノ公爵子息のお力で、この薔薇園を貸し切ってくださいませ」
聞いたか!
母上。
世の中には、このような女性もいるのだな。
「分かった。楽しみにしていてくれ」
ロブレス侯爵令嬢に、貴族らしい機知も面白味もない、と、呆れられなかったことが嬉し過ぎ、かつてなく浮かれた俺は、にやけないようにするのに必死だった。
俺は、母が言うように朴念仁で、女性の気持ちが分からない。
しかし、これまで分かりたいとも思わずに来た。
それはきっと、そう言った気持ち全部を、ロブレス侯爵令嬢に向けるためだったに違いないと俺は確信している。
待っていてくれ、ロブレス侯爵令嬢。
いつの日か必ず、貴女のためにこの薔薇園を貸し切って見せる。
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