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二十九、登城







「カルビノ公爵夫妻、ロブレス侯爵夫妻。そしてロブレス侯爵令嬢、よく参られた。そして、このように人目を忍ぶように登城させて、すまない」


 フィロメナと両親が、カルビノ公爵夫妻と共に登城し、密かに案内された部屋へ入ってすぐ、王太子セリオと第一王女ロレンサ、そして第二王女メラニアが揃って姿を現し、王太子セリオが代表して謝罪の言葉を口にした。


「王太子殿下。謝罪は不要に願います。私共も、殿下方にお考えがあることは承知しておりますゆえ」


 それに対しカルビノ公爵が即座にそう答え、フィロメナの父であるロブレス侯爵も続いて頭を下げる。


「実は、カルビノ公爵には既に内情を説明しているが、この度ベルトランが特別訓練を修了したことを受けて、父が彼を、マリルーの騎士として発表すると言い出した」


 王太子セリオのその言葉に、ロブレス侯爵が、不快そうに眉を顰める。


「それは。しかし、ベルトラン殿は、我が娘フィロメナと正式に婚約していますれば、不可能なことかと」


 国王が、王女の騎士として発表する。


 それは即ち、その騎士がただひとり、その王女の騎士となること、ひいては婿となることを意味する。


 しかしベルトランは既にフィロメナと正式に婚約しているゆえに、そのような事態は起こり得ない。


 もし、王女と騎士が互いに望むような事態となっても、まずは婚約者の家に話を通し、穏便に婚約を解消して、その後にと、慎重に事を運ぶことが必須であり、国王と言えど、それらすべての手順を飛ばすような勝手なことをすれば、貴族を愚弄したと、糾弾されることは免れない。


「そうなのだが。父はその辺り、どうとでもなると思っている節がある・・ああ、カルビノ公爵夫妻も、ロブレス侯爵夫妻も、ここでは何を発言しても不敬に問わないと約束する。もちろん、ロブレス侯爵令嬢もだ」


 貴族同士の約束、しかも王家も認めた婚約をどうとでもなると考えている。


 そう聞いたロブレス侯爵の目に怒りが宿るのを見た王太子セリオは、先回りをしてその発言の自由を認めた。


「ありがとうございます。では陛下は、我ら貴族の意向など、どうでもいいとお考えでいるということでしょうか」


「有体に言えば、その通りだ。一国の王とも思えぬ愚考だがな」


 ため息と共に言う王太子セリオは、実の親であるがゆえに庇うということもなく、むしろ一番の被害者では思うほど、疲れた表情を浮かべる。


 ここまでの色々な遣り取りで、王太子セリオの、表には決して出さない真の表情というものを見るようになったロブレス侯爵は、父親のような心持ちにもなって、王太子セリオの責任ではないと改めて思った。


 親のやらかしを子が償うとは、何とも理不尽だとも。


「あの。ベルトラン様は、今どこにいらっしゃるのでしょうか?特別訓練の期間は終了したと、伺ったのですが。もしや、マリルー王女殿下のもとに、いらっしゃる、のですか?」


 登城すれば、その姿を見られるかもしれない、少なくとも、何があったかの情報はすぐに得られると思っていたフィロメナは、姿を見せないベルトランが、マリルー王女の騎士に望まれたと聞いて、気が気ではない。


「っ!ベルトランがマリルー王女の所になんて、そんなことは絶対にないわ!」


 フィロメナのその言葉に、カルビノ公爵夫人がすぐさま反応し、フィロメナの前まで素早く移動すると、しっかりとその手を握った。


「フィロメナ!ベルトランは、貴女しか見えていないの!色々、馬鹿な息子だけど、それだけは信じてあげて!」


「カルビノ公爵夫人」


 叫ぶように言い、握ったフィロメナの手を幾度も上下に振るカルビノ公爵夫人の必死な目を、フィロメナはじっと見つめ返す。


「カルビノ公爵夫人の言葉は本当よ、フィロメナ。ベルトランは、不器用だし要領も悪いし、色々間も悪いけど。その実貴女のことしか見えていないし、誠実ではあるから、信じてあげて」


 ロレンサ王女の言葉に、フィロメナは、思い切ったようにその問いを口にした。


「それなら・・ベルトラン様は。では、あの。今、どちらに?」


 ベルトラン本人が望まなくとも、国王とマリルー王女は、ベルトランを婿にするつもりでいる。


 そして、ベルトランは、ここに来ない。


 それがもし、ベルトラン本人の意思で来ないのではなく、来られないのだとしたら。


 そこから導かれる嫌な予感に、フィロメナは身を震わせた。


「ベルトランは今、国王の手の者により、騎士を収監するための塔に監禁されている」


「っ!」


 王太子セリオの言葉に息を呑んだフィロメナは、嫌な予感が当たってしまったと、青くなって首を横に振る。


「そんな・・そんな場所にベルトラン様が」


「ああ、大丈夫よフィロメナ。ベルトランなら、本当はすぐに出て来られるような設備だし、そもそも、ベルトランを捕らえた相手はベルトランより何もかもずっと劣る男で、本来なら、何があってもベルトランが捕まるような相手じゃないから」 


 心配は無用と、さばさばと言うメラニア王女に、けれどフィロメナは首を傾げた。


「ええと。でも、ベルトラン様は、そこに収容されてしまったのですよね?つまりは、相手の方の実力はベルトラン様に劣るとも、すぐ出てこられるとも、陛下のご命令であるゆえに、従っているということではないのですか?」


「ベルトランが大人しくしているのは、父上の(めい)ゆえではないな。私の指示ではあるが」


 王太子セリオがそう言った時、ロブレス侯爵が何かに気付いたように口を開く。


「もしやそこに、我が娘が絡んで来るのでしょうか」


 きらりと光ったその瞳を、王太子セリオがゆっくりと見返す。


「ロブレス侯爵。何か、気になることでもあったか?」


「この数日、娘の近辺で不可思議なことが相次ぎました」


 王太子セリオに、真顔で答えたロブレス侯爵の言葉に、娘であり、話の本人であるフィロメナは、驚き、目を見開いた。



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