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三十、真相







「失礼ながら。ベルトラン殿は動かず、我が娘フィロメナが動くことで、何かの策が完成していたのではないかと、推察しております。尤も、ベルトラン殿の動向については知り得ておりませんでしたので、今のお話を伺ってのものとなりますが」




 お、お父様凄い。


 なんというか、凛として凛々しくて・・ん?


 それって、同じ意味かしら。


 ・・・と、ともかく。


 お父様って、こんな威厳のある態度も取れたのね。




「ロブレス侯爵。貴公には、きちんと説明もせず、申し訳なかった。だが、相手がどのように出て来るか分からない状況で、致し方なかったのだと言い訳させてもらう」


 フィロメナが、父親に対し失礼な感想を持つ間にも話は進み、王太子セリオが、そう言って困ったようにロブレス侯爵を見る。


 そして、フィロメナにとって更に意外なことに、いつもであれば、王太子セリオにこのような表情を向けられれば、それだけで混乱の極みともなりそうな父が、そこで黙ることなく、凛とした表情のまま、更なる言葉を繰り出した。


「心得ております。ですがもちろん、ただ娘を危険な目に遭わせるだけであれば、即座に娘の行動を制限させようと思っておりました。しかし、厳重に過ぎるほどの護衛を付けてくださっていたので、様子見としたのです」




 え?


 なにそれ?


 護衛?


 王家が、私に護衛を付けてくれたいたということ?




「侯爵。気づいていたのか」


「はい。娘に付けている護衛から、報告があがっておりますので」


 


 ええと。


 これって、私の話よね?




「そうか。様々、変装をさせていたかと思うのだが」


「そのように聞いております。しかし、かなりの手練れであり、明らかに住人に変装した騎士だと」


「王太子殿下、ロブレス侯爵。フィロメナ嬢が混乱しているようだ。ことの説明を詳らかにしてあげるべきでは?フィロメナ嬢こそ、本人なのだから」


 自分の話の筈なのに、少しも内容が見えず、フィロメナがひとり混乱していると、カルビノ公爵が苦笑しながら、ふたりの間に割り込んだ。


「ああ、これは済まない」


「では、わたくしから説明しましょう」


 嬉々として名乗りでてくれたメラニア王女に、しかしフィロメナは遠慮がちな目を向ける。


「ですが、お話のお邪魔ではありませんか?わたくしへの説明は、後ほどでも大丈夫ですが」


「いや。ここまでのくだりを知っておいた方が、理解も早いだろう。姉上、お願いします」


 話が見えないのは事実だが、自分のために中断させるのも本位ではないと言うフィロメナに、王太子セリオがそう理解を示し、メラニア王女にその説明を委ねた。


「大丈夫よ、フィロメナ。そう複雑な話じゃないわ。むしろ、事の発端は凄く単純。マリルーがベルトランと結婚したいと言い出して、それを国王と王妃も素晴らしいことだと賛同したの。だって、ベルトランはとっても優秀ですからね。でも、ベルトランにとっては、そんなの迷惑以外の何物でもなかった。だから、ベルトランは士官学校をあんなに優秀な成績で卒業したのに、第二騎士団に入団したのよ。まあ、ベルトランは、前からマリルーに狙われていたから、初めからそのつもりだったと予測されるわね。ここまでは、いい?」


「はい。ベルトラン様が、第二騎士団に入られたのは、そういう理由もおありだったのですね」


 なるほどと頷き、フィロメナは自分の思考の狭さを思い知った。




 そうか。


 ベルトラン様がマリルー王女殿下との縁を望むなら、士官学校を卒業された時に近衛を希望した方が、ずっと近道だったということよね。




「そういうこと。で、ベルトランの思惑は当たって、流石に第二騎士団に所属の騎士に王女を嫁がせるわけにはいかないと、なったわけ。ベルトランは、カルビノ公爵から譲られる伯爵位まで、拒否していたから、尚の事ね」


「あの、それは。ベルトラン様が、伯爵位を公爵家から譲られるのを拒否されたのは、ご自身の力で、その地位を得たかったから、ではないのでしょうか?」


 そこはどうなのだろうと、首を傾げるフィロメナに、メラニア王女がにやりと面白そうな笑みを浮かべて見せる。


「そもそもベルトランは、爵位なんて要らないって言っていたのよ。だから、第二騎士団に居たんだけど。それが、変わったの。急に、近衛に移動したいって。それは、フィロメナも知っているわよね?」


「はい。ベルトラン様は、確かに、第二騎士団から近衛へ移動なさいました。ご自分で希望されたとも伺っております」


 それは知っていると、フィロメナはこくりと頷いた。


 何といっても、フィロメナと婚約してすぐ、ベルトランは近衛への移動を果たしたのだから。


「ベルトランはね、運命に会っちゃったんですって。ね、カルビノ公爵夫人」


「ええ。その通りにございます。メラニア王女殿下」


 ふふと笑みを向けたメラニア王女に、同じくふふと返したのは、ベルトランの母であるカルビノ公爵夫人。


「カルビノ公爵夫人はね、フィロメナ。最初ベルトランに『気になるひとが居る』と言われた時には舞い上がって、次に、その相手が平民らしいと聞いて肩を落としたらしいの。でもね、そのひとは、平民ではなく貴族、しかも侯爵家の令嬢だったのですって」


「気になる女性が居ると聞いて、堅物で面白味の無い三男にもようやくと、嬉しく思いましたの。でも、お相手は平民の方より貴族の令嬢の方が望ましいですから、何とか気持ちを変えてもらおうと、姿絵を見せましたのよ。でもそうしたら、平民だと思われたそのお相手が、実は侯爵家のご令嬢だと分かって。あの時はもう、本当に嬉しかったですわ」


「カルビノ公爵夫人が舞い上がる姿、本当に珍しかったですわ」


 そこにロレンサ王女も参加し、王太子セリオも微笑ましい表情で皆を見ている。




 ええと。 


 ここまでの話を要約すると、その<侯爵家の娘>というのは、私で間違いなさそうだけど。


 ベルトラン様と、平民街でお会いしたことなんて、ないんだけど。


 どうして平民と思われたのかしら?


 つまり、どこかでお会いしている、の?




「仕方なかろう。ベルトランに望む相手ができ、その相手が非の打ちどころのない侯爵令嬢だったのだから。まあ、あのベルトランが『父上、やはり伯爵位をいただきたいのですが。今からでも可能でしょうか』などと、真面目くさった顔で言い出した時は、私も驚いたがね」


「侯爵令嬢と婚姻を結びたかったら、第二騎士団より第一騎士団、よりいいのは近衛だものね。より高い爵位も必要だし。でもまあ、それでマリルーが馬鹿なことを言い出したのだけれど」


 メラニア王女の言葉に、それまで和気あいあいと話をしていた人々が、一斉に遠い目になった。



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